何故か子供たちに虐められるモブ

「胸デケー」

「尻デケー」

「それに対して、こっちはパッとしないなー」

「本当に冴えない感じだなー」


 現在、俺とマリアはスラム街のシスター、ルインに連れられて教会脇の畑に来ていた。

 そこでは十歳前後の子供たちが、せっせと畑仕事をしていた。

 人数は六人、男子三、女子三の組み合わせだ。


 それから彼らは俺たちに気づくや否やすぐに取り囲んでくる。

 好き勝手に言い始めた子供たちに俺はニヤリと笑みを浮かべ、人差し指を振った。


「チッチ、分かってないな君たちは」

「何が分かってないのー」

「この人、子供相手にマウント取ろうとしてるー」

「意地汚いやつめー」

「大人げないやつめー」


 ちょいちょい。

 流石にお兄さん、その発言にはブチギレですよ。

 てかマウントなんて言葉、どこで習った。

 と思いつつも、俺は大人なのでブチギレてもわざわざ顔に出したりしない。

 冷静な笑みを浮かべて子供たちに教えてやるのだ。

 そう考えながら口を開こうとすると――。


「この人、口元が引き攣ってるよー」

「わー、怒った怒ったー」

「こんなんでキレるなんて大人げないー」


 いやぁ、流石にね、ここまで言われて黙ってられませんよ。

 俺は静かな怒りを湛えながら、子供たちにしっかりと教えてあげることにした。


「本当に分かってないな。こう言うパッとしない男がな、実は影で全てを操っていた、ってのが王道なんだよ。『影の英雄』的なやつな。だからお前たちは俺に逆らってはいけないというわけだ。分かったか?」


 俺の言葉を聞いた子供たちはフッと嘲笑を浮かべる。


「この人、英雄譚の読みすぎで頭がおかしくなっちゃった人だー」

「自分のことを客観視できない人だー」

「自分が英雄だと思い込んで、各地を旅しようとしだすような人だー」


 ムキー! と、俺は思わずハンカチを取り出して噛んだ。

 散々な言いようである。

 子供たちの辛辣すぎる言葉に、俺は思わず大ショックを受ける。

 てか、ここまで言われてショックを受けない人間なんているのだろうか?


 それよりも、子供たちというのは純粋でちゃんと慕ってくれるのではないか、と考えていたさっきまでの俺を殴りつけたい。

 これだと俺だけではなくマリアも子供たちの餌食になり、恩を仇で返されるのではないか……と一瞬思ったのだが。


「こっちのお姉さんは可愛いから好きー」

「チョー可愛いー。大好きー」

「僕もお姉さんにあやかりたいー」


 な、なんだと……。

 態度の差が酷すぎる……。


「ふふっ、ありがとうございます」


 チラリとマリアの方を見ると、まんざらでもなさそうな表情だ。

 良かったと思う反面、悔しくもある。

 なんで俺だけあんな対応をされなきゃいけないんだ……。

 確かにモブ顔だけどさぁ……モブ顔だけどさぁ……!


 そうガックシと肩を落としていると、取り囲んでいる一人の少年と目が合う。

 そういえば彼はまだ俺に悪口を言っていない!

 彼だけは俺の気持ちが分かってくれるのではないか……!?


「……フッ」


 あっ、鼻で笑われた!

 畜生! どうして、どうしてだよ!


 さめざめと泣いていると、流石にルインは申し訳なくなったのか、子供たちを叱った。


「駄目でしょ! このルイさんがちょっと冴えないからってそんなことを言っちゃあ! せっかく手伝ってくれるって言ってるんだから!」

「……ルインさん。そのセリフは俺に超大ダメージを与えてるんだが」

「あっ……! す、すいません! そんなつもりじゃあ!」

「ふっ……もういいのさ。俺はモブ顔で冴えなくてつまらなくて、気持ちが悪い存在価値のない人間なのだから……」


 やばいやばい、『闇因子』関係なく闇落ちしそうだ。

 そう後ろ向きになっている俺にマリアがボソッと。


「……私は結構、ルイさんの顔立ちも好きですけどね」


 はい、全ての罪を許します。

 良かったな、迷える子羊たちよ。


 しかし、流石は聖女様だ。

 救済もお手の物みたいだった。


「それで、私たちは何を手伝えばいいのでしょうか?」


 マリアが話を戻すようにそう尋ねる。

 それに対してルインは畑の様子を眺めながら言った。


「う~ん、もう今日の畑仕事も終わってしまったみたいですし……」


 それを聞いた子供たちがまたやいのやいのと言い始める。


「もう用済みらしいよー、兄ちゃんはー」

「お姉さんは可愛いから許すー」

「兄ちゃんは帰ってもいいってよー。良かったねー」


 だから何でそんなに辛辣なんだ……。

 流石にお兄さん、悲しくなりますよ。


 そんな好き勝手言っている子供たちを、ルインとマリアは無視することに決めたらしい。

 二人で勝手にドンドンと話を進めていく。


「それでは、夕食とかは作ってあったりしますか?」

「まだですね。というより、少し他のスラムの人たちに食料を交換しに行かなきゃいけないかもです」

「そうですか。いつもは何と交換しているのですか?」

「ここで採れた野菜とか穀物とかですね。肉とかは私たちじゃあ調達出来ないので、それを交換して貰っているのですよ」

「なるほど……。私が交換しに行きましょうか?」


 マリアがそう尋ねた後、ルインは少し考える。


「う~ん、いきなり知らない人が行っても断られるかもしれません。私たちがついていくか、今日はまだ料理に徹して貰うのがいいと思います」


 ルインのその言葉にマリアは納得したように頷く。


「確かにそうですね。では私は料理の方を手伝わせていただきます」


 その言葉の後、一斉にみんなの視線が俺に向いた。


「な、なんだ……? みんな一斉にこっち向いたりしちゃって」

「い、いやぁ……ルイさんって料理はできますか……?」

「…………あっ、そっかぁ。そうだよな、料理はできなきゃ手伝えないよな」


 前世でも自炊はせず、コンビニ弁当で済ませていた俺のことだ。

 料理スキルなんてあるわけがない。

 それを聞いた子供たちはなぜか顔を見合わせて頷いた。


「シスター、こいつ連れていくー」

「いざとなったら肉にして貰うー」

「せめて美味しくなってくれよー」


 その辛辣すぎる言葉に俺は言い返そうと思ったが、料理できないせいで足手纏いになっていることも事実なので、ただ肩を落とすことしかできないのだった。

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