第37話 異世界食材事情

 実が生るまでにもう数分かかるとのことだったので、私は手持ち無沙汰に周辺散策。料理によく使うローズマリーとバジルの群生地を見つけ、遊んでるふりしてこっそり収納しておく。大葉も見つけて上々だ。他のハーブもあったから、こっちは乾燥させても問題ないしマジックバックに入れて置いた。あとは醤油とか作れたらいいけど。大豆からか?いや、ここは異世界。もしかするともしかするのかも。私はある程度本日の軽い運動に満足し、戻れば鈴なりに実リンゴの木々に年長組のみんなが頑張っていた。


「お~。大分集まったね」

「異常だろ。1本あたりに500~600は生ってんぞ」


 一応、魔物を警戒する意味で、子供たちに付いていてもらったディオルグさんたちに合流すれば、げんなりとした声でそう溢されるが、豊作はいいことだ。


「もう200は集まってますね。グランとウォルフはバックに詰めておいて」


 私も近づき、1個だけ拝借。ちゃんと400個の取分カウントさせたからね。

 私は傍から呆っとしてるように見えても構わないように、邪魔にならない光合成に丁度良さげな日向に座り、実験。

 保管庫に拝借した1個を素材枠にセットし、もう一つにシュガーをセット。さぁ、いざ錬成!

 フッと思わず勝者の笑いが。枠を見れば、これはgカウントじゃないのか。1の表示。


「何かいいことがありましたか?」


 おっと、私のすぐ傍にいたクリスさんに鼻息が聞こえてしまったか。私は鼻の穴を隠す序でに口元も隠す。思い出し笑いじゃない。スケベと勘違いされても嫌だ。


「いえ。ウォークの実、追加で買おうかと」

「それはいいと思いますが、そんなにあってどうするんです?」

「それもそうですね」


 シュガーを全部これに使う訳にはいかないかと。私は胡坐をかいた膝に立てた肘で、万一ニヤツいてしまってもいいよう口元を隠して、実験がてらの暇つぶしを続けた。

 実質1時間ちょいで収穫を終え、昼ちょっと過ぎに私たちは街に戻れることとなった。


「あ、のよ…その…ありがとな」


 ロウ少年がディオルグさんと冒険者ギルドに報告に行く間、残った子たちは収穫を続ける役割分担がなされたようで、門まで一緒に行くことになり、ディオルグさんとクリスさんの打ち合わせを待つ間にお礼を言われた。


「おぅ。まだ収穫は終わってないんだし、獲れるだけ分捕っとけよ。あと、子供らにはできればうちのバックのことは話すなって言っといてくれると助かる。騒ぎになったら、即街出ないとだから。まぁ、私ら追い出したかったら話していいけど」

「!!ぜってぇ他言させねぇ。しゃべった奴、処罰対象だからな」


 後半、大分離れてるけど、木で作業してる子たちに向けて普通に話した。獣人便利だね。体育館の向こういる子に、教室の隣の席で話してる子に話しかけるノリで伝わるって。メガホン要らず。


「そうか、助かる。ところで、ここに居る子らに預かってる肉どうする?今から年少組のところに行くから、その子らに渡すでいい?」

「あぁ。それでいい」


 初めに会った時なら絶対受け取っただろうが、まぁまだ夕方まで作業あるのに受け取っても蟻が…ここってサイズ感普通の蟻いるんだろうか。

 そんな異世界生物事情を考えてるうちに、ディオルグさんがやって来て門へと向かった。


「じゃ、子供たちの報酬、頼みますよ?」

「おう。任せとけ。お前らは、この後は?」

「まだ色々行くとこあるんで。じゃ」


 何か聞きたそうなディオルグさんと、未練なく分かれて背を向ける。他人と別れる時は、基本きっぱりあっさりとって…決めてはいないけど、そう言う性質だ。中学の卒業式の日、最後の号令と共に一人さっさと帰ろうとしたら冷たいって評された。でも受ける感慨もなかったから、帰ったけどね。

問題は年少組の作業場だが、私らは知らないから元々夕方に朝の場所集合になっていたから、時間が早すぎたけど覗いてみる。案の定誰もいないから、市場を見て回ることにした。認識阻害掛ければ顔の印象もぼやけるから、遠慮なくマジックバック使えるのはありがたい。

 小麦粉が少ないし、オリーブオイルも欲しい。アロナはサラダ油っぽくて使いやすいんだけど、店では扱ってないっぽい。ただ嬉しい誤算で、オリーブオイル樽をこっそり収納したら、如何いう仕組みかは不明だけど樽で1カウントだった。と言うことは、250樽入る。年間消費量としては十分だ。取り敢えず、10樽買わせた。宿に着いたら詰め替えよう。今持ってるオリーブオイルは数瓶分だし、こっちをバックに入れよう。容器カウントの不思議に乾杯。

 次に小麦粉。これは異世界食材で、ライスライムってマラカスのシャカシャカ鳴る部分を2周り位大きくした実から精麦した状態の種が獲れる。何か何本かある芯っぽいのにピーマンの種みたくついてるようだ。割ってみたことないから断面図からの考察だが。それを、マラカスそのものにシャカシャカすれば実の中で芯から外れ、割ってビックリ麦ゲットってなる。粉にするには更に潰さないといけないけどね。小麦粉(慰謝料)なくなってから、手ごろな石で麦から潰してたからね。グランとウォルフが。私は応援した。だが、今の私に死角はない。錬成でどうにかなるはず。多分。

 とにかく、その実を枠いっぱい買って、もう欲しいものは・・・あ、鉄串だ。ヴァンガルドさんのところへ行く途中、軒先に謎に飾られてるニンニクと鷹の爪所謂唐辛子[レッドチリ]も買ったら変な顔された。じゃぁ何で飾ってんのかって思ったら、これを嫌う魔物がいるからゲン担ぎらしい。


「こんにちは」

「あら、昨日のお嬢さん。いらっしゃい。ちょっと待ってね、あの人呼んでくるから」


 阻害を解いてヴァンガルドさんの店に入ると、店番していた奥さんがすぐに気付いて立ち上がったのを、私が止める。


「いいですよ。ちょっと、肉串用の鉄串売ってないかなって来ただけです。ヴァンガルドさん忙しいでしょうし。明日は顔見せますって伝えといてもらえます?」

「分かったわ。鉄串ね、いくつかあるけれど大きさはどれくらい?」

「この程度で」


 前に倣えを少し開くくらいで長さを示す。店の隅のコーナーに案内され、10本setを購入した。

 目敏く気付かれた服を少しだけマントを開く程度で披露し、ゴースト作者ウォルフが褒め殺しに合う一幕を終えたところで、私は話題を逸らす序でに尋ねた。


「そう言えば、ガラスの小瓶が欲しいんですけど、この辺売ってるところ知りませんか?」

「小瓶?どんなの?」

「色々サイズ感はみたいですけど、小さいのは掌で包めるサイズから、大きいのは両手で抱えるサイズまで」

「ガラスは普通、板か酒瓶しかないからねぇ。あ、薬事ギルドってのも手ね」

「薬事ギルド?」

「えぇ。ポーションの瓶としてね。でも、ギルド員以外に売ってくれるか」

「そりゃそうですねぇ」

「ルアークには職人もいないから、相談に乗ってくれそうな職人がいるとなると…私たちの故郷くらいかもねぇ」

「ソフィアナさんたちの?」

「えぇ。鉱山と職人の国“ラッカス”。大陸じゃ、ドワーフが一番多くいる国だと思うわ。国民も、ほぼドワーフね。勿論、他種族方もいるけれど。あの国は、鉱脈が多いこともだけど、世界で唯一鉱物を落とすダンジョンがあるから」

「ラッカス…ここからだと、御実家は近いんですか?」

「帝国の奥だから、国2つ分越えないとダメね。魔の森を越えれれば、帝国を通るだけで済むのだけど。そうもいかないから。一旦トラヴァルタに入って、帝国を通ってってなると結構遠いわね」

「へぇ」

「もし行くことがあれば、『空の涙』ってお店を私の従姉がやっているから、是非訪ねてみて。ガラス工芸のお店よ」

「いつか、機会があれば是非」


 雑談を終え、私たちはソフィアナさんに見送られ店を出た。


「お前さ、いい加減俺が作ったって嘘止めろよ」

「じゃぁ聞くけど、1晩で3着も立派な服を作れそうな人、私たちの中で他に誰が?」

「・・・・・・・・グランの兄ちゃんでいんじゃね?」

「それもそれで似合うけど、もう炎帝の人等に聞かれちゃったから手遅れ。嘘は、付き通してこそ嘘になるのだよ、少年。ま、どうせこの街だけだし、いんじゃ?」


 私は恨めし気なウォルフをいなしながら、少し早目に待ち合わせ場所で待つこととした。


「カエデ、疲れていないか?」

「疲れたけど、あと2カ所。夕方はヴァンガードさんとこにも剣とベルト受け取りに行かにゃだしね」


 タイミング良いグランの問いに、私は双剣の話題でウォルフのご機嫌上昇を狙えば、狙い通り少し揺れる尻尾を視界の端で確認し、白い雲の浮かぶ空を見上げて小さく微笑む。米は、“ライスの実”になるのだろうかと何時か巡り合える日に思いを馳せながら。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.6』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 169,596,410ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,390/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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