部活動を立ち上げる男

 孤児院にお別れを告げた次の日の放課後。

 俺はマリアを連れて一つの空き教室に来ていた。


 ここはレイラ含む生徒会にお願いして用意して貰った教室だ。

 ちゃんと綺麗に清掃されていて、俺たちを受け入れる準備を済ませてくれておいたみたいだ。


「ええと、この空き部屋に何か用でしょうか? ……ハッ!? もしかして告白ですか!?」

「いや違うから。確かにマリアのことは可愛いと思うけど、告白じゃないから」

「あっ……それでは私はこれから貴方に襲われるのですね。身ぐるみを剥がされて『グヘヘ、姉ちゃんいいもん持ってんじゃねぇか』って言われるんですね」


 最近少しずつ分かってきたことだが、マリアは地味に妄想癖がある。

 聖女という立場故に禁欲を続けてきた結果、歪んだ妄想を繰り返すようになったみたいだ。

 最初に出会ったとき俺を自室に連れ込んで看病したのも、それが原因だったと踏んでいる。


 奉仕活動を続けているのもあり、M方面に歪んでいってしまったらしい。

 ゲーム時代でもあまりその性癖を見せることはなかったが、確かに思い返せばそんな素振りは地味に見せていた。


「そんなことするわけないだろ……! てかいいもん持ってる自覚はあるんだな!」

「初めては好きな人だと思っていましたが、こういう強引な穢され方をされるなんて」

「だから話聞いてた!? しないって言ったでしょ!」


 俺が慌てて叫ぶとキョトンとした表情で首を傾げてマリアは言った。


「え? しないんですか? ルイさんがそこまで意気地なしだとは思いませんでしたよ」

「すいませんね、意気地なしで! というか強引に迫られるのをお求めか!」


 この俺がツッコミ役をすることになるとは……。

 ここまで天然でボケられるとは才能あるぞ、この子。

 俺の言葉を聞いたマリアは何故か頬を赤らめて視線をそらした。


「ルイさん、それは言ってはいけませんよ。こういうのは求めていても口に出さない方が雰囲気が出るのです」

「どんな雰囲気だよ! それ絶対R-18系の同人誌の雰囲気だろ!」


 突っ込んだ後、俺はゼエゼエと肩で息をする。

 これから当分は一緒にこの部屋に居ることになるんだ。

 これ以上続けられると精神が持たん。


「まあ今はいいです。これからに期待するとして——」

「期待するんだな」

「——それで、この部屋は何に使うんですか?」


 俺のボソッとしたツッコミは無視され、マリアはそう尋ねてきた。

 ようやく本題だ。

 俺は気を引き締め直すと、一番奥に設置されている長机の前に立った。


「これより新しい部活を発足する! 部長は俺、部員は今のところマリアのみだ!」

「……どんな部活なんですか?」

「部活名はまだ仮だが、『聖女様のお悩み相談部』ってやつだ。要するにマリアが今までやってきたみんなへの手伝いを部活にしてしまおう、って訳だな」


 部活にするメリットは二つある。

 まずマリア自身が自分の奉仕活動にメリハリをつけられるということだ。

 彼女は今まで自分の奉仕活動を自分の生活の一環として考えていた。

 しかし部活にしてしまうことによって、部の活動の一環として捉えることが出来る。


 そしてもう一つ。

 単純にマリアが受けてくる頼み事を俺が管理しやすくなるということだ。

 何せ俺が部長だからな。

 俺のフィルターを通して奉仕活動を続けることが出来るようになるというわけだった。


 しかし俺の言葉にマリアはいまいちよく分かってない顔で首を傾げた。


「それって部活にする必要があるのですか?」


 今はまだ、俺が考えているメリットをマリアに馬鹿正直に話す必要もないので、適当にはぐらかす。


「ほら、こうすればマリアの行動が認知されて、手伝いを受けやすくなるだろ?」

「確かにそうですね……。よしっ、それでは頑張りましょうか!」


 おお、受け入れが早い。

 しかし素直すぎて本当に心配になるな。

 やっぱりマリアはもう少し他人の悪意に対して敏感になった方がいいと思う。


 まあともかく、俺は鞄から大量の白紙とペンを取り出した。


「さて、というわけで早速部活らしいことをしようじゃないか!」

「おおー! なんだかいいですね。青春みたいで」


 確かにメチャクチャ青春っぽい。

 うっ、俺の前世の古傷が疼くぜ……。

 灰色の中高生時代が思い出される。


「……まずはポスター作りだな。俺たちの活動をみんなに認知して貰う必要がある」

「そうですね。私の芸術的センスを光らせるときが来ました」


 何故かやる気を出してマリアが言う。

 でも聖女様ってイメージ的に芸術的センスありそうだよな。

 ちょっとどんなポスターを作るか楽しみである。


「じゃあこれよりポスター作りを開始する! 出来映えは完成してから見せ合うようにするか」

「ふふっ、楽しみにしていてくださいね、ルイさん」


 俺が言うと、マリアは心から楽しそうに笑って言った。

 最近、彼女もかなり自然に笑うようになっていった。

 最初の方はかなり壁があったというか、距離を感じていたが、段々とそれが取り除かれてきている。

 やっぱり女の子は自然な表情で笑っているときが一番可愛いのだと再確認するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る