第2話 私は誰?


―――


「何を今更。ここはブルデン公爵家ではないですか。」

「いや、そういう事でもなくてね……って公爵家だったんだ……」

 メイドちゃんのきょとん顔にずっこけながらも私は顎に手を当てた。


(公爵って確か貴族の中で一番偉いんだよね。私ってばよりによってそんな凄い所のお嬢様になっちゃったの……?)


 貴族の階級は下から男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順になっている。この部屋の内装だけ見ても結構なお金持ちだと思われるから公爵の中でも上の方なのだろう。私は頭を抱えたが、大事な事を思い出して顔を上げた。メイドちゃんがビクッと体を震わせる。


「あの〜……つかぬ事を伺いますが、私は誰でしょう?」

「は?」

「あ……」


(しまった!唐突すぎたか……うーん、どうする?誤魔化すか?それとも恥を忍んで色々と情報を聞き出すか……)


「一体どうしてしまったのですか?今日変ですよ、お嬢様。」

「えっ……と、うん!そうだ!記憶喪失、記憶が突然なくなったの。だからここが何処かとか私が何者かとか全部、忘れちゃったの。」

「記憶が?本当でございますか?」

 疑いの目を向けられてたじろぐがこの際だと開き直って頷いた。


「そう!だから教えてくれない?私は誰?あと貴女の名前は?で、この世界の事を出来るだけ詳しく教えて。」

「……畏まりました。」

 まだ若干疑っているようだったがメイドちゃんは気を取り直すようにコホンと咳払いをした。


「お嬢様のお名前はエルサ・ブルデン。ブルデン公爵家の一人娘です。ブルデン公爵家はこのモニカ帝国の三大公爵家の一つで、最も伝統も格式も高い家門です。旦那様の名前はルーア・ブルデン。奥様は五年前にお亡くなりになられました。キャサリンさんといってとってもお綺麗な方でした。普通なら後妻をお迎えしてお嬢様の下にご兄弟を設けるものですが、旦那様が頑なにお拒みになって……近い内に首都の孤児院から養子として男の子を迎える事が決まっています。その子がブルデン家の次の後継者となる予定でございます。あ、私の名前ですね。私はケリーと申します。お嬢様の専属のメイドです。今後とも宜しくお願いいたします。」

「あ、よろしく……って孤児院から連れてくる子を後継者にって事は私は?」

「お嬢様はもうすぐ皇太子殿下とご婚約、ご結婚なさるので心配には及びません。皇太子妃殿下となった後は皇太子殿下が皇帝に即位するのと同時に皇后様になられます。モニカ帝国の母となるのですよ!ブルデン公爵家の誇りです!」

「皇太子妃?皇后!?……マジ?」

 あまりの内容にガックリと肩から崩れ落ちる。


(この世界では政略結婚が当たり前みたいだけど何でよりによって皇帝になる人と?まぁ、格式が高いって言ってたし妥当な線なんだろうけど……)


「……拒否権、なんてものはないよね?」

「えぇ?皇太子殿下は顔がいいからって喜んでらしたではありませんか。あ、それもお忘れになっているのですね。」


(エルサ……貴女、ミーハーだったのね。)


「と、とにかく何となくわかったわ。この状況がどういうものか。ありがとう。」

「いいえ、私の仕事はお嬢様をお助けする事ですから。記憶が早く戻るといいですね。」

「え、えぇ。そうね……」

 適当に相槌を打つとようやくベッドから抜け出す。メイドちゃん、改めケリーは慌てて扉の方へと歩いて行った。


「湯浴みの準備を致します。少々お待ちになって下さい。」

「湯浴み?」

 頭にハテナマークを浮かべながら大人しく待っていると、タオルや石鹸を入れた桶を持ったケリーが戻ってきた。


「さぁ、浴室に行きますよ。」

「浴室?……って、一緒に入るの?」

「当たり前です。私の仕事はお嬢様の身の回りのお世話をする事ですから。はい、服を脱いで下さい。」

「え、え……キャーーーーーー!!」


 無理やり服を脱がされ、私は思わず悲鳴を上げた……



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