第一章 高校生活

第一話 いつも通りの朝

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「…っ」


宮古涼真みやこりょうまは目を開ける。

その顔は茫然としていて、少し息が荒くなっている。

深呼吸し、息を整える。


…まったくもって目覚めの悪い朝だ。

俺は特段夢見が悪い。起きるといつもだ。いや別に最近じゃない。幼いころからずっとこうだ。


夢の内容は毎回記憶に残らない。何回も似たような夢を見ている気がするのに…やめだ、気にしてもしょうがない、ここはいったん置いておこう。


枕の横に置いてあるスマートフォンで時刻を確認する。

午前六時、うんうん健康的。昨夜はめっちゃ早く寝たし当然だな!…はぁ。

俺、朝嫌いだし。無理やり気分を上げるべきじゃないな、うん。


こういう時は超冷たい水で顔を洗って気分をリセットするに限る。あぁ、ベットから出たくねぇ…。二度寝してぇ…。


「はぁ…」


ため息をついてうなだれた後、仕方なくベットから出る。

ベットから出た瞬間、微かな違和感を感じた。


「…?なんか変な感じが…なんだ?」


言葉にならない、でもいつもと何かが違う、気がする。

(でも、何が?)

まず周りを見回してみる。うん、いつもと変わらない。次に手をまわしつつ確認する…何もなし。


(そもそも本当に違和感なんてものがあるのか?)

ほんの一瞬感じた何か。

(一体何だったんだ?)

再度周りを見回す。やはり何もない。

(気のせいだったのか?いやでも…ああもう考えても仕方ない!)


結局それが何だったのか分からず、もやもやしたまま洗面所へと向かうことにした。


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洗面台に行き寝ぐせを整え、長い髪をかして軽く結ぶ。

肩につくぐらいの長い髪なんかさっさと切ってしまいたいが祖母からしつこく「髪は切るな。」って言われているし。

面倒くさくてもこの動作が毎日のルーティンになるのは必然だった。


一連の動作を終えてリビングに向かうと、少し開いてるドアから漂ってくるいい香りにつられてドアを開ける。


ドアを開けると明るい声が聞こえてくる。

「おはようお兄ちゃん!」

「おはよう~」


制服を着た、妹の宮古海みやこうみがエプロンをつけ、せっせと料理を作っていた。


「お兄ちゃんまたうなされてたけど大丈夫?隣の部屋まで聞こえてきたけど…」

「大丈夫…とは言えないんだよな、汗はぐっしょりだったし、夢見は悪いし。」

と、言いつつ椅子に腰かけてテレビの電源を入れる。


「不満とか困ってることあったら言ってよね。私、できる限りがんばるから!」

ふん!と意気込んでいる海はさておき、夢見が悪いのはずっと気になってはいるが、何もわからないからいったん置いておくしかない。超もどかしいが今は朝食に集中するか…


「今日の朝ごはんなーにー」

「話そらしたな…今日はねえ、お味噌汁とだし巻き卵だよ~!」


勝ったな、大勝利、これで今日も一日がんばれる。

海の作るごはんの中ではだし巻き卵が一番おいしい

他にはオムライスやサンドイッチなど、朝から作ってくれるし最高だ。まったくもって語彙力がなくなって困る。

正直朝起きれるのは海のおかげだ。これがなかったら俺は一生ベットの中だし感謝だな。


俺は朝食を二人で食べつつ今日の予定を思い返す。

確か今日は友人に部活見学に行かないか、と言われていたんだったな。行事系も落ち着いてきたし、タイミングとしてはちょうどいいだろう。もともと部活は入らなくてもいいかなとは思っていたんだけど「誘われちゃあしょうがない。」ってことで行くだけ行ってみようと思う。

帰宅がどのぐらいになるかはわからないけどまあ晩御飯には間に合うだろう。


「今日部活見に行こうって言われててさ、帰り遅くなると思う。」

「私も今日は部活があるから、全然平気だよ!というか、なんなら私のほうが遅いだろうし、大丈夫じゃないかな?」

「じゃあ大丈夫か。」


普段は朝ごはんは海の担当で、晩ごはんが俺の担当になっているが、全然大丈夫そうだったしあとは晩ごはん用の食材を買いに行くのを忘れなければいいか。


「ちなみにお兄ちゃん、誰と部活見に行くの?」

拳をぐっと握りながら海が言う。最近ちょっと何かあると『お兄ちゃん、こんな時間まで何やってたの…?』とか『お兄ちゃんから女のにおいがする…』とかよくわからないことを言い出すようになっていてもう怖くなってきている。

勇気ゆうき高山たかやまと、三人で行くよ。どこの部活に見に行くのかは全然聞いてないけど。」


二人は俺のクラスメイトで、中学から仲がよく、いつも三人で行動している。

海はそれに対し「ふぅん…」と言いつつこちらを見ている。変な感じに育たないといいけどな…

「あの二人だったら大丈夫だね。お兄ちゃん、くれぐれも気を付けてよね。」

「お、おう」


わからん、ほんとにわからん。一体何を気をつけろっていうんだ。あれかケガしないようにとかか?

俺は時々海の思考回路がわからない。


ふとテレビの方から、ここ最近あった事件が聞こえてきた。

『次のニュースです。先日××日早朝、○○県紅明市にある化学工場にて爆発事故がありました。爆発時、幸いにも中に人はおらず、ケガ人はいないとのことです。しかし、事故現場には不自然なほどの血痕が残っていたため、警察は事件性があると判断し…』

事件か…俺たちが住んでいる街だがそんな爆発があったとは知らなかったな。あ、いや誰かが学校で話してたような…


「この工場って確か山の方だったよね。ここからは結構距離あるけど、血痕が残っていたっていうならちょっと怖いね…」

「そうだな。事件性がありそうな感じっぽいし、注意しておくか。」

(そういえば、勇気が何か言っていたような…?)


「お兄ちゃん?ごはん早く食べないと、冷めちゃうよ?」

はっとして我に返り顔を上げると海が朝食を食べ終えて、こちらを心配そうに見ていた。

「あ、悪い。ちょっとぼけっとしてた。お皿は俺が片付けておくから、海は行く準備しにいっていいぞ。」

「わかったよ、お兄ちゃんも早く食べるんだよ!」

そう言って海は自室に戻っていった。

(…俺も早く食べて、行く準備しよう。)


海のほうが早く家を出るので、朝食の後に玄関で見送る。

それから俺は制服に着替え、持ち物を確認し、きちんと戸締りをして家を出た。


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少年が微かな違和感を感じていた時、誰かがどこかで、驚愕の声を上げる


『今の一瞬で気が付かれるとか、そんなことあるか?まじかよ…』

「私が見込んでいるだけあるな!!」

嬉しそうに笑いつつ返答を待つ。


『…そうだな。でも見込んでいる関係なくないか?』

「そうかなぁ…たしかになぁ…私が見込まなくても彼、■■■■■だからねぇ。そりゃ、ばれるよねぇ!でもまぁ、今のままだとやばそうだねえ。やっとの思いで■■■■■が押さえ込んでくれてる感じだけど、これじゃあ長く持たない。」

■■■はいぶかしげにしつつ話す。


『だろうな。じゃあ近いうちに?』

「かもね。でもその前にどうにかするさ。」

「■■■もいるし平気だろうよ。」

『だな。』


どこか安心しているようにも、満足しているようにも見える。

「早く逢えることを願っているよ、涼真君。」


■■■は不敵な笑顔を見せ、少年を観察するのをやめてどこかに歩いて消えていく。

その足取りは軽やかで、何かを楽しみにしているような…そんな様子だった。

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