異世界変身勇者1/5

和無田剛

プロローグ1/3『魔法少女隊プリティ☆ブルーム』第一話「誕生、魔法少女隊! みんなの花壇をまもれ!」


「わたし桜川ぺたる、十四歳っ! どこにでもいるありふれた中学二年生……だったんだけど」

 年齢を加味してもやや高めのキーとテンションで導入の自己紹介をするピンク髪の少女。彼女がこの物語の主人公である。

「ぺたるー、早くしなさい遅刻するわよ!」

 階下からの母親の声に、はーいと返事しながら階段を駆けおりるが、まだパジャマ姿だ。これから急いで朝食を食べて身支度を整えて……と考えると確かに遅刻ギリギリである。しかも今朝は、修正するのに時間がかかりそうな派手な寝癖が後頭部に付いている。

 仕方ないわね、とか言いながらトーストをモグモグしている娘の髪に霧吹きで水をかけてブラシを通してくれる母。

「ありがとー」

 目玉焼きにフォークを刺しながら言うぺたる。

「あとでちゃんとブローしなさいね」

 はーい、と返事しながらサラダをもきゅもきゅ。

「いってきまーす!」

 ぺたるの家はフラワーショップSAKURAという花屋を営んでいる。彼女も将来家を継ぐか、あるいは何か花や植物に係わる仕事に就きたいと考えている。

 季節は初夏、家を元気に飛び出したぺたるも半袖の制服姿である。お気に入りの自転車に飛び乗って自身の通う『咲矛さきほこ中学校』を目指す。ゆっくり行って十五分、全力で漕ぎまくって十分を切るかどうかの距離だ。

 朝の澄んだ空気の中、快調に自転車を飛ばしていくと咲矛中の校舎が見えてきた。海に面した立地のそこはやや標高の低いところにあり、通学路から敷地の全体が見渡せる。近代的なコンクリート造りの三階建校舎と標準的な広さの校庭、そしてプールと体育館がある、ごくありふれた公立中学校だ。

「あ。モネちゃん、ひまちゃーん!」

 前方に並んで自転車を漕ぐ級友二人を見つけてぺたるは声をあげる。おはよー、と挨拶をかわした三人は速度を落とし、自転車を押して歩き出した。

 モネと呼ばれた彼女は長身でストレートロングヘアの落ち着いた大人っぽい雰囲気。

 少し眉根を寄せて不安げな表情になると、

「ぺたる、今日の宿題は忘れてないでしょうね? あまり何度も忘れるとさすがに……」

「だーいじょうぶだって!」

 ぺたるは自転車のハンドルから右手を離してオッケーサインをつくる。

「わたしだってやる時はやるんだよ!」

 満面の笑みで、幼稚園からの親友、姉川萌音あねかわ もねにドヤる。

 そりゃ良かったわ、とため息まじりに言う萌音。それを私が昨日何度メッセで確認してやらせたのかと。

「……え、宿題って、なに……?」

 ぺたるとは対照的に顔を青ざめさせているのは紀村きむらひまわり。天然ウェーブのショートヘアが似合う、元気な印象の女の子だ。ぺたると萌音とは小学校の校区が違うので中学に入ってからの付き合いである。

「えー、ひまちゃん忘れたのー? 数学のプリントあるんだよ」

 一ヶ月連続で宿題を忘れ続けた記録ホルダーのぺたるがドヤって言う。

「うう〜……不覚だ……まったく覚えてない……不覚だけに」

 妙なことを言いつつ、自転車を押しながら器用に頭を抱えるひまわり。

「いやっ、でも!」

 ひまわりは顔を上げる。その表情に迷いはなかった。

「過ぎたことを気にしてても仕方ない! 過去を振り返らずにボクたちは未来へ進むんだよ!」

 なぜか非常に前向きな気分になったひまわり。その瞳は前を、……いや、まだ見ぬ未来を見ていた。

「おおー、なんかひまちゃんカッコいい!」

 目を輝かせるぺたると、ため息をつく萌音。

「二人も面倒みきれないわよ……もう」

 三人は校門をくぐり、中学校の敷地内へと進んだ。

「ん? どうしたんだろ」

 ぺたるがつぶやく。生徒たちが集まって何やら騒いでいるようだ。

「花壇の方ね」

 萌音が言う。学校の花壇にはクラスで植えた花があり、係が交代で水をあげたり世話をしているのだ。

「ねえ、どうしたの?」

 声に振り向いた女生徒の顔は青ざめていた。彼女の背後の花壇にぺたるたちの視線が向かう。

「ひ、ひどい……誰がこんなことを」

 色とりどりに咲いていた花や、これから開くつぼみもすべて、根っこから引き抜かれていた。花びら一枚、葉の一枚も残さず、ただ地面に無数の穴が空いているだけ。

「誰が? 誰がと聞きましたね?」

 どこからか、ぺたるの呟きに応える男性の声がした。

 おい、誰だあれ、とその場に集まっていた生徒の何人かが気づいた。花壇の近くのコンクリートの小屋、かつては焼却炉として使われていたが現在は扉に鍵をかけられたまま放置されている用無しの小屋の屋根の上に立つ、その男の姿に。

「誰だ誰だと問われれば、答えてあげよう報連相!」

 あまり通る声ではないのを懸命に張り上げているのがわかる。何ヶ所か寝癖のついた油気のない髪、グレーのありふれたスーツの上に魔法使いのようなマントを羽織っている。その黒いマントを片手でバサーっと払いのけ、

「私の名はネグサレ係長! この世のすべての根を腐らせる存在っ! どうぞよろしくお願いします!」

 コンクリ小屋の上の不審な中年男性はそう名乗ると、鋭く腕を振り、何かを投げた。

 シュパパッとぺたるたち三人の額に貼りつく紙片。

『株式会社ウィーザードットコム 業務推進部係長 ネグサレ祐一』

「ゆういち……?」

 手にした名刺に困惑する三人。いやそれよりも。

「オジサンが、ここのお花を盗んだの!?」

 ひまわりが怒りをこめて問いただすと、ネグサレは

「そうです!」

 と、精一杯声を張って答えた。何しやがんだおっさん、返せどろぼー、などと生徒たちから罵声が飛ぶ。

「はははは! 返せと言われて返すくらいなら最初から盗りはしないのです! それに」

 思わせぶりに間を取り、

「奪った植物はもう、コイツに変わったのです」

 ネグサレの声に合わせて、小屋の後ろからズズズ、と何か巨大なものが立ち上がる。

「さあやるのですカリトール、手始めにこのキッズたちのハートフラワーを刈りとってやりなさい!」

 巨大な花と茎や葉が合わさっていびつな人型になっている姿の怪物は、天に向かって吠える。

「カリトォォォォォル!」

 十メートルほどの大きさのその怪物は、手を伸ばして生徒たちにつかみかかった。

 うわあー、きゃあー、と悲鳴が周囲を満たす。騒ぎに気付いて駆けつけた数人の教師たちもあまりに予想外な事態にどうして良いかわからず立ちすくんでしまっていた。

「カリトォォォォォル!」

 怪物の目から発せられた光線に当たった生徒や教師たちは脱力してその場に倒れ込む。

「しっかりして!」

 ぺたるが近くに倒れていたクラスメイトに声をかける。どうやら命に別状はなさそうだが表情が暗く、目に生気がない。

「はははは! いいぞカリトール、どんどんハートフラワーを刈り取ってやりなさい!」

「カリトォォォル!!」

 カリトールが一人の女生徒を捕まえようと手を伸ばす。

「危ない!」

 ぺたるが飛びついて彼女を怪物の攻撃から避けさせた。

「こっちへ!」

 萌音が女生徒を誘導して避難させる。

「ぺたるん、大丈夫?」

 彼女が足から出血しているのに気づいたひまわりが心配そうに言う。

「ほうほう!」

 コンクリート小屋の上のネグサレ係長が声を上げる。

「この世界の人間は自分だけ良ければいい、ジコチューなヤツらばかりと聞いていましたが! これは立派な心がけですねぇ!」

 ぺたる、萌音、ひまわりの三人を横目に見て、自分ではシニカルなつもりの笑みをつくる係長。

「そんなことない! 人間はみんな優しい、他人を思いやる心を持っているの! 確かに自分だけが可愛い、そう思っちゃうこともあるけど……でも、誰かのために何かをしたいっていう心は誰にでもある! そしてその心は、お花の世話をして育てるの!」

 震える両足に力を込め、ぺたるは得体の知れない怪物と中年男性に正面から向き合った。彼女の心の中で義憤が恐怖に打ち勝ったのだ。生まれた時から自分の生活の中に当たり前のようにあった花たち。それはみんなの心の栄養だ。誰かが勝手に奪って良いものではない。

 後先など考えてもいない。とにかく許せない相手に許せないと言わなければ気が済まなかったのだ。

 到底人間が太刀打ちできるはずもない相手に堂々と啖呵を切るぺたるに呆然とした視線を送っていた萌音とひまわりは、彼女の横顔を見てハッとなった。

 普段ほとんど怒ったりすることがない、なんでも笑って済ますようなぺたるの表情は今、はっきりと怒りの色を浮かべていた。

「そんなお花を盗んだあなたは!」

 ぺたるが言う。

「絶対に許さない!」

 その言葉に大きく頷く萌音とひまわり。そうだ、相手が誰であれ悪い事は悪いし、許せない事は許してはいけないのだ。

 ほうほう! とネグサレは底意地の悪い目つきになる。

「許さなければどうすると言うんです?」

 何ら特別な力を持つわけでもない女子中学生三人を見下すように見回して、

「ええ? どうすると言うんですかねえ!」

 カリトールに三人を攻撃させる。

 相手は得体の知れない巨人、対するこちらはただのJC三人。なすすべもなく逃げ出す。

「うわあああ! ど、どうしようどうしよう! あんなの相手にどうする事もできないじゃん!」

 涙目になって走り出すぺたる。

「いやあんたが喧嘩売ったんじゃない! 何も考えてなかったわけ?」

 同じく駆け出しながら萌音が言う。

「だあってぇ! あんなの絶対許せないと思ったんだもん」

 まあそれは私もだけど、と萌音は頭をめぐらせる。

 後ろを窺うとカリトールの動きは鈍いようで、ずうんずうんと重い足音を立てながら追ってくるが全力で走れば追いつかれることはなさそうだ。

「ねえモネっち、何とかアイツやっつけられないかな? カリトールとかいうのは鈍そうだし、オジサンはなんか弱そうだし」

 ひまわりが敵をディスりつつ対応を丸投げにしてくる。

「ボクもそうだし、モネっちもそうでしょ? 確かにあんなヤツら許せないよ」

 うんうんそうだそうだ、許せないよねー、ねー、とひまわりとぺたるが器用に走りながら意気投合している。

「そうね。みんなで力を合わせて何とかしてみましょうか」

 さっすがモネちゃん! 頼りになるー! とか騒ぐ二人。

「とりあえずどうしよう、学校から出た方がいいかな?」

「……いいえ、校内なら私たちに分があるわ。いつまでもあんな奴らに好きにさせるもんですか」

 何やら考えがある様子の萌音に従ってぺたるとひまわりも走る。避難するように指示が出たのか、それとも単にみな逃げ出したのか、誰もいない校庭を横切って体育倉庫へ走る。

「よし、急いで!」

 振り返ってカリトールに見られていない事を確認すると、三人は倉庫へ駆け込み、ガラガラと派手な音を立てて扉を閉める。高い位置にある小窓から明かりが入るので庫内は暗くない。

 さて、と倉庫内の備品を見回す萌音。バレーボールのネットを手に取り、使えそうねとひとりごち、

「誰かハサミ持ってる?」

 と聞く。

「緊急事態だからね、備品を壊すのは見逃してもらおう」

 言いつつ、ひまわりが持っていたハサミでネットを切り裂き、内部のワイヤーを取り出した。

 「この中で一番足が速いのは?」

 萌音が二人に聞く。

 はいはいはいと二人とも手をあげる。

「去年五〇メートル走、わたし一番だったもん!」

「ボクだって一番だったし!」

「授業でタイム測った時、わたしの方が〇、一秒早かったじゃん!」

「そんなの誤差だし! それにあれからまた速くなってるもんボク」

「わたしだって!」

 あーもういいから! と萌音が不毛な争いを止めた。

「じゃあ二人で罠を張る係になってもらうわよ。私があの怪物をひきつけるからそのスキに……」

 作戦を説明する萌音。

「ふふふ……いつまで逃げ回っているのですか!」

 ネグサレは無人の校庭を見回して言った。こんなに早く他の生徒や教師が居なくなったのは意外だったが、あの三人のハートフラワーはかなりのエナジーになりそうだ。それでカリトールを強化して、と次のプランを脳裏に描く。

「こっちよ!」

 萌音が隠れていた体育倉庫の陰から飛び出す。

「ほらほら! こっちに来なさい」

 徒競走の順位を示す赤い旗をバタバタさせてカリトールの気を引く。

「カリ?」

 あまり知能の高くない巨人は思惑通り旗に気を取られ、そちらへ重い歩みを進める。

「カリ、トォォォォル!」

 萌音が去ったあとの体育倉庫からぺたるとひまわりが走り出た。ネグサレに気づかれないように罠を張るための道具を運び出す。

 えっさほいさと二人で運んだ二本の鉄柱を地面に立てる。バレーボールやバドミントンなどで使うネットを張るためのものだ。そこへネットから取り出したワイヤーを巻き付けてピンと張る。

「よしオッケー」

 続いて二人は他の道具を取りに倉庫へ引き返す。

「カリトォォォル!」

 パタパタと闘牛士のように赤い旗を振って走る萌音に、カリトールはいらついたような声をあげた。

 巨人の足首あたりの高さに張ったワイヤーの下を走り抜けた萌音を追うカリトール。

「カリ……」

 気づかずにその罠に足を取られ、

「……トォォォル!!」

 前のめりに転倒した。

「……あっぶな!」

 萌音が胸をなでおろす。とっさに横へ逃れたから良かったが、危うく下敷きになるところだった。

「よっしゃかかれー!」

 うつ伏せに倒れるカリトールにマットや横断幕その他、倉庫にあったものを目一杯被せるぺたるとひまわり。

「カリ……ッ」

 手をついて立ち上がろうとするその目に石灰の詰まったラインマーカーをぶつける。ハンマー投げのように振り回して投げつけたのだ。

「命中ー!」

「ボクも当たったー!」

 目に石灰が入ったカリトールは悲鳴のような苦悶の声をあげた。

「カリトォォォ……ッ!!」

「こらぁ! 貴様らなんて事を……」

 拳をあげて駆けてくるネグサレ係長の顔面にも石灰をまぶした玉入れの玉をぶつける。

「ぐわああああっ! 目が! 目があ!」

 たまらずその場に倒れる中年男に面白がって更に色々と物をぶつけるぺたるとひまわり。

「くらえー」「まいったかー」などと調子にのっている。

「深追いしないで、カリトールが復活する前に撤退するわよ!」

 萌音の指示に、ラジャーと敬礼して従う二人。次の攻撃はプールの予定だ。

 走り出した次の瞬間、プシュッと空気の漏れるような音がして、ぺたるの隣にいたひまわりが転倒した。

「ひまちゃ……?」

 倒れた彼女の左足から血が流れ出ていた。ふくらはぎに傷を負っている。

「フフフ……ワタシをバカにするからです」

 目を充血させたネグサレの手に小さな銃のような武器が握られていた。メガネのおかげで石灰の直撃を避けていたらしい。パンダのように目の周り以外が真っ白になっている。

「どうやらオイタが過ぎたようd……ぐわああ!」

 萌音が冷静に石灰まみれボールを再びネグサレの顔にヒットさせる。

「つかまって!」

 両側からひまわりをささえて走り出す。とりあえず身を隠さなくては……三人は校舎内へと撤退した。保健室でひまわりの傷を消毒して絆創膏を貼る。幸い傷は深くないようで、もうほとんど出血も止まっていた。

「ついでにぺたるの怪我もね」

 擦りむいた膝に絆創膏をペタリ。

「ついでってヒドくない!?」

 ぺたるの訴えに笑いが起きた。

「さて、これからどうするかだね」

 頷きあう三人。敵は謎の巨人を作り出し、銃のような武器も持っていてそれをためらいなく人に撃つような相手だ。まともじゃない。警察でも相手にならないかもしれない。スマホを取り出してみるが三人とも圏外になっていた。何か通信を妨害するような力が働いているのかもしれない。

「……来たね」

 ずうん、ずうんと重い足音。謎の巨人カリトールが近づいてきたのだ。

「あーあー、テステス……本日は晴天なれども河村たかし……」

 そっと目だけを出して表を窺う。巨人の手に乗ったネグサレ係長がメガホンを手にしている。どこかで勝手に拝借してきたのだろう。

「勇敢なる少女たちにつぐ! 君たちの勇気と行動力は素晴らしい、私は感服いたしました! というわけでもうやめにしましょう! あなた方が出てきてくれたらカリトールを元の花に戻してお返しします」

 校庭の中央辺りに陣取って校舎に向けてメガホンで訴えている。

「あんなん言うてますけど?」

 ひまわりが半笑いで言う。さすがに信じるわけがない。

「さあ、私を信じて出てきてください! ちなみにこの施設は弊社自慢の障壁で囲ってありますので! 外に出ることも外から入ることもできません!」

 どうやら通信障害もそのせいらしい。

「今さら逃げるつもりもないけどね」

 ぺたるの言葉に力強く頷く二人。その時だ。

「え、何これ……」

 ぺたるは自分の胸の前に光る玉のようなものが浮かんでいるのに気づいた。明るく輝くショッキングピンクの球体。それは温かく、力強さを感じさせる不思議な光だった。

「それこそが未来を信じる気持ちと、現在を諦めない気持ち、そして過去を認めて先に進む気持ちの結晶、ポーリンジュエリーの種なんだもん!」

 急にぺたるのすぐ近くで声がした。

「きゃっ、あなた……誰?」

 ぺたるの問いにそれ……宙に浮かぶピンク色のモモンガは腰に手をあてて誇らしげに応える。

「ボクはモモン、フラワーランドから来た桃の妖精なんだもん!」

 黒目ばかりの大きくつぶらな瞳、体長は三十センチくらい。ピンク色の毛皮に覆われたそれは一見するとむいぐるみのようだが、小さな口をむいむいと動かしてハッキリと人語を話し、短い手をパタパタと動かしているのを見ると無機物ではない、歴とした生物なのだと感じられる。

「モモンっていうの? えっと、フラワーランド……? 妖精?」

 確かに、いかにも妖精らしいとも言える見た目ではあるが……

「あいつらはウィーザードットコムっていう悪の組織なんだもん! ぺたる、ポーリンジュエリーをハートフラワーのエナジーで咲かせて魔法少女プリティブルームになってほしいんだもん!」

 えっと、つまり……どこかで聞いたような話だとぺたるは思いながら、

「変身して、あれと戦えってこと?」

「シンプルに言うと、そういうことなんだもん!」

 確かに、あの妙な中年のしたことは許せない。できれば戦う力は欲しい。魔法少女に変身できるということは、それを得られるということなのだろう。

「それはともかくさ……」

 さっきから気になって仕方がない。ぺたる以外の二人の胸のところにも光る種が浮かんでいるのだ。

「ねえ、モモン? あの二人も」

 ぺたるが言いかけるのにモモンは、どこか観念したような口ぶりで

「わかってるもん! 他の二人も立派にカリトールと戦ってるんだもん……ポーリンジュエリーの種が生まれるのは自明の理なんだもん」

 本当なら一人ずつエピソードがあって、一話ずつかけてそれぞれの悩みとか問題を乗り越えて魔法少女になってメンバーが増えていくのが王道なんだけど……。

 モモンはシリーズ構成を気にした。

「ぺたる、萌音、ひまわり! みんなで魔法少女に……魔法少女隊プリティブルームになって欲しいんだもん!」

 空中でクルリと一回転するモモン。するとその空間にピンク、水色、黄色の三色のジョウロ型の何かがあらわれた。それに呼応するかのように三人の前の光がそれぞれの担当カラーの宝石に変わる。三人はその不思議な宝石、ポーリンジュエリーを手にした。

「ポーリンジュエリーセット!」

 宝石をジョウロの窪みに嵌める。

「ハートスプリンクラー、グルーミングアップ!」

 三人が頭上に掲げたジョウロから七色に輝く光が溢れる。それは彼女たちの体を包み、魔法少女へと変身させていく。背景はキラキラと光り輝く不思議空間。

 手足が細くしなやかに伸び、顔つきも少し大人の女性に近づく。髪は腰よりも長く色鮮やかなウェービーヘアに変化する。

 衣装はノースリーブとミニスカートのドレス風の上下。フリルやリボンが要所に配置されて華やかさを演出している。魔法少女の戦闘力はこうしたところに左右されるので細かいところまで気は抜けない。そして肘より上までを覆う手袋とロングの編み上げブーツ。三人のコスチュームはそれぞれカラーリングだけでなく細部に違いが見られるが、基本的なデザインは共通している。

ピアス、ティアラなどの小物もティラーン、などという効果音と共に装着されていく。仕上げのメイクアップも終了し、三人の魔法少女が顕現した。

「みんなの心にサクラサク! 希望に咲く花、ブルームサクラ!」

「みんなの心をヒーリング! 癒しに咲く花、ブルームアネモネ!」

「みんなの心にサンシャイン! 陽だまりに咲く花、ブルームサンフラワー!」

 三人が並んでポーズをとる。

「魔法少女隊、プリティ☆ブルーム!」

 これら一連の変身シークエンスは、実際には一秒を切る速さで行われており、普通の人間には急に三人が消え、華やかな魔法少女衣装に身を包んだ女性三人が現れたように見える。

 蛇足だが、今回は初回のため変身シーンが三人続けてフル尺で流れたため長く感じたかもしれないが、次回からは画面を分割して同時進行で処理されるので短縮されることを付け加えておく。

「すごい……身体中に力がみなぎってる」

 腕を振ったり手を握ったりするだけでわかる。明らかに人間の限界を超えた身体能力だ。

 これなら、やれる。あの巨人相手でも引けはとらない。しかもこちらは三人。

「正直、負ける気がしないわね」

 ブルームアネモネの言葉に頷く魔法少女。

「じゃあ、やっつけちゃおう!」

 とうっと窓から校庭へ飛び出す三人。

「な、何ですかあなた方は!」

 カリトールの手の上のネグサレが言う。JC三人を探していたら魔法少女三人が現れたのだから困惑するのは当然だ。

 三人は迷った。既に教室内で変身した流れで名乗りは済ませている。完璧なポーズ付きで、謎のキラキラと効果音も使って。

「……ねえ、どうする? もう一回名乗った方がいいのかな?」

「嘘でしょ、さっきのもう一回やるの? 嫌よ恥ずかしい」

「でもさでもさ、あのオジサンには名前言ってないからボクらがプリティブルームってわかんないじゃん」

 ヒソヒソと小声で話し合う三人。

「……別に、敵に名前知らせる必要ないんじゃないかもん?」

 冷静なモモンの言葉にハッとなる魔法少女たち。顔を見合わせて頷きあう。

「あなたたち悪者に、名乗る名前なんてない!」

 一気にカリトールに向かって駆け出す。

「はあっ!」

 ブルームサクラが跳躍し、カリトールの頭に強烈なハイキックを喰らわせる。思わずよろめく巨大な怪物に、走ってきた勢いをそのまま活かしたパンチをブルームアネモネがお見舞いする。

「カ、カリトォ……ッ!」

 後ろへのけぞるカリトールの足元に回り込んで、片足を持ち上げるブルームサンフラワー。

「それーっ!」

 ズウウウウウウン、と重い音を立てて地面に倒れるカリトール。ダメージが大きく、なかなか立ち上がれずにいる。

「今だもん! プリティブルームの気持ちを一つにするんだもん!」

 モモンの言葉に、三人は強く頷きあう。

「行くんだもん!」

 モモンの首についたリボンのようなものから強い光が放たれ、それが三人のポーリンジュエリーに吸い込まれる。ジュエリーはグングンと輝きを増していく。

「ハートスプリンクラー、オーバーロード!」

 再びどこからか現れたジョウロ型のそれに、パワーがオーバーにロードしたポーリンジュエリーをセットした。その輝きがさらに増し、ジョウロは片手で持てるくらいの大きさのステッキに変化した。それを交差させるようにして掲げる三人。

「プリブル!」

 気持ちが一つになったユニゾン。その声にはもちろんキツめにエコーがかかっている。

「シャイニングフラワーシンセシス!」

 三人のステッキから放たれた三色の光が合わさり完全な白になった。それはカリトールに向かって一直線に照射される。

 浄化の光が怪物を包むと、それは昇天するかのようにフワリと浮かび上がった。

「光、合……成……!」

 どこか満足したかのように言い残し、カリトールはいくつもの花に戻り、学校の花壇に元通り収まった。

 そしてそこから溢れ出た謎の力がここまでに壊れた校舎や備品などを元通りに修復していく。

「やったんだもん!」

 宙に浮かんで小躍りするモモン。

「くっ、想定外でした……だが、次回はあなた方の事も織り込み済みで参りますのでよろしくどうぞ!」

 マントをバサーとやって消えるネグサレ係長。

 やったやったー、と喜び合う三人。その姿は変身が解けて元に戻っている。

「さて……じゃあ、みんなに聞いてもらいたいことがあるんだもん。プリティブルームのこと、ウィザードットコムのこと、フラワーランドのこと、そして……」

 思わせぶりに言葉を切るモモン。その顔がアップになったところで、


 つづく!


「次回予告」

 ぺたる「よーし、みんなのハートフラワーを守るため、これからもがんばるよっ! ……って、プリティブルームの正体は秘密にしなきゃいけないの?」

 モモン「ヒーローは自分の正体を隠すものなんだもん!」

 ぺたる「それなのに、クラスのお友達のリンちゃんとレンちゃんがプリブルの正体を暴いて動画にしてバズるんだってはりきってるよー! それをわたしがお手伝いすることになっちゃったー!」

 萌音「なんでそうなるのよ?」

 ひまわり「まあ、ぺたるんはそういうとこあるからねぇ〜」

 モモン「とにかく、絶対に正体を知られちゃいけないんだもん! バレたら敵がみんなの家族や友人を狙って誘拐や監禁を」

 萌音「年齢制限かかりそうな事言わないで!」

 全員「次回、魔法少女隊プリティ⭐︎ブルーム!『ぺたるはインフルエンサー?! プリブルの秘密を守れ!』」

 ぺたる「来週も、みんなのハートに花咲かせよっ!」



 


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