マリア・サンタアリアの悩み

——マリア・サンタアリア視点——


 最近、嫌な夢を見る。

 昔、昔の夢だ。


 私の両親……特に父は病気がちで運動ができなかった私に対して、いつも気まずそうに距離を置いていた。

 田舎では子供も重要な労働力だ。

 喘息で激しい運動をするとすぐに倒れてしまう私は、その期待に応えることができなかった。


 そんな私に構ってくれるのは祖母だけだった。

 祖母は私を可愛がってくれたし、こっそり食べ物を寝床に持ってきてくれた。


『いいかい、マリア。私はマリアが生きてくれているだけで嬉しいのよ。可愛い孫だからね』


 祖母はよくそう言っていた。

 そんな祖母に私はよくこう返した。


「おばあさま。私は絶対、いつか元気になって、恩をお返しします」


 しかしそんな祖母は十歳の時に亡くなった。


 ——結局、私は祖母に何もしてあげられなかった。

 ——あんなに優しくしてくれた祖母になんのお返しもできなかった。


 それから私は孤独に戻った。

 だがその孤独はすぐに終わる。


 祖母が亡くなった半年後、私が聖女であるとはるばるやってきた教会の神父さんが言ったのだ。


 それを聞いた両親の態度はすぐに変わった。

 神父さんに治癒魔法を習い、自分の喘息を治すと、余計に私を持ち上げるようになった。


『マリア、マリアは何か食べたいものでもある?』

『今日はマリアが治癒魔法で村の人の病気を治したから、いい獲物でも狩ってこようか』


 両親は今までの距離感が嘘のように私に構った。

 私はそれが嬉しくて、他人のために治癒魔法を使うようになった。

 治癒魔法以外にも、色々と手伝いをするようになった。


 そして、そんな私をみんな『流石は聖女様だ』と言って褒めてくれた。


 祖母がもう少し生きてくれていたら。

 私は祖母にももっと恩を返せたのに。


 その時、私の中に二つの観念が芽生え始めていた。


 他人に対して尽くしていれば、他人は私に構ってくれるということ。

 他人がいなくなる前に尽くしておかないと、後々後悔することになるということだ。


 ズブズブと奉仕活動にハマっていった。

 自分を蔑ろにしながら他人に尽くしていった。


 そうすると、ドンドンと私の周りに色んな人が集まってくるようになった。

 その人たちの頼みを私が断らずにいると、ドンドンと頼み事を持ってくるようになった。


 ……これでいいのだ。

 私が望んでいた世界はこれなのだ。


 どんなに忙しくなろうとも、どんなに辛い思いをしようとも、私は他人に尽くすことでしか、社会との繋がりを保てず、他人との関係性を築くこともできないのだから——。

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