レイラに悩んでいる人を斡旋してもらおう!

「レイラ、近くに悩んでいる人とかいないか?」


 俺は次の日の放課後、最近よくお世話になっている生徒会室に足を運んだ。

 そこではいつものようにレイラが机に向かい合って仕事をしていたが、今日もレイラ一人きりでやっぱり他の役員をあんまり見ない。

 まあそれには理由があるのだが、それはレイラの問題を解決するときに追及するとして、今はマリアだ。


「悩んでる人……? ああ、そっか、マリアさんね」

「そうそう。彼女に斡旋する迷える子羊を探しててね」


 レイラには今回のことも作戦内容までちゃんと伝えてある。

 だからすぐに合点がいったように頷くと、少し顎を引き考え始めた。


「う〜ん、いるにはいるけど……」

「ほお、それはどんな悩みなんだ?」


 俺が尋ねてみても、レイラは少し言いにくそうにしていた。

 何か言いにくいことでもあるのだろうか?

 ……ハッ!? もしかしてエッチな相談か!?

 エッチな相談がどんな相談かなんて分からないけど、ともかくエッチなのはダメだ!


「エッチなのはダメだぞ」


 俺が言うとレイラはジト目を向けてきた。


「お兄……何変なこと考えてるの?」

「あ、いや、変なことなんて考えてないぞ」

「でもエッチなのはダメって」

「聞き間違いに違いない。うん、きっとそうだ」


 しらばっくれる俺にレイラは呆れたようなため息をついた。

 それから観念したようにその悩んでいる人の情報を教えてくれた。


「これは他言無用でお願いしたいんだけど、私と同じクラスのユイちゃんって子のことなんだけどね」


 そう前置きしてレイラは話し始める。


 どうやらそのユイって子はとある男の子に恋をしているらしい。

 最初はいい感じだと思っていたのだが、どうやら相手の男の子の様子が最近おかしいみたいで、ひどくそっけなくなってきたのだとか。

 友人たちに調査すると、その相手の男の子は娼婦の息子で性的に奔放かもしれないと言われた。

 そのせいで相手のことを信じきれず、かといって疑うこともしたくなく、悩んでいるのだとか。


「うん、かなり重たい話だな」

「でしょ? それにプライバシーの問題もあるから、言い渋ってたんだよね」


 確かにこれは伝えるか悩む。

 それにこれをマリアが解決できるかどうか……。

 しかしこの悩み、上手くいけばマリアの無差別な奉仕も止まりそうな気がするんだよな。


 結局、マリアの無差別さは自己承認の無さと、他者からの愛情を歪んだ状態で認知しているからだ。

 つまり彼女は他人からこき使われることが自分の存在価値だと認識しているってことだな。


 だからもしこれによって、他者との相互関係の築き方や自己の存在価値のあり方を学ぶことができれば。


 うん、とりあえず一人で調査してみて、解決できそうな問題ならマリアに斡旋してみてもいいかもな。

 拗れてる話なら一旦スルーする方向でいこう。


「ありがとうな、レイラ。助かったよ」

「ううん、人のために尽くすお兄を見れて、私は幸せだよ」


 そう言いながらもレイラの表情にはどこか陰が落ちている。

 しかし俺はそのことに気が付かずに生徒会室を後にしてしまうのだった。



+++



 さて、先程のユイちゃんの問題が解決しそうかどうかを調査する必要があるのだが、それは相手側がユイちゃんに対してどんな感情を持っているのかによって変わる。


 例えば相手が本当にユイちゃんに対して遊びで弄んでいるだけなら解決はしない。

 後はもうユイちゃんの心の持ちようでしかなくなる。

 逆に彼が本気で付き合いたいと思っていて、すれ違っているだけなら、解決させるのは簡単だろう。


 と言うわけで、その相手の男の子——サイラスについて色々と調べ回ってみることにした。

 まあ俺の悪評はいまだに学園内に蔓延している。

 この状況で愚直に聞き回ったら変な噂が立ってしまうに違いない。

 俺に関する変な噂ならまだいいが、サイラスについて聞き回っていることを知られると、変に飛び火してしまう可能性があった。


 それだけは避けたいので、ちょっと遠回りすることにしよう。


「なあサクラちゃん、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど」


 俺はイリーナが作った初めての友達、モブAことサクラちゃんに声をかけていた。


「なになに!? 何を手伝えばいいの!?」


 彼女は元気一杯で、赤茶色の髪を無造作に纏めているそばかすの女の子の方だ。

 今回の任務は眼鏡のオドオドした方の友人では若干荷が重いと判断したから彼女の方に声をかけた。


「いや、サクラちゃんってコミュ力ありそうだから、聞き出して欲しいものがあってね」


 ちなみに彼女にはイリーナから真実が伝わっているらしく、学園内で数少ない俺の味方だった。

 眼鏡少女——ミーナも同じく俺の味方のうちの一人だ。


「えー、コミュ力なんてないと思うけどなぁ……!」

「またまた〜! 絶対あるでしょ〜!」


 俺がそう言うとあからさまに嬉しそうな表情をする。

 口ではそんなことないと言いながらも、分かりやすい子だ。

 逆に分かりやす過ぎて不安になるが、適任が彼女しかいない。

 レイラは生徒会役員というのもあり、人脈は広いが、友人感覚で話を聞き出すというのは不得意だからな。

 今回はいかに自然にバレずに調査するってのが目的だから、気さくな子の方がいいと思ったのだ。


 そして俺はある程度サクラちゃんをおだてた後、やって欲しいことを説明した。

 というのも、サイラスについてのバックボーンと本人の気持ちを聞き出すくらいだけど。


「分かった! それくらいならヨユーだよ! 任せて!」


 力こぶを作ってそう言うサクラちゃん。

 うん、頼りになる友人を持つってやっぱり重要だな。


 こうして俺たちはユイ・サイラス問題についての調査を開始するのだった。

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