一章「ぺたる、異世界で再び魔法少女を(地道に)目指す。」 4
「……なるほど事情はわかりました。その決断をした気持ちも理解できます」
ぺたるはとりあえず詳細は省いて、一緒に悪と戦っていた仲間を救うために自分の存在を無かったことにしてもらったと説明すると、リカルディは渋い表情ながらも頷いた。
「わ。リカちゃん優しいー!」
ぺたるの言葉に、ガバと顔を上げるリカルディ。
「はあ? 今なんと? てかリカちゃ……ん?」
だってリカルデントって長いんだもん、とぺたる。
「いえ、優しいとかそういう問題ではないのです。それとリカルディです」
まだ話を続けても大丈夫ですか、とぺたるの身体を気遣うリカルディに、やっぱり優しいじゃんと思いながら頷く。
「召喚の儀は聖堂に集まった全員が同時に行ないます。外世界で自分以外のために戦う勇者と、心を通わせられるように祈るのです」
「じゃあ、あの人たちみんなが祈って、リカちゃんだけ成功したってこと?」
ええ、と頷く。
「半年に一度の儀式ですがほとんどが成功せずに終わります。私もまさか自分が成功するとは思っていなかったのです」
それでか、とあの場に居た人たちのリアクションに納得する。
「そもそも、我欲でなく誰かのために命がけで戦っている人が不幸にも命を落とし、女神様に認められて新たな命を得る事など、非常に稀少な事なのです」
そうなんだろうなぁとぺたるは他人事のように思う。
「更に、喚ぶ者と応える者の相性のようなものがあるらしいのです。異なる世界の者同士の気持ちが繋がり、教会の奇跡の力と女神様の慈悲があって初めて成功する……勇者召喚とは斯様に、とても得難き事なのです」
両手を組み合わせ、天に向かって祈るように言う。
「確かに。あれだけ人数居て、一人しか成功してないんだもんねー」
ぺたるの言葉にリカルディは、王都以外の教会でも同時に儀式は行われているので実際は倍以上の人数だと告げる。
「ふえぇえ、それでわたしかー。なんか申し訳ないなぁ」
他にいなかったんかい、などと心中思う。
「召喚の儀で勇者となる者を喚びよせた信者は、導き手と呼ばれる勇者のパートナーとして、責任を持って全てのサポートをします」
導き手というのがリカルディで、勇者……になれるかどうかは怪しいけど、それが自分の事だなとぺたるは理解する。
「えと、使命っていうのは」
勇者の使命と言えばもちろん、とリカルディはぺたるの目を正面から見た。
「魔王を倒す事です」
「魔王かあ」
「魔王です」
ぺたるの脳裏に、頭に角をはやして目が赤く光った黒い影が浮かぶ。ベタな魔王のイメージである。何ならフハハハとか笑ってそうである。
「いやムリじゃないかなあ。わたし今は普通のJCだし」
「ジェイシィ?」
スラングがうまく翻訳されなかったらしい。
「ええと女学生」
なるほど、とリカルディは顎に親指をあてて考える。
「先程も言いましたが」
どこか開き直ったような表情。
「外世界の人は、我々の常識では測れない面がありますので……本人も知らない隠された能力が、ある日突然目覚めるかも」
そうかなあ、とぺたるが首をひねっていると、
「私はあなたの導き手です」
胸に手を当てて言う。
「さっきも言ってたよね」
「ええ。導き手になった以上、交代することも辞めることもできません。あなたが魔王を倒すか、あるいは命を落とすまで傍に付き添い、導く義務があるのです」
うわめっちゃ重いじゃん、とぺたるは思う。
「つまり」
リカルディは小さく息をつくと、
「もう一蓮托生なのです」
重いなあ。
「私の見たところ、人並みの魔力はあるようですのでとりあえず魔術の勉強をしてもらいましょう。それでモノになればあるいは」
ダメ元ってことか。
「期待値低くない?」
さすがに悲しくなるぺたる。
「だって普通の女学生なのでしょう?」
そうだけどさ。微妙に納得いかない表情を見てリカルディは表情を緩めた。
「ペタル。あなたは自信がないように見受けられますが、それでも勇者召喚でこの世界に来た。これは神のご意志なのです。たとえ自覚がなかろうと、戦う力がなかろうと、あなたがここに居る意味は必ずあります。そして勇者は、魔王を倒すのです」
はっきりと言い切った。リカルディは目の前の少女ではなく、神を信じてそう言ったのだ。
(まあ、勇者候補のままで終わるかもしれないけど……むしろその可能性が高そうだけど……)本音はそうだったが、あまり本人のモチベーションを下げるのも良くない。
「では、すぐに転入の手続きをとります。入学からひと月遅れくらいになりますが、まあ問題ないでしょう。手続きが済むまで何週間かの間にこの世界の事や魔術の事、最低限の知識をみっちりと教え込みます。明日から忙しくなりますので」
リカルディのその言葉どおり、翌日からは多忙を極めた。そのまま教会の部屋をとりあえずの宿とし、詰め込み式の猛勉強でこの世界の一般常識を頭に叩き込まれた。
王都の街に出て人々とふれあい、どこか辺境の田舎から出てきたばかりの世間知らずと思われるくらいにはこの世界に馴染めるようにした。髪型や服装なども違和感がないように。
人種はリカルディのような白人種が多かったが、黒髪や肌の黒い人、アジア系のような外観の者など雑多であるらしく、ぺたるのような純粋な日本人が紛れ込んでも違和感はなかった。
「そう言えばさ」
ぺたるは思いついて訊いてみた。
「人間以外は、居ないの? エルフとか」
アニメやゲームだといわゆる異種族というものが出てくると思うんだけど……と、ふんわりした知識からの疑問だった。数日街に出てみても人種は違えどヒューマンしか見かけなかった。それが王都だからなのか、それとも。
「……居ません。現在、この大陸には。人間、動物、魔獣だけです」
リカルディはどこか含みのある言い方で答えた。
「ふうん。じゃあ昔は」
続けて疑問をぶつけようとしたぺたるに、リカルディはそんなことよりと声を張る。
「そんなことより! 大事なのは魔力、魔石、魔獣。そして魔術です」
腰に手を当てて、教師のような口調で、おわかりですかと言う。
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