「それを見た人だけが」白井ののによる怪談小ネタ集

闇之一夜

「それを見た人だけが」白井ののによる怪談小ネタ集

「それを見た人だけが死ぬ」って話、よくありますよね。いとこが通ってる高校の話なんですけど……。



 バイク仲間の不良グループがいて、面白い地蔵があるというんで、見に行ったそうです。

「これかよ、叩くと呪われるっていう地蔵は」と、Aが頭をぺちぺち叩きました。

「こんなん、たいしたことねえって」と、BとCも笑って小突きました。

「にしても、むかつく面してんな、こいつ」と、Dが顔を蹴りました。


 帰りに寄った喫茶店で、Dが地蔵のことを言いました。最後に地蔵の顔を蹴った人です。

「しっかし、あんなおっかねえ顔して、あれでビビるとでも思ってのかねえ」

 すると、とたんに三人の顔色が変わりました。

「おい、なんだよ、おっかねえ顔って」とA。

「眉をこう、ガーッと吊り上げてよ、目ん玉ひんむいて、鬼みたいな怒り狂った面してたじゃん」

「なに言ってんだ、おめえ。あれ、怒った顔なんかじゃねえぞ!」とA。

「そうだよ。目ぇ閉じて、顔なんかつるつるでさ、表情なんか、なかったじゃんよ」とB。

「D、おめえ、なんかと勘違いしてんじゃねえか?」とC。

 でも、Dは「なに言ってんだ、ぜってえ激怒の面だったって。すんげえ形相で、こっちにらんでたじゃんよ。おめえら、ちゃんと見なかったろ」


 みんなは薄気味悪いと思いながら、一様に無表情だったと言いましたが、結局、最後までDだけは、怒りの形相だったと言い張って、その場は終わりました。

 その翌日、Dはバイク事故で死にました。




 ほかにも、そういう話があって……。

 SさんТさん、それにUさんの三人連れが、同じ職場からの帰り道、偶然そろって、徒歩で駅まで行くことになりました。

 途中の路地で、Sさんが指差すんです。古びたアパートの二階の窓から、誰かの腕が出ているんです。顔も肩もなにもなく、ただ腕だけをまっすぐに窓から掲げて、そのまま棒みたいに、ぴたっと止まっているんです。

 その不自然な様子に、みんないっせいに嫌な気持ちになりました。


 ところが、それから駅まで行く途中でのことです。

「今の、嫌がらせかね、ありゃ。誰かが気味悪がると思ってさあ」

「たぶんね。あんなことする理由がないもの。やだねえ、ほんと」

 SさんТさんが口々に言ったあと、Uさんが、こんなことを言いました。

「まったくだよ。あんな窓から腕だして、こっちに手招きするなんてさ」

「手招き?」


 SさんТさん、固まりました。でもUさんは、けげんな顔で続けます。

「手招きしてたじゃん、何回も『おいで、おいで』ってさ。なんのつもりなんだかな。やっぱ脅かしてるつもりなんだね、ありゃ。まったく、ふざけんなって感じだよな」

「おい、ちょっと待て! 手招きなんか、してなかったぞ」

「そうそう。ただまっすぐ上に伸ばしてただけだ」

 二人はそう言いましたが、Uさんだけは、「いいや、絶対に、こっちに手招きしてた」と譲りませんでした。


 翌朝、Uさんは駅のホームで、通過してくる急行の前に飛び降りて、はねられました。即死だったそうです……。

 見た人の話では、吸い込まれるように、レールの上にふわりと降りたそうです。

 彼だけが、何かに招かれたのでしょうか。




 その人だけが見てしまう、そして、その人だけが連れていかれる……ってお話、ほんと多いですよね。

 たとえば――



 とある心霊スポットで有名な廃屋の探索に、三人で行って。

 終わった帰り道、一人が言ったんですよ。


「なんにもなかったね。特に二階なんて、ただ広いばっかりでさ」

 とたんに二人は血の気が引いて、

「ええっ、おい、二階なんてなかったぞ!」って。


 後日、その二階に上がったという人だけが倒れて。

 原因不明の高熱で死んだそうです。(終)

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「それを見た人だけが」白井ののによる怪談小ネタ集 闇之一夜 @yaminokaz

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