第5話 優先すべき議題
驚きの冷めやらない呆然とした空気の中、同じ船ならぬ同じ檻に捕まった者同士、自己紹介から始めた。
同時に私も今の我が身(捕虜)を思い出し、探索(サーチ)を発動して外の様子を伺っておいた。サーチを見る限り、唯一の出入り口は広い空間に繋がっていて、そこに山賊たちがいるみたいだった。人数7人、洞窟の外に2人。今は夜中らしく、他に見回りもいるはずだからちょっとした人数ではある。
外の奴らは寝てるからということで、状況の整理もしながら、試しに治癒魔法を使ってかすり傷や打撲をおっていた子供にじっ・・・治療を施すことも忘れない。
それでだいぶ落ち着いたのか、子供たちも涙を何とかひっこめだした。グッジョブ、自分。
「それじゃあ、改めて。私はカエデ 19歳 日本人 女性。朝何故か森で起きて、4足歩行の豚もどきに追いかけられて、2足歩行の豚もどきに捕まって、今ここ」
「嘘つけ。お前どう見たって、ヒューマンのガキじゃねぇか」
すかさず突っ込まれて、私は40代平社員のサラリーマン顔負けの哀愁を漂わせた微笑を向ける。
「ふっ・・・察しろ」
「・・・・・お、おう」
ウォルフ少年は語る、『あの時、俺は確かに殺気を感じた』と。
気圧されて口を噤んだ少年に代わり、純粋無垢な子供がキラキラとした視線を向けてくる。
「おねぇちゃんは魔法使いサマだから、年をとらないんだね」
「いや。順調にすくすくと育って、成人一歩手前だったさ。でもね、人生どう転ぶかわかんないのが人生なんだよ。こんな訳分からん転び方もどうかと思うけどな」
もはや次長(自嘲)も課長も出てはこない。出るのは達観した係長だけさ。
抑揚なく笑う私に、幼いながら触れてはならないと理解できたのか、話を変えるようにおずおずと名を名乗りだした。
■ウォルフ:(9)Lv.11 男 獣人(狼属)
HP 103/115 MP 15/15 SPEED 180
ジョブ:孤児
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv5』
補足:孤児で借金のかたに売られそうになって、奴隷ギルドに向かっていたところ更に捕まった不運な少年。私に懇切丁寧に色々教えてくれ、口は悪いけど何だかんだで面倒見がいい、ツンデレ兄貴。
■ルック(6) Lv.5 男 ヒューマン
HP 57/63 MP 3/5 SPEED 10
ジョブ:町人の子供
魔法属性:木
補足:泣き虫な末っ子っぽい。甘えたで、ヒールしてあげたらくっついて離れなくなったのはいいけど、今若干私のが体が大きいくらいだからちょっと離れて欲しい。
■マルチダ(8) Lv.7 男 ヒューマン
HP 32/73 MP 20/20 SPEED 16
ジョブ:町人の子供
魔法属性:風
補足:近くの街に住んでて、捕まったらしい。ルックの兄で、素直でエエ子だ。
■リーナ(11) Lv.6女 ヒューマン
HP 54/64 MP 15/15 SPEED 8
ジョブ:農民
魔法属性:土
補足:近くの農村に住んでて、街に買い付けに来た父親とはぐれて人攫いに遭ったらしい。引っ込み思案っぽいけど、かわいい。
■マーシャ・ブレナ(7) Lv.8 女 ヒューマン
HP 80/85 25/25 SPEED 10
ジョブ:商家の子供
魔法属性:火・風
補足:まだ、泣くの我慢してるから話したいけど口開いたら泣いちゃうからしゃべれないと表情で言っている強者。将来有望な美少女。どっかのお金持ちの子か貴族のお嬢様っぽい見た目。辛うじて聞き取れるのは、お父様がどうのこうのと極小音声で言ってるけど、何言ってんのかわかんない。
マルチダ君とリーナちゃんいわく、ここはトラヴァルタ王国という国の北部一帯で今騒がれる“毒蜘蛛”のアジトだろうとのことだった。
そんな異世界レクチャーを受けながら、私はさっきからめった刺しにされていた――痛いほどの視線に。自己紹介に加わるでもなく、じっと無言で無表情な視線が注がれている。正直、美形の無表情ほど怖いものはない。怒ってない・・・はずなのに謝り倒したくなる、存在してることを。ただ、私はそれをひたすら無視して取り合えず情報収集を優先した。
あの気配は知っている。近所の野良猫――私命名タヌキ――が、まだツンな時代に距離を測っていた時の視線だ。タヌキが初めて指をなめてくれた時のデレ感の可愛さときたら・・・半端なかった。最も、人外の美形と我が愛すべきモフモフとでは、見つめられることでの精神衛生への影響が真逆だと言えるが。
まぁつまり、先方は今警戒偵察中だ。こっちが構うと、かえって引掻かれてしまう。ここは思う存分放置しよう。できれは、不干渉条約を締結しよう。永遠に。
子供の知識はたいしてなかったけど、現状含め一通りの情報を聞き終え、私は今後の計画を話しあう。
「取り敢えず、お腹空いたよね」
「うん」
私の意見に返事してくれたルック君と頷いてくれたマーシャちゃんを除き、何故か変なものを見る目を向けてくる子供たち。
「・・・お前、まず話し合うべきは他にあるだろ」
「だってお腹空いたもん。なんか、ステーキ食べたのがいつか知らないけど、少なくとも1食は食べ逃してると、胃が言ってる」
「意味わかんねぇよ。俺たちは今山賊に捕まって、明日の朝にでも売り飛ばされたって不思議じゃないんだぞ。こんな時に、そんなんどうでもいいだろ」
ウォルフの正論に同意するように理解できる子たちは暗くなり、つられて空気読んだっぽいルック君の目に涙が復活する。だが、ここは譲れない。
「いや。食事が何よりの優先事項でしょ。今考えるべき未来のことで、これ以外のことはどうでもいい。ここの衛生環境を見る限り、どう考えても美味しいご飯は出てこない。つまり、自分で確保するしかないということだ」
人差し指を立ててキめる私に、ウォルフの正論に再び暗くなっていた一同が、呆気に取られている。
「カエデお姉ちゃん、わるいヤツらやっつけられるの?」
マイナスイオンなルック君の質問に、私はサーチ画面を見て一考する。
殺すのは無理だ。いくら犯罪者だからと言って、私にそんな度胸はまだない。だから当初決めていた通り、攻撃魔法は無しだ。コントロールが不安すぎる。
かと言って、結界で洞窟から締め出して籠城するにも救出が来るかもわからないのなら無謀だ。食糧が底をつく可能性が高い。
となれば、選択肢は一つ。
ここにある食糧を拝借して、森で追加の食材を探しご飯を作る。それしかない。
「どうでもいいわ。俺たち今捕まってんだって、何度も言ってんだろ。今の現状分かってねぇだろ、お前マジで。バカなんか?バカなんだな!」
私の説明を聞いたウォルフの突っ込み&失礼な断定に、私は首をかしげる。
「結論にすべきはそこじゃねぇだろ。逃げられるか逃げられないかだ」
「あぁ、そこは問題ない。まぁ、危ない橋は渡らない派だから、今回は捕まえまではしないけど。食材確保して出てくことは可能だから、憂慮すべきは朝ごはんの献立だって」
「・・・何か、カエデがそう言うなら、そうなんだねって気がしてきた」
きっぱり言い切った私に、マルチダ君が気の抜けた苦笑を返す。
「ホントにできるの?」
不安そうなリーナちゃんに、私は理論上可能そうな実験をしてみた。
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