プロローグ2/3『魔法少女隊プリティ☆ブルーム』第十三話「わたしたちはプリティブルーム失格!? 謎の魔法少女あらわる!」
「わたし、桜川ぺたる! お花が大好きな、どこにでも居る平凡な中学二年生! ……だったんだけど、フラワーランドから来た妖精モモンと出会って、お友達のモネちゃん、ひまちゃんと一緒に魔法少女プリティーブルームに変身して悪の組織ウィーザードットコムと戦うことになっちゃったの!
クラスのみんなに正体がバレそうになったり、プールが油田になったり体育祭が戦国武将の合戦になったりして毎日大変だけど、今日も頑張ってみんなのハートフラワーを守るよっ!」
きらーん、とウインクを決める毎回お決まりのイントロダクションに続いて、普段通りの朝の登校風景。ぺたる、萌音、ひまわりの三人が自転車を押して歩いている
「でさー、その動画にコメントしたら返信きたのー」
ひまわりの話にぺたるがえーすごーいとか言っているのを聞き流している萌音。ぺたるのスクールバッグに付いているピンクのモモンガのキーホルダーはモモンが擬態したものだ。いつウィーザードットコムが攻めてきても対応できるように、学校へもついて来るようにしているのである。
同じ制服を着た生徒たちと一緒に列になって校門をくぐる。
「あ、ゴルシスだ」
ぺたるが言うのは数メートル先を歩いている、目立つ二人の女生徒のことである。さらさらと音を立てて流れるようなシルバーのストレートロングヘアーの清楚系美少女が
三年生のゴールドシルバーシスターズ、略してゴルシス。姉のノエルは生徒会長で弓道部の部長。妹のりあむは女子サッカー部のエースストライカーで全国大会出場経験あり。両者ともに成績優秀で家はなんかめっちゃ金持ちという、絵に描いたように完璧な姉妹である。周囲の生徒たちの注目が集まるのも当然と言える。
「二人とも綺麗だよねえ……目の保養だあ」
ぺたるは距離から考えて聞こえないであろう声量でつぶやいたつもりだったが、その時ゴルシスの二人が振り向いてこちらを見た。偶然かもしれないが、三人を見て、そのまま興味なさげに視線を逸らしたのだ。
「ちょっと、聞こえたんじゃない?」
萌音が気にしたのは、二人の視線に微かに敵意のようなものが混ざっていたように感じられたからだ。
「まさかー。こんなに人がいるんだから偶然だって」
そうそう偶然だよと教室へ向かう。もし聞かれたとしても悪口を言ってたわけでもないし……
大きなタコの形をした滑り台の頭頂部に立つ男の姿があった。人のように見えるが、ヒトではない。
「プリティーブルーム……オレの出世の邪魔をするヤツらは排除してやる!」
先週ネグサレ係長に代わってこの地区の担当になり、早速ぺたるたちプリティーブルームに敗れたネコソギ課長である。光沢のあるパープルのスーツの上に真紅のマントを羽織っている。
「さて……なにかモットカリトールの素材になりそうなものは……っと! 足元のこれはまさに! 数えきれないほどの子供達の思い出というエナジーが溜まりまくっているじゃないか! まさに、灯台下暗し!」
ひとしきり一人で興奮してしゃべり散らかしたネコソギはふう、と息をつくと一つ咳払いをして、
「出でよ、ダークハートエナジー! カムヒア、モットカリトール!」
手に持った黒いハート型の器具をタコの滑り台に叩きつけるようにすると、大きなコンクリート製のタコは巨大な怪物へと変化する。
「モット、カリトォォォォル!!」
タコ型の怪物は空に向かって吠えた。
「さあ行け、モットカリトール! 町中の人間のハートフラワーを全て刈り取ってやれ!」
……まあ、また奴らが現れて邪魔をするだろうがな。
ネコソギは心中呟く。何しろ前任者の時も毎週そうだったから流石にそれは織り込み済みである。だがむしろ望むところだ。あんな奴らに負けたままでは済まさない。負けたら次は勝つ。勝つまでやれば絶対に負けないのだ。
「ひまちゃんモネちゃん、お昼食べよ〜」
昼休みの教室。給食がない弁当持参の日は席を移動して好きにグループを作って食べるのが慣例となっている。
「モネちゃん?」
萌音が窓の外を見て眉をひそめていた。
「ねえ……あれ、そうよね?」
あれ? 萌音の指さす先を見ると学校から離れた山の上の公園で何か赤い大きなものが動いていた。小さくカリトーォォル、という声が風にのって届いた気がした。
「……だね。お昼はあきらめるしかないか」
言いながらひまわりが自分の弁当箱を開けて玉子焼きをひとつ口に放りこんだ。
「あ、いいなー。わたしも!」
ぺたるも自分の弁当箱をあける。メインのミニハンバーグをつまみ食い。
「やっぱりウインナーはタコさんになってないとねー」
ひまわりが二品めに手を出す。
「ちょっといい加減にして。食べてないで行くわよ!」
萌音にせかされて口いっぱいにおかずを詰め込んだぺたるとひまわりも教室を飛び出す。どうしたの、とクラスメイトに聞かれるのを適当に誤魔化して廊下へ。教師に見つからないように校外へ出た。
周囲を見まわし、人が居ないのを確認して三人は魔法少女に変身。
「さあ行こう! 昼休みの間に戻ってこないと」
ぺたるの言葉に頷く二人。地面を蹴って走り出す。
人間離れした跳躍力で山を駆け上がっていく三人の魔法少女を物陰から見ていた二つの人影があった。その顔は影になっていて見えないが、ぺたるたちと同じ咲矛中の制服姿の女生徒であることだけはわかる。
「……」
無言でしばらく見送ったあと、謎の二人も後を追って移動を開始する。
「こらあ! 止まりなさい!」
プリブルの三人が、山を降りていくモットカリトールの前に立ちふさがる。
「出たな、プリティーブルーム! 今日は前回のようにはいかんぞ!」
小型の宙に浮くバイクに乗ったネコソギが言う。
「みんな、注意するんだもん! きっと何か秘策を用意してるんだもん!」
謎の力で宙に浮くモモンの言葉に頷く魔法少女三人。
「よーし! 町に出るまえに片づけよう!」
はあああああっ、とタコ型の巨人に飛びかかる。それぞれキックやパンチで攻撃するが、タコの八本の足で弾かれる。
「こっちの攻撃が届かないよ〜」
「あの足をなんとかしないとダメね」
よし、とブルームサクラ。
「わたしが相手をひきつける! スキを見て攻撃して!」
ちょっと待って、とブルームアネモネが止めるより早くサクラは飛び出す。
「フラワーエナジーチャージ! サクラスピアー!」
宙に舞う桜の花びらが集まり、サクラの手の中で一本の槍になる。パシッと音を立てて握ると、小さい花びらの形の光が舞うギミック。
「はああああああっ!」
サクラスピアーを構えてまっすぐにモットカリトールに突貫する。
「モットー!」
タコ足がサクラの胴体を巻きつけて捕える。
「わっ!」
「カリトォォォォォォル!!」
そのまま高速回転。
「わああああああああああああああああ!!」
漫画的表現でいくつものブルームサクラの顔が円状に並ぶ。
「サクラ!」
ブルームアネモネが助けに入ろうと花の形の光の盾、アネモネシールドを出現させる。その横をブルームサンフラワーが敵に向けて走っていく。
「おりゃああ!」
「ちょっ……」
サンフラワーは思い切りジャンプして回転しているモットカリトールの上から攻撃しようとする。
「ちょっと待ちなさい!」
慌てて飛びつき、アネモネシールドでサンフラワーの攻撃を止める。
「何すんのさー」
不満げに言うサンフラワー。
「何すんのじゃないわよ! 何やってるのあなた」
アネモネの言葉に、えーだって隙をみて攻撃しろって……と不貞腐れるサンフラワー。
「あれが隙だと思うなら、あなたの頭の中が隙だらけだわ」
深いため息と一緒に吐き出す。
「ちょ、さすがにヒドくない?」
二人が不毛な言い争いをしている間もタコの巨人は桜色の魔法少女を振り回し、そして勢いをつけて放り投げた。
「あぶないんだもん!」
モモンの注意も間に合わず、完全に目を回しているサクラが二人にぶつかり、三人総崩れになる。
「みんな、しっかりするんだもん! このままじゃヤツらが街に出てしまうんだもん!」
痛みを堪えて立ちあがろうとする三人の前、モットカリトールとの間に二人の人影が割り込むように立った。
「え……」
魔法少女三人とモモンは目を疑った。
フリルとプリーツの多用されたゴシック調のロングドレスの衣装はそれぞれ銀と金をメインにした豪奢なもの。腰より長いロングヘアも目の色も、明らかに魔法少女のそれだった。
「……情けない」
銀色の魔法少女が苛立つように小さく言ったのをアネモネは聞いた。
「そこで大人しくしてろ。これ以上進ませると厄介だからな」
金色が言い、大きく跳躍する。その動きをモットカリトールはタコ足を伸ばして追う。
その隙をついて銀色が身をかがめ、タコの胴体の下に潜り込む。
「シルバーブルーム……」
力をチャージするかのように溜めをつくり、
「インパクト!」
目も眩むような銀色の光が爆発的に発生し、タコの体が真上に吹っ飛ぶ。
「何い!」
ネコソギが思わず声をあげる。
打ち上げられたタコの上には金色の魔法少女が待ちかまえている。
「やあ、待ってたよ」
手のひらに光の球が現れると、それを軽くトスするように放る。そして空中で体を回転させると、
「ゴールドブルーム……」
魔力をチャージするように溜めを作り、
「インフェルノ!」
サッカーのバイシクルシュートのように金色に光る球を蹴り出す。それは一直線にモットカリトールへ向かい、そのまま轟音をあげて地面に叩きつける。
ブルームって言った……言ったよね……言ったね……ざわ……ざわ……三人のプリティーブルームがざわつく。
巨大タコが地面に激突する前に横へ逃れていた銀色の魔法少女は手に弓状の武器を構えていた。
「マキシマムチャージ! シルバーブルーム……」
再び溜めを作り、
「……アルティメイトインパクト!」
銀色の光が目にも止まらない速さでタコを貫く。一瞬遅れて巨大タコは風船が破裂するように爆発霧散した。
「な……な……」
目の前でモットカリトールを処分されたネコソギが唖然とした表情で言う。
「何すんだ! 横から突然出てきて邪魔すんな! ていうかお前ら誰だ!」
金色と銀色の二人は並んで少し斜めを向いた姿勢で、フンと鼻を鳴らして
「弱いやつに名乗る名前はないよ」
「そういうことね」
思いきり見下すようにそう言った。
「よ、弱いと言ったな! ふざけんなこの×△□が!! 今回は油断しただけだ! 次はケチョンケチョンにしてやるから覚悟しとけよコラ!」
額に青筋を浮かべてまくしたてたネコソギはそのまま謎のパワーで姿を消す。
悪役がやられた後で姿を消す能力って実はすごいんじゃないかと内心アネモネが思っていると、金銀の魔法少女がサクラたちの方を向いた。
「今までよく頑張ってくれたわね」
銀色が女神のように優しい笑顔でそう言った。
「ああ。本当によくやってくれた」
金色もイケメンな笑顔でそう言う。
やだ、好きになっちゃう……とかサクラたちがキュンしていると、二人の表情からスーッと笑顔が消えた。
「その程度で本当に、よくやってくれた」
「ええ。奇跡のようなものですわ。よく今日まで生きていられたと思います」
二人の目にははっきりとした侮蔑の色が浮かんでいた。
「まあ、その奇跡に感謝するんだな。でももういいよ、あとは私たちが引き受けるから」
「ええ。もう普通の暮らしにお戻りなさい。分をわきまえるというのは美徳よ」
シッシと追い払うように手を振る。
「ちょっと待つんだもん! ぺたるたちの心の強さは誰にも負けないんだもん! それはモモンが保証するんだもん!」
短い手をバタバタさせながらピンク色のモモンガが言うのを、鼻で笑う声がした。
「ハッ。キミが保証したところで何もならないと思うけどね?」
いつのまにか金銀のすぐ横に浮かんでいた白いモモンガ……いや、ムササビだ。
「ムササシ!? 生きてたのかもん!」
モモンの言葉に薄笑いを浮かべたムササシと呼ばれた白い妖精は、
「それはこっちのセリフだよ。ウィーザードットコムの襲撃を受けて防衛戦に出た僕らフラワーナイトはキミたち見習い騎士まで守ってあげられなかったからね」
「……」
バツが悪そうに無言になるモモン。
「気にすることはないさ。自分が危険になったら逃げるのは当然だ。よかったじゃないか、生き残れて」
無表情で言うムササシ。その額から左目にかけて大きな傷跡が残っている。
「ちが、違うんだもん! モモンはフラワーランドの復興のために」
言い募るモモンの言葉をヒラヒラと短い手を振って遮り、
「だからいいって。あとは僕たちに任せて大人しくしてなよ。さっきの戦いで分かっただろう? キミたちはもうお払い箱だ。今まで繋ぎの役目を果たしてくれてご苦労様」
ふう、と小さく息をはき、
「念の為に言っておくけど、今後はムダな手出しはしないでくれよ? 弱い者は守られるべきだ。下手にしゃしゃり出られるとかえって迷惑だってこと、わかるよね?」
な……な……
じゃ、と言い置いて姿を消す金銀の魔法少女と白いムササビの妖精。
「なんだとコラアアアア!」
ひまわりが全力で吠える。その声はただ虚しく山の中の何もない空間に響いた。
「けど、すっごい強かったよね」
ぺたるがイチゴ牛乳を飲みながら言う。確かにね、と頷く萌音はお弁当を広げている。5時間目のあとの休み時間、学校の階段下にある謎スペースに集まっている三人と一妖精。
「いくら強くたってさ! あんな失礼なの許せないよ!」
いまだに怒りの収まらない様子のひまわり。今月のお小遣いがもうないのでドリンクはなし。
「けど実力に裏付けられた言葉だからね」
ボソッと呟くように萌音が言う。謎の二人が手早くモットカリトールを倒したので意外に早く学校へ戻って来れた。そこから何やかんや文句を言いながらぺたるとひまわりは一気に弁当の残りを片付けたが、萌音はそんな気分になれず、今お弁当を広げているのである。
「…………」
一同無言になってしまう。明らかに自分たちよりも強いあの二人の言うことには一理あるとは思ってしまったのだ。
「ま、まあ……初登場のキャラはたいてい強いんだもん」
モモンがあるあるで場を和ませようとするが、
「あのムササビと知り合いなの?」
萌音は真剣な表情で気になっていた事を訊く。
「ムササシとはフラワーランドで一緒に騎士学校に通っていた幼馴染なんだもん……詳しく話すと尺が足りないけど、昔はあんなヤツじゃなかったんだもん」
それで、と萌音が一同を見回す。
「どうするの、これから? あの二人に任せて私達はもう引退する?」
そんな、とひまわりが言いかけたが口を閉ざした。自分たちよりも明らかにあの二人の方が強い。それは確かなのだ。
「……悔しいけど、ボクたちもう必要ないのかも」
うつむくひまわり。萌音はそれに無言で頷く。
「そうかな?」
ぺたるの言葉に一同は顔をあげる。
「確かに強かったけど、最後モットカリトールを壊したよね、あの二人」
一同、ハッとした。
「そうだもん! モットカリトールを破壊したら素材になったものもなくなるし、ハートフラワーを枯らして奪われたハートエナジーも戻らないんだもん!」
今回は人が襲われる前だったから被害は公園のタコの滑り台だけだが、今後はそうはいかないだろう。
「ぺたるたちのシャイニングフラワーシンセシスは必要なんだもん!」
そうだそうだと盛り上がる一同。
「でもさ、どうする? 最後だけやるからお願い、ってわけにはいかないよね」
ひまわりがいんげんの肉巻きを食べながら言う。
「それは当たり前……ってなんで私のお弁当食べてるの!」
「食べないからいらないのかなって」
「あんなシリアスな雰囲気で食べられるわけないでしょ!」
言い争う二人をまあまあとぺたるがなだめる。
「早く食べないともう休み時間終わるよ」
時計を見て慌てる萌音。それを意味ありげに見つめるぺたるとひまわり。
「……いいわよ、良かったら一緒に食べて」
やったー、と三人で弁当箱を空にする。
「急ごう! 数学の磯村先生厳しいから!」
教室へ向かってダッシュ。キーホルダーに擬態してぺたるのスカートのポケットに納まったモモンは思った。この三人はもっともっと強くなる、あの二人にも負けないくらいに。そして五人で魔法少女隊になれたらどれだけ強い敵があらわれても負けないだろう、と。
「そうしたらムササシ……お前は昔みたいに笑ってくれるのかもん……」
一週間後。ネコソギ課長は『さきほこ幼稚園』の園庭に居た。
「フフフ……自我の目覚めはじめたばかりの若い心に芽吹いたハートフラワーを刈り取ってやる……そう、これこそが青田買いというもの……」
いつもの紫のスーツにマントを羽織ったスタイルで片手を顔を隠すように当てたポーズをとったネコソギはほくそ笑むようにそう言った。
「あのー、保護者の方ですか? 勝手に入られては困るんですけど」
保育士の一人が恐る恐る声をかけるが、ネコソギはまるで耳に入らないように
「さて、例によって何か良い素材は……と、ああこれでいいか」
砂場で園児がつくっていたトンネル工事中の山に、黒いハート型のサムシングをあてがう。
「出でよ、ダークハートエナジー! カムヒア、モットカリトール!」
砂山が邪悪なエナジーを得て巨人となって立ち上がる。
「モットカリトーォォォォル!」
モットカリトールの目が光り、その光に照らされた園児や保育士たちの目からハイライトが消える。
「よーし、その調子でどんどんハートフラワーを刈り取ってやれ!」
その頃。学校の授業中にキーホルダーに擬態しているモモンが動き出した。トントン、トントン、と事前に決めておいたようにスクールバッグを叩く。
「せんせー!」
勢いよく立ち上がるぺたる。
「トイレ行ってきます!」
はい、と頷く数学教師に、萌音とひまわりも手を挙げる。
「すみません私達も、お腹の調子が!」
はいはい行ってらっしゃいと手を振る教師に一礼して三人は教室を飛び出す。校舎から出てすぐにハートスプリンクラーにポーリンジュエリーをセットする。
「ハートスプリンクラー、グルーミングアップ!」
三人が頭上に掲げたジョウロから七色に輝く光が溢れる。それは彼女たちの体を包み、魔法少女へと変身させていく。背景はキラキラと光り輝く不思議空間。
「みんなの心にサクラサク! 希望に咲く花、ブルームサクラ!」
「みんなの心をヒーリング! 癒しに咲く花、ブルームアネモネ!」
「みんなの心にサンシャイン! 陽だまりに咲く花、ブルームサンフラワー!」
三人が並んでポーズをとる。
「魔法少女隊、プリティ☆ブルーム!」
…………。
「さ、行こっか。遅くなると先生に怒られるし」
そだね、と敵の反応がある方向へ駆け出す。毎度誰もいないところで変身しなきゃいけないの、何とかならないんだろうか……。三人はそう思っていたがもう口には出さなかった。
「こらあ! 幼稚園を狙うなんてよしなさい!」
砂でできたモットカリトールの前に出るプリティブルームの三人。今回のはゴーレムみたいだな、とアネモネは思ったが口には出さなかった。
「出たなおじゃま虫め! やれ、モットカリトール!」
ネコソギの声に応えて大きく腕を振り上げ、三人の魔法少女を攻撃する。
とうっ、とジャンプで避けた三人は周囲の状況を確認。すでに半数以上の園児や保育士のハートフラワーが枯らされているようだ。まるでゾンビのように生気のない顔で立ちすくんだり、その場で座り込んでしまっている。
「待て!」
そこへ凛々しい声とともに登場した二人。埼矛中学の制服、美しい金髪と銀髪の美少女……新賀りあむとノエル、ゴルシスだ。
「ちょ、危険ですから下がって……」
ブルームサクラの声に振り返った二人の手には小さな植木鉢型の変身グッズが握られていた。
「余計な手出しはするなって、言ったはずだけど?」
そう言った二人の手にはそれぞれの担当カラーに輝くポーリンジュエリーが握られていた。
「ポーリンジュエリーセット、ハートフラワーポッド、グローイングアップ!」
二人の植木鉢から光のツルが伸び、勢いよく二人の体に巻き付くようにしてロングドレスの衣装に変化していく。
金銀の髪が腰より長く伸び、ゴールドはウェービーヘアを無造作なポニーテールに、シルバーは縦ロールのゴージャスな髪型にまとまる。
キラキラ背景の不思議空間で髪や服にアクセサリーなどが足されていく。
「
「
二人で並んで完璧にポーズを取ると、キラキラと輝くエフェクトが。
「ええーまさかふたりがプリティブルームだったなんてー」
とりあえず驚きの声をあげておくサクラたち古参の魔法少女。
「……って言うか!」
ブルームサンフラワーが我慢できないように声をあげる。
「ここで変身しちゃダメでしょ! 敵に正体バレるじゃん!」
その言葉に、ブルームゴールドとシルバーだけでなくネコソギ課長も顔に疑問符を浮かべる。
「……どうして正体がバレてはいけないのかな?」
ムササシがまるでわからない、という顔で言う。
……え、だって。
「家族とか友達が狙われるからって、モモンが」
ふむ。
「じゃあ君たちは、友達や家族以外が狙われるのは構わないのかい?」
冷静なムササシの言葉。
「……た、確かに……ぐうの音も出ないとはまさにこの事なんだもん……」
若干涙ぐんでモモンが顔をあげる。
「みんな、すまなかったんだもん! これからは敵の前で堂々と変身して欲しいんだもん! それでかっこよく名乗りもあげてほしいんだもん」
十三話目にしてついに解禁された公開変身であった。
「そっか。どうしよう、じゃあもう一回変身しなおす?」
ブルームサクラが変身を解こうとする。
「いやさすがに次からにしましょう。あちらもだいぶ待たせてるし」
とアネモネが指差すのは手持ちぶさたでスマホをいじっているネコソギとその後ろで大人しくしているモットカリトールである。
「あ、ごめんなさい! 今戦いますんで!」
敵と向き合う三人をブルームシルバーが制止する。
「だから待ちなさいって! ……この間は失礼な言い方をしてしまってごめんなさい。でも、私たちの方が貴女たち三人よりも強い。戦闘は私たちだけで充分ですわ。みすみす危険な目にあわせるわけにはいかない」
そうだ、とゴールドも口を開く。
「君たちはこれまで、自分たちが頑張るしかないと思って戦ってくれたんだろう? その気持ちは本当に素晴らしい。だからここからは私たちに任せて……」
「ダメです!」
ブルームサクラが声をあげる。
「お二人は確かに強いですけど、でも、モットカリトールをただ倒してしまっては盗られたハートフラワーのエナジーがみんなのもとに戻らないんです! あと、壊された建物とかも謎の光で治さないといけないし!」
言われて金銀は周囲の人々を見る。
「君たちならこの人達を元に戻せる、って言うのかい?」
ゴールドの言葉に力強く頷く三人。
「はい、必ず」
……よし。
「じゃあ、見せてもらうよ。先輩魔法少女の戦いをね」
「おーい、そろそろいいか?」
待ちかねたネコソギが声をあげる。すみませーん、と三人が並んで構える。
「さあいけ、モットカリトール! 三人まとめてぶっ飛ばしてやれ!」
大きく手を振りあげて襲いかかる砂でできた巨人。
「みんな、行くよ!」
サクラの声に力強く頷く二人。
「やああぁぁぁぁっ!」
全員で攻撃かと思いきや、アネモネは一歩ひいて見守り、サクラとサンフラワーが左右から同時攻撃をしかける。
ボフンっと気の抜けた音とともに二人のパンチはモットカリトールの体を突き抜けてしまった。
「ハハハハハ! 砂山にトンネルをあけたところでダメージなどないのだよっ!」
勝ち誇ったように言うネコソギ。
「どうしよう、これじゃのれんと腕ずもうだよ!」
サンフラワーの言葉に頷くサクラ。多分意味は合ってそうなのでアネモネは訂正の言葉を飲みこみ、代わりに
「攻撃が通らないなら通るようにすればいいのよ!」
と、ジョウロ型のハートスプリンクラーを取りだす。
それを見たサクラはすぐに理解し、自分もハートスプリンクラーを構える。二人の意図が分からずに躊躇しているもう一人の魔法少女に、
「サンフラワー、泥団子だよ!」
そうか! と三人でジョウロでモットカリトールに水を振りかける。
「カ、カリッ……!」
避けようとする腕にもまんべんなく水をかける。やがてモットカリトールの全身が暗い色に変わった。
「ハートエナジーチャージ、サクラスピアー!」
「アネモネアロー!」
「サンフラワーハンマー!」
三人それぞれの武器で攻撃。砂から土になったモットカリトールのボディは受け流せずにダメージをくらう。
「今だもん!」
モモンのリボンから強い光が放たれ、三人のポーリンジュエリーがオーバーロードする。
「プリブル!」
エコーたっぷりの三人の声が完璧にユニゾンする。
「シャイニングフラワーシンセシス!」
モットカリトールの体が光に包まれて浮き上がり、そして満足げに「光、合成……」と呟いて消えた。そこから解放されたハートフラワーの輝きが保育士や園児達に戻り、意識を取り戻す。園内の設備や建物などが、まるで何もなかったかのように元に戻った。
「くっ、古参勢を侮ったか……次回は五人まとめてギャフンと言わせてやるからな! おぼえろ!」
捨てゼリフを残して宙に消えるネコソギ課長。
幼稚園から離れた場所まで行き、五人の魔法少女は変身を解除した。
どうでしたか、と萌音が聞くより早く、新賀りあむが頭を下げた。
「すまなかった! 私達はハートフラワーの輝きを取り戻すことなど知らずに、君たちを戦力外扱いしてしまった! 本当に申し訳ない」
隣でノエルも頭を下げる。
「そ、そんな頭をあげてください。先輩達の方が強いのは事実なんですから」
それにしても、とノエルがムササシを横目でにらむ。
「どうして何も言わなかったんですの? ハートフラワーやハートエナジーのこと」
その言葉に白いムササビはふんと鼻を鳴らして、
「別に言う必要ないと思ったからさ」
どういうことだ、と他の全員が目で問う。
「ハートフラワーは心の元気で咲く花だ。それは開花して人々のやる気になる。つまり、たとえやつらに刈り取られたってまた元気になれば咲くってことだ」
ハッ、と外国の俳優のように両手を広げて肩をすくめて見せる。
つまり、と新賀ノエルがムササシに向き合う。
「やられた人は仕方ないから自分で勝手に立ち直れ、というんですの?」
その目は静かに怒りの色を浮かべていた。
「そうさ。生きていれば理不尽に自分の夢や希望を奪われて踏みにじられる事もある。それと一緒さ。そこからどうするかはその人次第だろ」
なるほど、とりあむが口を開く。
「事故や災害と一緒で、遭ってしまったのはその人の不運。災いの元は排除するが、そこからどうするかは自己責任というわけか。まあ筋は通っているかもしれないな」
「そんなの!」
急に叫ぶように声をあげたのはぺたるだった。
「ダメだよそんなの! 自己責任とかそういうの難しくてよくわかんないけど、違うよ! そんな……そんなのヒーローじゃない! 魔法少女じゃない!」
りあむとノエルも、そしてムササシも呆気にとられたようにぺたるの顔を見つめていた。
「これは」
ニヤニヤしながらモモンがムササシの肩を叩いた。
「一本とられたんじゃないかもん?」
うるさいな、とモモンの手を払いのけ、
「せいぜい技あり程度だ。 ……ま、まあ、りあむとノエルも同意見だっていうなら合わせて一本にしてやってもいいけど」
いや柔道かよと萌音は思ったが黙っていた。
「じゃあノエル、りあむ。敵を浄化してハートフラワーのエナジーを戻す技を練習しようか。そして」
ムササシはぺたる、萌音、ひまわりとモモンの方を見て、
「次は五人で力を合わせて戦うサシ!」
照れくさそうな笑顔のムササシがアップになって、
つづく!
「次回予告」
ひまわり「いや〜、今日はかなりカッコいいところ見せちゃったんじゃない?」
ぺたる「だねー! 見せちゃったよね! そしてそして! 魔法少女が二人増えて五人に! これでどんな敵が現れても平気だね!」
ノエル「あら、私たちは貴女たちと一緒に戦うと言った覚えはないけど?」
りあむ「そうだね。私たちがハートエナジーを取り返す技を習得すればそれで済む話だ」
ぺた&ひま「そ、そんなぁ〜」
りあむ「ま、三人の努力次第で考えてもいいかな?」
ノエル「そうね。ふふふ」
ぺたる「うう〜……からかわれてる気がする」
モモン「ナンダカンダうまくやっていけそうなんだもん……ね、ムササシ?」
ムササシ「僕と君とは別にうまくやる必要はないんじゃないサシ?」
モモン「そんなぁ〜なんだもん!」
萌音「次回、魔法少女隊プリティ☆ブルーム! 『力合わせて、五人の魔法少女! 伝説の桜の樹をとりもどせ!』」
ぺたる「来週も、みんなのハートに花咲かせよっ!」
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