「あの……おはよう……ございます」

 朝一番。毎日の日課である掃除をするため、箒を手に玄関に出たサーラは、小綺麗な身なりの貴族らしい青年に、そう声を掛けられる。青年が、何時ぞや面会したランヴィッツ家の当主だと気付くのに、暫くかかった。

「あなたは……」

 サーラが何か言うより先に、リアムが片膝をついて頭を垂れる。

「先日は俺……い、いや、私の不適切な振る舞いにより、あンなたに大変不快な思いをさせてしまった。このとおり、つ、謹んでお詫び申し上げまっス」

 たどたどしく詫びるリアムの姿は、数日前とはまるで別人のようだ。サーラはその不器用な謝罪の様子に、真心を見出した。

「ランヴィッツ様、お尋ねしても?」

 リアムが目を伏せたまま頷く。

「前回お会いした時、あなたはとても下品で、軽薄な様子だったと記憶しています。一体何が、あなたをこうも変えたのですか?」

 リアムは少し考えたあと、「怖いから」と正直に答えた。

「これまでいい加減に生きてきた罰が、いつか降ってくる気がして、怖いんだ。勝手なのは分かってる。でも、知り合いの司祭が『真っ直ぐ生きるのに遅すぎることはない』って言ってたから……」

 リアムが口ごもり、視線を落とす。因果を恐れ、惑うその姿は、まるで迷子の子供のようだ。

「……えぇ。今からでも充分間に合いますよ。あなたの姿勢を、創造主様はご覧になっている筈です」

 気付くと、サーラがしゃがみ込み、リアムに目線を合わせていた。

「そう、かな?」

「きっとそうですよ。一歩ずつ、歩んでいきましょう?」

 サーラが微笑み、手を差し伸べる。リアムが掴んだ修道女の掌は荒れていたが、温かかった。

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