Ⅸ
「あの……おはよう……ございます」
朝一番。毎日の日課である掃除をするため、箒を手に玄関に出たサーラは、小綺麗な身なりの貴族らしい青年に、そう声を掛けられる。青年が、何時ぞや面会したランヴィッツ家の当主だと気付くのに、暫くかかった。
「あなたは……」
サーラが何か言うより先に、リアムが片膝をついて頭を垂れる。
「先日は俺……い、いや、私の不適切な振る舞いにより、あンなたに大変不快な思いをさせてしまった。このとおり、つ、謹んでお詫び申し上げまっス」
たどたどしく詫びるリアムの姿は、数日前とはまるで別人のようだ。サーラはその不器用な謝罪の様子に、真心を見出した。
「ランヴィッツ様、お尋ねしても?」
リアムが目を伏せたまま頷く。
「前回お会いした時、あなたはとても下品で、軽薄な様子だったと記憶しています。一体何が、あなたをこうも変えたのですか?」
リアムは少し考えたあと、「怖いから」と正直に答えた。
「これまでいい加減に生きてきた罰が、いつか降ってくる気がして、怖いんだ。勝手なのは分かってる。でも、知り合いの司祭が『真っ直ぐ生きるのに遅すぎることはない』って言ってたから……」
リアムが口ごもり、視線を落とす。因果を恐れ、惑うその姿は、まるで迷子の子供のようだ。
「……えぇ。今からでも充分間に合いますよ。あなたの姿勢を、創造主様はご覧になっている筈です」
気付くと、サーラがしゃがみ込み、リアムに目線を合わせていた。
「そう、かな?」
「きっとそうですよ。一歩ずつ、歩んでいきましょう?」
サーラが微笑み、手を差し伸べる。リアムが掴んだ修道女の掌は荒れていたが、温かかった。
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