イリーナとデートをして、そして——

 やってきました、イリーナとのデート当日。

 昼過ぎくらいに俺は制服を身に纏い、学園の門の前でソワソワと待っていた。


 生まれて初めての制服デートだからな。

 ワクワクしないわけがない。

 だってあの超絶銀髪美少女と制服デートだぞ!

 今心躍らなくて、いつ心躍るんだって話よな。


 しばらく待っていると、いつも通りの制服を身に纏ったイリーナがやってくる。


「お待たせいたしました。それじゃあ早速行きましょうか」

「おっ、おう。そ、そうだな」


 ヤバイ。

 メチャクチャ緊張する。

 ゲボ吐きそう。


 しかしイリーナは余裕のありそうな表情で先導してくれていた。

 凄く頼りになる反面、自分の情けなさに悲しくなってくる。


「それで、今日はどこにいく予定なの?」

「大通りを歩きながら、気になった店に入る感じかな」


 前世の日本みたいにデートスポットといえばここ、みたいなのはあまりないらしい。

 まあ大型ショッピングモールやら、水族館遊園地みたいなレジャー施設もないからな。


 それから俺たちはぎこちなく話しながら大通りに向かう。

 緊張してしまい、頭がうまく回らない。

 イリーナはやっぱり余裕そうな表情をしていて、俺だけ緊張しているみたいだった。


 少し歩いて大通りに辿り着く。

 休日ということもあり、大通りは人で賑わっていた。


「凄い人の数ね……」

「確かに。……はっ、はぐれないようにしないとな」


 俺は緊張で上擦ったような声で言い、なんとかイリーナの手を握る。

 すると隣から小さく驚きの声が聞こえてきた。


「……あっ」


 チラリとそちらを見てみると、耳まで真っ赤にして狼狽えているイリーナが見えた。

 ああ、やっぱり少し見栄を張って余裕があるように見せていただけみたいだ。

 リードしようとしてたんだけど、突然俺が手を握ったことにより、動揺してしまっている。

 おそらくそんな感じなんだろうな。


 それに気がつくと、今度は俺の方に余裕が出てきて、イリーナに寄り添うようにゆっくり歩く。


「行きたいところとかあったら言ってくれよ」

「え、ええ。そうするわ」


 完全に余裕そうな仮面は剥がれ、恥ずかしそうに俯き動きがぎこちなくなっている。

 一瞬、揶揄ってみようかと思ったが、流石にデートなのでやめておいた。

 俺は空気が読める、いい男を目指してるからな。


 ゆっくり大通りを歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。

 甘味系の甘い匂いだ。

 どうやらスイーツ屋が近くにあるらしく、イリーナの方を見ると彼女も気になっているみたいだった。


「あそこのスイーツ屋に入ってみるか」


 俺が指差してそう言うと、彼女は食い意地張ってるように見られるのが恥ずかしかったのか、小さく頷いた。


「うん、ちょっと気になるわ」


 そうして俺たちは美味しそうな匂いのするスイーツ屋に入ることになったのだった。



+++



 それから甘いものを食べ、服屋を見てまわり、魔道具屋や本屋に寄ったりしてデートを楽しんだ。

 終わることにはそこそこ緊張も解れ、肩の力を抜いて楽しむ余裕もできていた。


「それじゃあ、また明後日教室で会いましょう」

「ああ、そうだな。それじゃあ」


 学園の敷地に戻り、俺たちはそう言って別れた。

 明日も普通に休日だからな、会うのは明後日になってしまう。


 楽しかった時間が終わり、俺の心に影が落ちていく。

 その気持ちにこの間イリーナから譲り受けた『闇因子』が反応して——。


 ガンガン。

 ガンガンガン。

 ガンガンガンガン。


 頭の中を執拗に蹴り続けてくるような痛みに、思わず俺は頭を抱えて蹲ってしまった。

 くそ……こんなことでも『闇因子』は反応するのかよ……。

 なんとか歯を食いしばって、心が闇に落ちきらないよう踏ん張り続ける。


 しかしその痛みは徐々に増していき……。


「——大丈夫ですか?」


 そんな声が頭上から降ってきた。

 顔を上げると、シスター服を身に纏った少女が心配そうにこちらを見てきていた。


 ああ、彼女は——本作二人目のヒロイン、聖女マリア・サンタアリア。

 聖女でありながら、心に闇を抱え、邪神によって闇堕ちさせられてしまう少女。


「ぐっ……だ、大丈夫だ」


 俺はそう返すが、全くもって大丈夫じゃない。

 頭はガンガンと痛むし、心臓の鼓動も天井なく早まっていく。


「ちょ、ちょっと保健室に行った方が良さそうですけど……」


 一瞬、彼女に連れて行ってもらおうかと思ったが、イリーナとのデートの後だ。

 そんないきなり第二のヒロインとイベントを起こすわけにはいかない。

 いつかは彼女のことも助けるつもりだが、まだ闇落ちまで時間はあるし、ゆっくりやろうと思っていたのだ。


 だから……そんな、彼女に助けてもらうわけには……。


 しかし俺は酷くなっていく痛みに徐々に意識が遠のいていって。

 いつの間にか気を失っているのだった。

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