一章「ぺたる、異世界で再び魔法少女を(地道に)目指す。」8

 それから数ヶ月が経った。

 この世界は、四季があまりはっきりとしていない。割と寒いな、皮革や毛織素材の服を着ようかな、というライトな冬の季節があり、最近結構暑い日もあるよな、麻とか薄手の半袖着ようかな、というライトな夏の季節があり、それ以外はめっちゃ快適というまったりとした気候である。

 そんなまったりとしたライトな冬が終わり、寒さの緩んだ季節のある日。

「いよいよ今週から校外実習が始まります」

 『基礎魔術実践』の担当教師であるリカルディが一年生の生徒に言う。

 入学して半年で初めて実践、というより『実戦』で魔術を学ぶのである。数人のグループに分かれて学園の外、街の外れにある擬似迷宮ダンジョンで行なうそれは、魔獣を専門家が完全に飼いならして家畜レベルにしたものを、隅々まで安全を確認した人工洞窟に配置した、初心者向けの訓練だ。

「では五人か四人でグループをつくって下さい。これはただの班ではなく、ダンジョンにアタックするためのパーティーです。攻撃、防御、治癒など得意な魔術をバランス良く組み合わせないと良い点数は出せませんよ」

 その言葉に従い生徒たちはグループを作り出した。元々の仲良し同士が集まることが多いが、その中に必要な魔術……例えば前衛の火力が欲しいと思えば攻撃力のある魔術を得意とする生徒に声をかけたり、グループ同士でメンバーを入れ替えてバランスをとったりして擬似迷宮に挑むパーティーが結成されていく。

「ねえカークロゥくん、一緒にやらない?」

「いやいやうちのグループに入ってよー」

「何言ってんのウチでしょ!」

 水晶球による判定で類まれな魔術の才能が明らかになったカークロゥはその後の授業でメキメキと実力を伸ばし、今や学年トップの実力者だった。相変わらず身体の発育は遅いが、逆にそれが可愛いと女子からの人気も高い。

 実力のある者は黙ってても誘われるし、元々仲良しならグループができているわけで、数十分のうちにほとんどの生徒がどこかの班に収まった。

 そうだよね……誰だって自分が可愛いもの……。わたしみたいな落ちこぼれのオバサンが入るグループなんてないんだ……。

 大した実力もなく、クラスでやや孤立しているぺたるはどこの班にも入れずに世をはかなんでいた。

「なんだよしょーがねーなー。入るとこないなら入れてやってもいいぞ」

 アドルたち三人が上から目線で声をかけてきた。

「い、いいの……?」

 思わず涙ぐみそうになるぺたる。予想外の反応にアドルは若干うろたえつつ、

「……お、おう。ペタルは肉体強化使えるんだろ。オレはほら、魔術剣士めざしてるからな!」

 アドルは魔術と剣の二刀流で戦う戦士を志している。物理的な戦闘術と魔術の両方を修得せねばならず、しかも戦い方も独特なものになるため志望する人数が少ない稀少職レアクラスだ。格闘戦で戦うため肉体強化魔術は相性がいいのである。

「うん、肉体強化はそんなに上手くないけどね……」

 正直に言えば、一応使えるというレベルである。

「ペタルは荷物持ちだもんなー」

 イーズが茶化すように言う。

「キャリアーって言ってよ。これだって実際に遠征したり、それこそダンジョン入るってなったらめちゃくちゃ有効な魔術なんだからね!」

 ぺたるは空間系魔術にもっとも適性があり、異空間に物を収納して任意に取り出せる魔術『無制限収納アンリミテッドラゲッジ』を習得している。これはぺたるの微量な植物並みの魔力で発動できるのである。リカルディいわく、異空間を感知して手を伸ばしているだけで発動できてしまうほどの、天賦の才能と言えるほど向いている魔術であるらしい。肉体強化魔術もリカちゃん先生の個人授業のお陰で何とか使えるようになっているが、クラスは何かと言われれば本職は荷物持ちである。

「あ、ねえ。彼女も誘ってもいいかな」

 学園の中庭の隅でまだ一人で居るオリナの姿を見て言う。

「えーアイツうるさいからなー」

 アドルたちは難色を示す。確かに彼女が三バカのやらかす事に小言を言っているのをよく見かける。大げさに言えば天敵、犬猿の仲ではある。

「でも彼女、治癒魔術使えるのよ。いざという時頼れるじゃない」

 まぁ確かに、とアドルたちも納得してうなずく。

「ねえオリナさん、わたし達のグループに入らない?」

 同じ女子ということでぺたるが代表して声をかけた。

「……いいけど」

 何かめんどくさいツンツンセリフでも言うかと思ったが、意外にあっさりとうなずいた。このままでは自分が完全にあぶれてしまうのがわかっていたのだろう。

「よーし、じゃあ頑張ろうぜ!」

 アドルが火系統魔術と剣で戦う前衛アタッカー、イーズは水系統魔術の前衛アタッカー、ウガンは土系統魔術を使い、攻撃もできる防御メインの前衛ディフェンス。オリナは雷系統魔術で遠距離攻撃もできる、治癒魔術を使える後衛サポート。そしてぺたるは(一応)肉体強化魔術で前衛をサポートする荷物持ち《キャリアー》というパーティー構成である。


「ここかぁ……」

 『迷宮』の入口を前にしてぺたるは思わず本音を口にした。

「なんか、普通の洞窟だよね」

 王都の外れ、魔術学院からも離れ、人々の暮らす住居や商店の集まるエリアからも離れた、ひとことで言うと何も無い場所に『ダンジョン』はあった。

「だなー。そのへんの穴と変わんないな」

 アドルも同意の言葉を漏らす。うんうんとイーズやウガンもうなずいた。

「天然の洞窟に手を加えて、飼いならした魔獣を入れて作ったんだから、見た目がただの洞窟なのは当然」

 オリナが言う。

「ちなみにダンジョンは、こういった洞窟に魔獣が住み着いて出来上がったものと、強力な魔術で作られた建造物が迷宮化したものがある。昔の魔術師が作ったものはその後も魔獣をおびき寄せて魔力を高め続けるから非常に危険」

 色々知ってるなあ、と思いつつぺたるは擬似迷宮の入口をにらみ、後ろの四人に声をかける。

「じゃあみんな、行くよ!」

 なんでペタルが仕切るんだよ、と四人は思ったがとにかく、迷宮攻略ダンジョンアタック開始である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る