聖女様の無自覚な攻撃に妹はノックアウト
「最近、お兄様がモテ始めてきていて、私は心配なんです!」
何故かレイラはとても深刻そうに目を伏せながらそう話し出した。
それを聞いた俺は思わず頬が引き攣る。
マジかよ、そんな風に思われていたなんて……。
そんなにモテ始めてるか?
確かにイリーナと付き合うことが出来たけど、モテてるって感覚はない。
モテるってほら、多数の女の子からチヤホヤされるイメージだし。
俺のことを好いてくれているのはイリーナだけだし、このマリアだって俺のことを好きなわけではないだろう。
てか俺の前でそんな相談するなよ……。
おそらくレイラは俺の前でそんなことを言って、揶揄おうと思っているだけだと思うが。
「レイラさんのお兄様はとても格好いい方なのですね」
レイラの相談を聞いたマリアは変な方向に想像を働かせたのか、そんなことを言い出した。
いやいや、格好良くないぞ。
横に座ってるパッとしないモブ顔のつまらない男のことだぞ。
しかし何故かレイラはマリアの言葉を肯定するように頷く。
「そうなんですよ。私のお兄様はとても格好良くて凜々しい方なのですよ」
よく見てみると、レイラの口元が笑いそうになってピクピクしているのが見て取れた。
絶対に揶揄ってるよね、これ。・
しかし何も分かっていないマリアは純粋に無自覚で鋭い疑問を投げかけた。
「なるほど……。もしかしてレイラさんはそのお兄様がモテ始めてしまい、嫉妬していたりするのではないですか?」
な、なんと!
そうだったのか!
衝撃の事実発覚。
まあそんなことは絶対にないと思うが。
だが何故かレイラは動揺したように目を泳がせ耳まで真っ赤になりながら叫んだ。
「そ、そんなことはないです! 別にお兄がモテたことで、お兄を取られたみたいに思ったりなんかしてないです!」
「う〜ん、そうなんですか? レイラさんはお兄様のことが好きではないのですか?」
おいおいレイラよ、仮面が剥がれてきてるけどいいのか?
しかしマリアもかなり突っ込んだ質問をするんだな……。
その質問をされたレイラはあからさまに動揺して、口をパクパクとさせていた。
まあ自分で掘った墓穴だが、少し可哀想になってくる。
「ま、まあ嫌いではないですけど……」
嫌いではないんだ。
まあそれなら良かった。
完全に目がキョロキョロと泳ぎまくっているレイラをマリアは真剣な目でじっと見つめると、さらに爆弾を投下し始める。
「それは本心ですか? レイラさん、自分自身に嘘をつくのは辛くなるだけだと思いますよ」
おおっと、聖女らしい台詞だこと!
確かにマリアは別に自分自身に嘘をついているわけではないからな。
彼女の場合、完全に無自覚で自分を追い詰めている。
だからこそ彼女の問題を解決するのはかなり難しいのだが。
そう言われたレイラは完全に真っ赤になり、俯きながら膝の上で拳を握った。
流石に可哀想だったので、俺はマリアを止めてあげることにする。
「ま、まあ、マリア。別にすぐに答えを決める必要もないんじゃないか?」
しかし、そう言った俺にマリアは首を横に振る。
「いえ、それでは駄目なんですよ。ちゃんと自分の気持ちを自覚しないと、手遅れになったとき、凄く後悔しますからね」
なんだか実感のこもっていそうな台詞だ。
それを聞いたレイラは上目遣いでチラリとこちらを見た後、意を決したように顔を上げて口を開いた。
「そうですよね……。手遅れになってからでは遅いですよね」
「はい。ちゃんと自分の気持ちに向き合って、相手に伝えることが大事だと思います」
レイラの言葉にマリアは頷く。
俺は完全に置いてけぼりだ。
二人で頷き合った後、レイラは覚悟のこもった表情で前を向いて言った。
「私は……確かに嫉妬しているのかもしれません。もっとお兄様とお話したいのに、何故私が隣に居ないんだろうと思っているのかもしれません」
その直接的すぎる告白に、俺は動揺を隠せない。
マリアには悟られないように何とか誤魔化すが、心臓はバクバクだ。
「お兄様を変えることが出来たのが私ではなく、別の人だったことに嫉妬しているのかもしれません」
そうか……。
そんな風に思っていたのか。
ちょっとレイラには悪いことをした気分になる。
これからはもっとレイラとも交流を重ねた方が良さそうな気がしてきた。
レイラも俺も気まずくて視線を合わせられないが、それに気がつかないマリアは慈愛の笑みを浮かべてレイラの方に寄っていき、頭を撫でた。
「よく本心を言えましたね。後はそれをちゃんと本人に伝えられるといいですね」
いや、もうバッチリと伝わってるんですけどね。
そのお兄様とやらはマリアの隣に座ってたこの俺なんですけどね。
こうして相談と称して俺を揶揄おうとしたレイラは、マリアの慈愛の心に無自覚なカウンターを食らい、逆に辱めを受けることになるのだった。
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