第2話 勧誘1

家を出るといつも通り、幼馴染の二人が待っていた。

「おっはぁ!」

髪に赤いピンをつけている、元気なやつが今上勇気いまがみゆうき。小学校からの付き合いで、勇気と一緒ならなんだってできる。

普段疲れないのが不思議なほど、常に元気100%。正直その元気を分けてほしい。

「そろそろ来ると思ってたよ~。おはよう涼真君!」

前髪ぱっつんでロングヘアの子は高山里穂たかやまりほ。勇気と同じく小学校からの付き合いだ。誰にでも優しい上に可愛いので絶対モテる。

俺も続いて声を掛ける。

「おはよう二人とも。」

「さ、涼真君も来たし学校行きますか!」

「そうだな。涼真、忘れ物とかはないか?」

「ないない。あるわけないだろ?」

と言いつつ一応カバンを開き、忘れ物がないか確認をする。教科書、ノート、筆箱、宿題…問題なさそうだ。


しばらく歩いていると高山が「勇気君?聞きたいことがあるんだけど。」と、話を切り出した。

「どうした?俺の答えられることだったらなんでも聞いてくれ!」

「えっと…今日ってどこの部活見に行く予定なの?」

高山は勇気のテンションに驚きつつ質問する。

それは俺もちょうど気になっていた。

部活見に行こう!とだけ言って走り去っていったからな。


「あぁ、なんでも部ってあるだろ?姉貴に『部員が足りなくて存続の危機なの!一回体験でいいから、顔出してくれない?』って言われてたっていうのと、七不思議なんかで出てくるから気になっててさ…。一人で行くよりも複数で行った方が楽しそうだろ?」

「それで私たちで行ってみようってことね。なんでも部って旧校舎で活動してるっていう、あの部活のことよね?」


なんでも部…よく学校の七不思議的な噂で出てくる部活のことか。なんでも部の全容は明らかになっておらず、ほとんどの生徒は都市伝説のような認識だろう。


「まぁ、部活と言っても正式に学校側から認められたものではないらしいな。噂で出てくるような七不思議みたいになったのは、所属人数が少ないのが一番大きい理由だとかなんだとか。出回る情報が少ないからな。」

「それでなんでも部って何してるところなんだ?名前の通り『なんでも』って感じか?」

「そう、『なんでも』。なんでもって言っても、できる範囲は限られてるんだろうけどな。」


噂には聞いていたがそんな感じなのか。正直気になってはいたし、放課後が楽しみだ。


「じゃあ今日の放課後、旧校舎に行ってみよう!部活も決めかねていたし、ちょうどいいわね。」


-------------------------------------------------------------------------


他愛のない会話をしていると俺たちの通っている学校、紅明こうみょう高校(通称ベニ高)が見えてくる。

この時間の校門は多くの生徒が行き交うが、今日はいつもと違うところが見受けられる。

いつもなら先生は一人いる程度だが、今日は何かを警戒するように、多くの先生が立っている。


「今日は先生がいっぱい立ってるね。なんかあったのかな?」

何かあったかと聞いて、一番最初に頭に浮かんだのは、今朝のニュースのことだった。

(工場で事故があって、現場に不自然なほどの血痕が残っていた…ってだけじゃここまで先生たち警戒しないよな?いったい何があったんだろう。)

他の生徒たちも先生たちの警戒感を感じ取り、緊張している様子だ。

歩きつつ様子をうかがっていると、担任の佐々木先生の姿が見える。普段穏やかでのほほんとしている先生だが、今日に限っては様子が違った。周りを見渡しつつ不安そうにしている。


先生は近づく俺たちに気が付いて、心配させまいと手を振ってくれた。

それに勇気が手を振り返し、そのまま話し出す。

「おはようございます、佐々木先生。この状況、何かあったんですか?」

「そうね…、ちょっといろいろあったの。今はまだ言えないけど、多分朝のホームルームで詳しい説明ができると思うわ。三人とも早く教室に向かっておいてくれる?」

「わかりました。先生もお気をつけて。」


そのまま校門を過ぎて教室へ向かっていく。

「なんだか怖いね。どうしたんだろう?」

「わからないけど、とりあえずホームルームを待つしかなさそうだね。」

「そうだな。何かあったのは確実だろうが、大事じゃなきゃいいな…」


やはりあの警戒感は衝撃的なものだったようで、廊下を進むと各教室はすでに教室の先生らの話題で持ちきりだった。そして俺たちは、教室に入り待機することになった。


-------------------------------------------------------------------------


―しばらくしてホームルームのチャイムが鳴るのと同時に佐々木先生が入ってくる。

先生は一人一人の顔を確認するように見回してから教卓に立った。

「みなさんおはようございます。既にご存知の人もいるかもしれませんが、一部の生徒の行方が分からなくなる事件がありました。」


(朝の緊張感はそれが原因だったのか。最近物騒なことが多いな…)


「幸いこのクラスからは行方不明者は出ていないですが、皆さん登下校時は十分に気を付けて―――」

報告と注意喚起を行い、続いて出席確認と細かな連絡事項を言い終えるとホームルームを終えて次の授業の準備に移っていった。


先生が教室から出ていった後、クラスメイト達はそろって事件の話をしている。

のんきにそんな状況を眺めていると、勇気が俺の席までやって来て話しかけてきた。

「なんか先生大変そうだな、今回のことでの対応とかも大変そうだし。目元にクマできてたよ。」

「そうだったのか、全然気が付かなかった。」

―行方不明事件。先生が『事件』といったからには何らかの理由があるはずだろう。ただの失踪だったらここまで警戒もしないだろうし。

…なんて考えていて全く気付かなかった、なんて言えないな。


「あ、そうそう!事件も大事だけど、今日早帰りにならなくてよかったってのも大事だよな。」

どうやら俺は、話聞いてなさ過ぎて聞くべきところを聞き逃していた模様。

勇気が言うには『とりあえず本日は通常通り』ってことらしい。

「とりま今日の放課後は予定通りでよさそうだな。」

「そこは本当によかった。俺さぁ、本当に楽しみだったんだよ見学行くの。」

勇気はほんのり嬉しそうにしている。

事件のことや、ゲームの話題などを少し話した後に、授業の時間を知らせるチャイムが鳴り響く。

勇気が放課後の部活動見学に期待を寄せる一方で、退屈な授業をどう乗り切ろうか考える俺なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る