第36話 お花見日和

 移動したのはいつぞやの屋台。移動前に全員にクリーンをかけて、ちょっと小綺麗いにした。私が無理。取り敢えず、全員分の肉串を買うと、お店に邪魔にならないところで食べるように指示して、おじさんに追加で昼と夜用の30本を頼み、焼き上がりと共にバックに仕舞わせた。保管庫だったら時間停止だけど、使う訳にもいかない。

 金蔓に逃げられることを警戒して貼り付いて離れないロウ少年は好きにさせ、子供たちと合流する。


「お前、何で自分で歩かねんだよ」

「めんどうだから。色々なことが」


 歩きたくはある。偶に自立歩行したくなることもあるが、それをするにはモンスターペアレントモドキという魔物(モンスター)と戦う必要性が出てくる。Lv.にすればSSS《トリプルエス》。私にそんな気力はない。好きにさせて、楽をできるならそれはそれだろう。

 子供たちに前払い派か、後払い派か尋ねると、前払い派の子も結構いた。つまり、今日の串は自分で持っておきたい子。何人かは、どの道今日は食べれないし、仕事の邪魔だからって預けっぱを所望した。1日1食だって言ってたもんね。信じらんない。

 そしてちびちゃん組はどっかはずれの実が自生しているところがあるらしく、途中で分かれた。

 私たちは年長組に連れられて歩くこと数分。目の前には、小さな穴が。


「ここ?」

「そうだ」


 私はいける。ウォルフもいける。でも立派な成人男性で逞しく頼もしい構造のグランが通ろうとすると、壁を壊す。


「グラン、縮める?」

「腕を切れば」

「無理だよ。肩幅がもうアウトだもん」

「では、諦めるか?カエデだけで行かせる訳にはいかないぞ」


 まぁそうなるよな、と私は諦めて朝からずっと傍にいる青点に声を掛けた。


「あれ?ディオルグさん、クリスさん?おはようございます。奇遇ですね」


 グランは分かっていたが、それ以外の素人さんに気付かせるような尾行は勿論していなかった2人は、私の挨拶に物陰からぎくりとした気配をさせて、気を取り直したように何食わぬ顔で姿を見せた。


「おう、お嬢ちゃん。奇遇だな」

「ホントホント。そんなに気になるなら、朝から顔見せればよかったのに。同行が本気で嫌な時は、全力で撒くんで遠慮しないでください」

「……次からそうする」


 苦虫を嚙み潰したよう顔で、何かを諦めた溜息を吐くと、傍に寄って来た。


「で?何してんだこんなとこで」

「ちょっと、グランがすくすく成長しすぎてて。近い門はどっち?」


 更なる大人の登場で身を固くして警戒しているロウ少年に、私は尋ねる。


「大丈夫。こちら、この街の冒険者の知り合いで、【炎帝の剣】のディオルグさんとクリスさん」

「よろしくな」

「こんにちは」

「こっちは、今日私が仕事を頼んだ子供たちです。詳細は省きます。それで、あの場で隠れてたことはチャラにしましょう」

「……分かった」

「カエデさんには敵いませんね」


 手を上げる2人に、私は笑顔で提案する。


「で、跡をつけてたことは、これから一時門の外に出るときの口利きで許します」

「……………」

「……本当に、敵いません」


 こうして、門へのフリーパスを手に入れた。

 戸惑いの強い少年たちに連れられて到着した先には見晴らしのいい野原があり、まばらに生える枯れ木とその向こうに鬱蒼と茂る森の木々が見えた。


「あの向こうがルアークの魔の森だ。魔の森を抜ければ、隣国シュラスト帝国に着く」

「へぇ。この向こうが」


 いかにも知ってますよって訳知り顔で相槌を打ちつつ、そんな国あるんかと知識のノートにメモる。


「アレがウォークウッドだ」


 ロウ少年が私たちの話に割り込み、森の手前に生える木を示す。どう見ても木にしか見えないけど、近付くと木の洞が顔っぽい。

 ここで、勝手にグランが魔力献上することにしていたがいけるかと視線で問えば、頷いて私を下ろした。


「ここに居ろ。ウォルフ、カエデから離れるな」

「分かってっし」


 何か、SPに守られるVIPって気分になる。


「相変わらず過保護なこって」

「そう言えば、その服。似合っていますね。随分見慣れない服ですが、ウォルフくんが?」


 私たちと一緒に留まったディオルグさんとクリスさんは、マントから見えるズボンから昨日までの襤褸とは違うと気付いてそう尋ねてきた。私が一番みすぼらしかったからな。

 私は嬉しさいっぱいと言う笑顔で頷く。


「はい!ウォルフ、あっという間に3着作ってくれて。夜中まで起きてて、早く寝ろって言ったんですけど、服がないと困るからって」

「・・・・・・・・」


 隣からジトっとした視線を感じるが、私は知らない。これはウォルフが家政スキルで作ってくれたのだ。私の伝家の宝刀万能保管庫は秘匿案件なのだから。


「器用ですねぇ。もっとよく見せてくれません?」

「い、や。あの、すんません」


 クリスさんにたじたじになりながら、ウォルフが何と切り抜けようと頑張ってるので、私はそっと援護した。


「クリスさん。ウォルフは恥ずかしがり屋なんで、これ以上突っ込んであげたらダメですよ」


 私は口に手を添える素振り程度で、ここだけの話を聞こえよがしにするお局さんを真似て続ける。


「家政スキル、あんまり男の子としては嬉しいもんじゃないみたいなので。服についてはこれ以上触れないでください」

「あ、そうか。…そうだね。ゴメン。でも、誇っていいスキルだと僕は思うよ」

「・・・・・・・・」


 生温い視線でウォルフを讃えるクリスさんに居たたまれなくなったウォルフは、完全に俯いて頭を下げた。背が一番低い私にしか見えないけど、盛大に睨まれた。

 そんな話をしている間に、いきなり目の前の光景が変わった。


「すっご」

「こりゃ。流石だな。魔力量があると、ここまで違うのか」

「アリアは1本の開花まで3時間かかりましたからね」


 枯れ枝に一気に緑が芽吹き、次いで花が咲いた。しかもグランの立つ周りの5本が、一遍に。


「これ、1本あたり何個くらい獲れるんですか?」

「多い奴で100個程度って聞いてる」

「ならこれで確実ですね」


 満開の白いリンゴの華が美しく、はらはらと花びらが雪のように舞い出して、その光景に私は目を細めた。グランがフード被ってんのが惜しまれる。乙ゲースチルにしろ、普通のお宝ショットにしろ、垂涎ものの画になったろうに。これ1枚で、荒稼ぎだ。カメラあるかな、この世界。

 私はこっちを見たグランに親指を立てて頷いた。


「さて、これでリンg…じゃなかった、ウォークの実が生る。花の数から500以上は確実だから、最初の条件でいいね?」

「・・・・・・・・あぁ」


 目の前の光景に唖然としていた少年たちは、まだどこか呆然としたまま頷いた。


「てかさ、これ収穫したとして、どうやって運ぶの?」

「え…あ、えと。考えてなかった」


 その質問に初めて現実が見えてきたのか、ブレーンっぽいハーフエルフの子も困ったような顔で顔を顰める。

仕事を終えて戻って来たグランに、私は綺麗だったと感想を述べた。


「こりゃ、ギルド案件だろ」

「ダメですよ。これ、この子たちの仕事だし、私たちの取分は絶対です」

「なら、そこ隠して」

「グランのこと伏せて、この状況が説明できると?」

「・・・・・・・・・無理だな」

「無理です。絶対」

「私たちの分の収穫終えてからってことでどうでしょう?冒険者はもうすぐ谷に討伐に行くんでしたよね」

「!!そうですね」

「ポーション、必要でしょうね」


 ポーションの材料だと聞いているウォークの実。いくらあってもいいはずだ。余計な詮索しない口止め料としてなら、分けてあげてもいい。


「その通りだな」

「信頼のおける人に、信頼のおける範囲で説明してみては?収穫については、この子たちを仲間に入れて分け前を寄越すで、どうですか?」


 私は少年らに向き直る。


「400個、早急に集めて欲しい。その後は、持てる分だけ獲ったら、この人たちとギルドに行って報告するといい。君たちの集めきれなかった分は、ギルドが実を集める道具一斉を用意して収穫依頼を出すから、このA級冒険者のおじさんたちが責任もって君たちにもその依頼を手伝えて且つ報酬が出るようにしてくれるってさ」

「でも」

「じゃぁ聞くけど、君らこの実を運ぶ道具用意できんの?」

「それは…」

「大人に全部いいところ盗られちゃうよ?2時間以内に集めたら、この布をあげよう。これに君たちの確実に確保しておく取分集めたら、それ以上は報酬あってラッキーなくて残念くらいの心持でいなよ。欲張ると、全部失うことになりかねないよ?」


 私はグランのバックに入っている、ストックだぼつかせてるウルフの革を出し、そう提案する。2人でこれの端と端持てば32個以上は確実だし、小銀貨1枚以下の利益になることはないだろう。何故なら、この布(革)がもう小銀貨7枚だ。それ5枚手にするってことだし。


「できる?」

「っ…やるよ!やってやる!!」

「よろしく」


 私は引き受けてくれた少年たちにエールを送りつつ、暫し花見と洒落込んだ。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.5』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,634,410ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,390/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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