一章「ぺたる、異世界で再び魔法少女を(地道に)目指す。」10
カタカタと全身の骨を鳴らして近づいてくる骸骨のモンスター。
「アンデッド……スケルトンか」
ボロボロに刃こぼれした剣とあちこちヒビや割れのある盾を持ってぎこちない動きでこちらを警戒している。
「今度は俺たちにまかせてもらうぞ」
宣言するように言ってアドルたち三人が前に出る。
「……別に、一人でやるなんて言ってない……ただ魔物との相性を考えただけなのに」
オリナが不満そうに言うのをよしよしと慰めるぺたる。年長者の自覚から、荷物持ちの他にパーティーのまとめ役を買って出ようとしているのだ。その姿を見たアドルが言う。
「おかんかよ」
「おかんじゃねーわ!」
擬似迷宮の洞窟を進み、二番目にエンカウントしたのは骸骨の群れだった。ざっと十数体は居るようだ。最初のスライム一匹からは大幅な難易度アップと言える。
よし、行くぞと三人が骸骨の魔獣の集団と向き合う。
「降りそそげ火の精の息吹……スプリットファイアボール!」
アドルの火系魔術で生み出された小ぶりの火の玉が一斉にスケルトンに飛び、相手の体に火をつける。
ぼうっと小さく音を立てて一度目の印が刻まれるが、火はすぐに消え、骸骨たちは気にせずに襲ってくる。
「うわっ、ダメージとかないのかよ!」
イーズが素早く呪文を唱え、魔術を発動する。
「貫け、大気より生まれし水の槍よ……ウォータースピア!」
宙に浮かぶ、尖った水の塊がバラバラとスケルトンへ飛ぶ。二度目の魔術的印がつけられたスケルトンは、やはり何事もなかったように襲いかかってくる。
「オラアッ!」
アドルが魔術付与された木刀を振るう。右に左にと連続して攻撃し、正面の敵に脳天から刀を振りおろす。
三度目の印が付けられ、音もなく消えて行く骸骨の魔獣。イーズが再びウォータースピアを放ち、まだ二度目の印だった敵にもう一撃を加える。そうして半数以上のスケルトンが消えた。アドルが骸骨の中に突っ込み、刀を振るう。三回の攻撃判定になった骸骨が次々と消えて行く。
攻撃を逃れた数体がカタカタと骨を鳴らしながら後衛のぺたるとオリナに襲いかかる。
「隆起せよ大地の盾……グラウンドウォール!」
ウガンの土系魔術がダンジョンの地面を盛り上がらせて大きな壁をつくり、スケルトンの攻撃を防いだ。
「大いなる地よ、その力を悪しきものに向けて爆ぜよ! グラウンドエクスプロージョン!」
地熱を発して起きた爆発でスケルトンが吹っ飛ぶ。地面に叩きつけられて三度目の攻撃になった骸骨は消えていく。二度目のダメージだった相手にイーズのウォータースピアが飛び、アドルは刀を振り回してトドメをさしていった。
「よし、片付いたな!」
魔術付与の木刀を肩に担いでポーズをとるアドル、その後ろでポーズを決めるイーズとウガン。背景がCGになりそうな画である。
「さあ進もうぜ!」
三人を先頭にパーティは更に擬似迷宮の奥へと歩を進める。
「な、なかなかやるじゃない……」
オリナが小声で悔しそうに言うのを、ぺたるだけは聞き逃さなかった。
「まあまあ。パーティーでクリアできればいいんだから。チームプレイよ」
ポンポンとオリナの肩を叩く。わかってるわ、と彼女はその手を払い、
「今の戦闘で攻撃を受けた人は? 治癒魔術で消せるはずよ」
こちらも魔獣からの攻撃(のフリ)を受けた場合、魔術的な印が付けられてそれが三つでアウト、迷宮から強制退場となる。その印を消せるのはオリナの治癒魔術と
大丈夫だと三人とも答える。いくら授業の模擬的なものとは言え、あれだけの数の魔獣を相手に、初戦で無傷とは……。ぺたるは三馬鹿を見直す思いだった。
更に擬似迷宮の洞窟を奥へと進む。
「どうやら、ここがゴールみたいだな」
洞窟の奥に、ささやかな装飾のされた木製の扉があった。その前で身を屈めて低く唸り声をあげる炎のトカゲ、あるいは竜の魔獣がこちらを睨んでいた。
「サラマンダーね」
ワニくらいの大きさで、黒い鱗が全身を覆っている。背中の部分が熱を持ったように赤く光っている。ふつふつと体内でマグマのように炎が渦巻いているようだ。まだ子どもね、と体長から判断して言う。
「さっきは貴方達が戦ったから、今度は私の番」
と、オリナが前に出るのをアドルが止める。
「ちょ、ちょっと待てよ。勝手にそんなのズルいぞ」
アドルの言葉にオリナはやれやれとため息をつき、
「貴方も子供ねえ。順番よ順番」
「そんなのいつ決めたんだよ! 最後の敵なんだからみんなでやればいいじゃんか」
「アレが最後だって、なぜわかるの? 扉の向こうにまだ居るかもしれないじゃない。ここで四人が傷ついて、最後の敵にやられたらどうするの。まだ全員で戦うべきじゃない」
ナチュラルに戦力外通告されたなー、と密かに傷つくぺたる。
「いや、だってサラマンダーって火属性の魔獣だろ? おまえ雷じゃんか」
火と雷は相性が悪いわけではないが、やはり火には水系統の魔術が効果的だ。
「お前って言わないで。じゃあこうしましょう。私とイーズ君でサラマンダーを倒す。二人はその後の敵に備えて後方で待機。私の雷は水魔術と組み合わせると強力だし。ねえ、いいでしょう?」
とイーズを直接誘うのを手を広げてアドルが止める。
「イーズは俺たちのなかまだぞ! おまえ勝手に引き抜くなよな!」
「お前って言わないで!」
まあまあまあと二人の間に割って入るぺたる。ここはやはり年長者たる自分が仕切らねばなるまい。てかむしろわたしが実質的なリーダーなのかも。
「わたしが良いもの持ってるからさ、これで決めよう」
自分の持ち芸……もとい、
「実はわたしコイントス得意なんだよねー。いい? 表か裏か先に決めといて、投げて出た面を選んでいた人が勝ち。わかる?」
じゃあいくよー、とコインを親指で弾こうとしたぺたるの視界の隅で魔獣が動いた。
しまった、いくら本当の戦闘じゃないとは言え、魔獣の鼻先でのんびりし過ぎたか。
ゴアアアァァァ! と吠えたサラマンダーの口から炎が噴き出す。
「いでよウォータープロテクト!」
とっさに簡易詠唱で発動させた水の盾で炎を防ぐイーズ。
「あ、ありが……」
礼を言いかけたぺたるの目の前でサラマンダーがイーズに襲いかかり、左の肩の肉を食いちぎった。
「あがぁぁぁっ! 痛えええ!」
傷を押さえて膝を折るイーズ。再びサラマンダーが襲ってくるのをウガンのグラウンドウォールが防いだ。
「離れろ!」
アドルが木刀を構えてサラマンダーを威嚇し、他の四人を下がらせる。
「ちょ、ちょっと……どういう事……? これ、授業なんじゃないの……?」
呆然としているオリナにぺたるが声をかける。
「しっかりして! イーズに治癒魔術をかけてあげて!」
自らはアンリミテッドラゲッジの中から救急セットを取り出して、ガーゼでイーズの傷口を押さえて止血する。魔術で役に立てない分、他で頑張ろうと勉強しておいた応急処置がこんなに早く役に立つとは。
「血は止まったみたい。とりあえず傷口はふさがったと思う」
治癒魔術を終えたオリナが言う。
「それにしても……」
魔術付与した木刀と土の壁で、サラマンダーの攻撃を防いでいる二人の背中を見ながらぺたるは言う。
「一体、どうなってるの……」
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