子供たちとお肉を入手しました
「肉をもらうぞー」
「美味しいお肉ー」
「にっく、にっくー」
子供たちはニッコニコで大手を振りながらスラム街を歩いている。
なんだか凄く楽しそうだ。
「兄ちゃんも肉ー」
「刻んでもらうぞー」
「美味しくなーれー」
……物騒すぎませんかね?
なんでこんなに嫌われてるんだ。
「ちょいちょい、お兄さんは食べ物じゃないぞ?」
「え?」
「え?」
俺が言うと、子供たちはキョトンとした表情で首を傾げた。
なんでやねん。
「てか俺を食べても美味しくないだろ……」
「確かに不味そー」
「絶対に不味いー」
「やっぱり食べたくないやー」
……自分で言ってて何だけど、そう思い切り否定されるのも何だか悲しい。
思わずガックシ肩を落としていると、さっきからずっと無言だった少年と目が合う。
「……フッ」
また鼻で笑われた!
これで二度目だぞ!
この坊主の男の子はさっきからずっと無言だけど、目が合うごとに鼻で笑ってくる。
これが一番心に来るんだよなぁ……。
それから子供たちについてしばらく歩き、一つの家の前まで来た。
「ごめんくださぁい!」
子供たちは扉をノックしながらそう声を出す。
すると中からぬうっと強面のおっさんが出てきた。
スキンヘッドでメチャクチャ怖い。
しかし子供たちを見るとにへらと表情を崩し言った。
「おお、坊主たちか。肉を貰いに来たのか?」
「うん! お肉ちょーだい!」
おっさんはニコニコして子供たちの頭を撫でようとして、ようやく俺に気がついた。
「ん? 誰だアンタ?」
「え、ええと、今日から孤児院の手伝いを始めた、ルイってもんです」
ジロジロと訝しげに俺を見てきたが、しばらくして納得したように頷いた。
「まあ、こんな冴えない男が悪さを出来るわけもないか」
「だからぁ! みんな冴えない冴えないってひでぇと思うんだが!」
「ガハハッ! ルインちゃんにも言われたのか?」
「あっ、いや、彼女ではないけど……」
俺はそう言って子供たちを見た。
子供たちは必死に目を逸らす。
「ああ、なるほど。こいつらは素直だからな。正直に本当のことを言っちゃうのだろう」
……それ、俺が冴えないってことを本当のことって言ってるのと同じだからな?
余計に俺の傷口を抉ってきてるからな?
本日何度目か分からないが、再びガックシと肩を落とすとおっさんがポンポンと肩を叩いてきた。
「まあ、元気出せよ。冴えなくてパッとしなくても、顔立ちはそこそこ整ってるんだからよ」
「はあ……どうも」
褒められてるのか、これ?
まあ……褒めてくれているのだろう。
「それで、お肉はどのくらい欲しいんだ?」
「う〜んと、いつもより少し多くー」
「了解。それじゃあ捌くから中で待っててくれ」
そうしておっさんは自分の家の中に案内してくれた。
中はかなりボロボロの倉庫みたいだったが、何故か嫌な感じはしない。
そしてそこには巨大なオークが横たわっていて、おっさんはそれを解体し始めた。
「このオークって自分で狩ってきたのか?」
俺がおっさんに尋ねると、彼は解体作業をしながら頷いた。
「ああ、そうだな。これでも元冒険者だからな。左肩を壊して引退したが。ここにはそういった元冒険者の落ちこぼれみたいな奴も結構多いぞ」
ほへ〜、そうなんか。
まあ冒険者は体が資本だからな。
それを壊してしまったら働くこともできないのだろうな。
「だからこうして強くない魔物を狩って、何とか食い繋いでいるわけだ」
「オークってそこまで強くないのか?」
「まあ、冒険者の中ではかなり弱い部類だな」
そういえば魔物と戦ったことないな、俺。
まあ戦ったら絶対に死ぬが。
スライムで死ぬ男だからな、オークなんて絶対に無理。
「とまあ、こんなもんでいいか?」
「うん、大丈夫ー。ありがとー」
切り分けられた肉を子供たちに手渡して、おっさんは立ち上がった。
子供たちは持ってきた籠をそのおっさんに渡すと、思い出したように言う。
「そういえば、こいつも解体してくれると助かるー」
「この兄ちゃんも解体よろしくー」
「美味しく仕上げて欲しいかもー」
子供たちはそして俺を指さした。
本気で食うつもりなのかよ……。
俺が愕然として頬を引き攣らせていると、おっさんが憐憫の視線を向けてきた。
「なかなか不遇な扱いを受けてるな、アンタ……」
「くっ……これも愛情表現だと思いたいな……」
とまあ、こうして俺たちは目的のお肉を手に入れ、孤児院に戻った。
するとルインとマリアが野菜を切り分けながら待っていた。
「あっ、お帰りなさい!」
「どうでした? ちゃんとお肉は手に入れられましたか?」
そんな二人に子供たちは駆け寄ると言った。
「うん、頑張ったー」
「褒めてー」
「でも兄ちゃんの肉は手に入れられなかったー」
「兄ちゃん、やっぱり役に立たなかったー」
そんな子供たちをニコニコと彼女たちは撫でながら言った。
「よく頑張りましたね」
「でもルイさんのお肉は別に要りませんからね?」
それからルインの指導のもと、俺たちはカレー作りに精を出すのだった。
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