久しぶりにイリーナとの時間を過ごしました

「しかし参ったな、これは……」


 俺はお悩み相談ボックスに送られてきた相談事の書かれた紙を仕分けながら思わずそう呟く。

 今日はマリアは聖女として祈祷を捧げに教会に行っていて、部室には俺しかいない。

 だから今しかねぇと思い、俺たちの部活に送られてきたお悩みの書かれた紙を確認していたのだが、そこに書かれている内容は、マリアの時間を奪った俺への愚痴か、宿題を手伝って欲しいとか、委員会のあーだこーだを手伝って欲しいとかのパシリとしか思えない内容だらけだった。


「う〜ん、全く良さげな相談がないじゃないか」


 本来の予定なら、もう少し純粋なと言うか、ちゃんと困っている人の悩みが送られてくると思っていたのに。

 まあ俺の学生時代を思い返せば、くだらないことで悩んで、くだらないことに振り回されていたように思う。

 だからくだらない相談が送られてくるのは至極当然といえば当然なのだが、それにしてもこれは酷い気がする。


「しょうがない。来ないのなら探しに行くまでだ。明日、マリアを連れて悩んでそうな人を探しに行こう」


 そう決めると今度はどこに探しに行くか考える。

 中庭か、図書館か、校舎裏か……。

 ベタなのはそこら辺だと思うんだが、そう簡単に見つかるだろうか?


 まあ最悪、レイラの友人関係の中に悩んでいる人がいないか聞いてみよう。

 彼女の紹介なら変な人は来ないだろうし。


「とと、そろそろイリーナとの待ち合わせの時間だ」


 今日は久々に二人きりの時間を作ってもらっている。

 最近はマリアに構っていてイリーナとの時間を作れなかったからな。

 たまには二人きりの時間がないと。

 せっかく念願叶って恋人になれたわけだしな。



+++



 イリーナとは彼女の寮室で待ち合わせしていた。

 俺がそこに向かうと彼女は既に待っていて、何やら紙にペンを走らせていた。


「ごめん、遅くなった?」


 俺が後ろから声をかけるとイリーナは驚いたようにビクッと身体を跳ねさせた。

 それから急いでその書いていた紙を鞄に仕舞うと、こちらに振り返った。


「……もう、ルイ。びっくりさせないでよ」

「ごめんごめん、って驚かせたつもりもないんだけど」

「むう、私が勝手に驚いたって言いたいの?」


 拗ねたように頬を膨らませるイリーナ。

 しかしどちらかというと甘えたい感じなのだろう。

 流石はマイハニー。

 今日も世界で一番可愛い。


「ははっ、ごめんな。つい驚かせちゃったみたいだ」

「許しません。これはお詫びをしてもらわなきゃ」

「はいはい、お詫びね。何をすればいいのでしょうか、姫」


 俺が恭しく言うと、イリーナは威厳たっぷりな演技をして言った。


「それでは今日一日は私のワガママにノーと言わないこと」

「……え、何をやらされるの?」


 イリーナの言葉に思わず身構えてしまうが、彼女はふふふっと企むような笑みを浮かべて人差し指を立てた。


「それではまず初めに、私の耳掃除をお願いするわ」

「耳掃除……?」


 耳かきってことか?

 俺が何かを言う前にイリーナはベッドにごろんと横になり、いつでもウェルカムな状態になった。

 恐る恐る頭の方に俺が腰掛けると、そのまま彼女は上に上がってきてその頭を俺の太ももの上に乗せた。


 ……仕方がない、彼女にはあまり構ってあげられなかったからな。

 今日くらいは思う存分甘えてもらうことにしよう。


 ちゃんと準備されていた綿棒を手に、俺は優しくイリーナの耳を掃除していく。

 彼女は気持ちよさそうにトロンとした表情で目を瞑っている。

 しばらくして反対側まで終えると、彼女は頭を上げて今度は自分の太ももの上を叩いた。


「ええと……」

「ルイにもやってあげるわ。ここに頭を乗せて」


 俺は言われるがままにイリーナの太ももに頭を乗せた。

 とても柔らかく弾力のある太ももだ。

 鍛えているのに、ちゃんと肉付きもあって、しなやかな感じだった。


 それからゆっくりと優しく耳かきをしてもらった。

 前世も含めた俺の人生の中で、一番心地よかった時間だったと言えよう。

 控えめに言って最高だった。


 それから俺たちは他愛もない会話をしたり、一緒に宿題をこなしたりして一緒の時間を過ごした。


「もうそろそろ日が暮れるわ」

「そうだな。女子寮の人たちが部活から一斉に帰ってくる前に戻らなきゃ」

「ふふっ、今更ルイが女子寮にいたところで誰も何も思わないと思うけど」

「いや、それはそれで困るんだが」


 でも確かに俺の悪評的に女子寮にいたところで、不思議がられることもないだろう。

 ……いや、嫌悪されるのは間違いないが。


「どちらにせよ、みんなに見られるのも良くないから、俺はもう帰るよ」

「うん、じゃあねルイ」


 そして俺は自分の寮室に戻る。

 いつもなら吸収した『闇因子』のせいで酷い悪夢を見るのだが、今日だけは少しだけいい夢を見ることができたのだった。

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