『旧世紀スカイスリー』

やましん(テンパー)

『旧世紀スカイスリー』 


 脱落者の運命は、華々しい。


 高さ3200メートルのビルから、飛び降りをさせてもらえるのである。


 三人一緒にだ。


 だから、スカイスリーと呼ばれる。


 ビルがあるのは、中部太平洋。


 技術の進歩は凄まじいのである。


 海側からのダイブである。


 埋葬は不要。


 お魚たちには、すぐ、貴重な食糧になる。


 電力は、海から取っているから、お返しみたいなものだ。


 ただし、もし、最上階まで、二日以内に歩いて上がれたら、飛び降りは免除されるが、間に合わなかったら、結局、飛び降りになる。あと、10段で力尽きた人もあるらしい。


 脱落者は、みな、高齢者か、病人、犯罪者、いわゆる政府に従わない社会不適応者、ばかりである。


 地球独裁政府は、二日もあるんだから、『極めて人道的な措置』と、自画自賛していた。


 人々は、それを、盲信しているか、あるいは、恐れていた。


 しかし、確かに、さっさと歩いて上がってしまう人も居るには居たのである。


 ただし、それはそれで、結局は、その体力を買われて、軍隊に入れられる。


 その先、生き残れるかどうかは、わからない。


 どっちが良いか、悩みながら階段を歩く人もあるという。


 途中には、政府による、人生相談所も設置されている。


 なお、一般は、最上階までのエレベーターが有料だが、スカイスリー用は、無料で乗れる特典もあった。最上階からは、スカイスリー見学が出来るが、下からはできない。



         🌖



 地球は、月植民地と、長い戦争中であった。


 火星植民地は、月に荷担していた。


 地球は、押されぎみで、戦争に身を注ぎ込むか、ひとべらしに協力をするか、ひたすら兵士にする子孫を作るか、金を払うか、どれかの選択を、地球市民に強いていたのである。


 戦場は、ながく、地球と月の間だったのだが、このところ、様子が変わってきた。


 なんで、戦争をやめられないのか、疑問を呈する人もいたが、みな、粛清されるか、宇宙に脱出するかした。


 飛び降りも、いまや、地球市民の神聖な義務となっていた。


 

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 そうして、ついに、21世紀は終わりに達したのである。

 

 明日からは、22世紀だ。


 月の都市『ムーンキョウトワン』の、やまさん70歳は、地球を見ながら思った。


 『あそこにいたら、すでに、スカイスリーだよな。』


 月では、なぜか、長生きできることが判っていた。


 月は重力が小さい。一秒で1.6メートルしか落ちない。少々落ちても衝撃は少ない。


 『とびおりても、せんないだけだ。なんで、喧嘩ばかりするのなかあ。バカみたいだ。バカみたいだなあ。』



 月にもたくさん高層住宅ができたが、スカイスリーはない。


 しかし、このところ、地球からの爆撃があるのだ。


 中心機能は、すでに月の裏側に引っ越したが、まだ、おとり用の住宅や施設が、かなり残されている。


 人間のやることは、どこにいても、あまり変わりはないわけだ。


 ただし、月は、もとから、でこぼこだらけ。


 爆撃されても、最終的に、さして景色は変わらないのであった。




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『旧世紀スカイスリー』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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