第6話 作戦変更

 検証して得られた結果から、魔法って本当にチートだなぁと思った。


「うん。この方法ならいける」

「今の魔法で何が分かったんだよ」

「ん?まぁ、見てれば分かる」


 理屈の説明は面倒だから省いて、私は小腹を満たせるものを思い出す。


「・・・お前、そんだけ魔法使えんのに、何で捕まったんだ?」


 鼻歌を歌い出す私に、ウォルフは気味悪そうに尋ねる。


「え?ご飯食べてて」

「意味わかんねぇし。お前自身も訳分かんねぇけど、何かすっげぇ納得できるのは何でだ」


 ブツブツと何か言ってるウォルフの肩を、私はそっと叩く。


「あんま細かいこと考えてると、禿げるぞ」


 私のこれ以上ないほど親切な忠告に、何故かチョップで返された。


「決行は夜明け前だから、皆寝て鋭気を養え」

「エイキってなによ」


 見通しが立って復活したらしいマーシャちゃんが、初めて人語をしゃべった!


「鋭気っていうのは・・・あれだ・・・・だから・・・・・つまり・・・・・・森の中を歩く体力を残しておこうってこと」


 意味を忘れたわけではない、ただ鋭気を養って成すべき目的を説明してあげただけだ。だから決して、鋭気という言葉の意味を忘れたわけではない。

 思わず出てもいない冷や汗を拭いつつ、私はあるものを取り出す。

森で見つけた房でなっていたラズベリーもどきを。だがしかし、不用意にアイテムボックスから取り出したのがいけなかった。それを見た年少組の喜び様が凄かった――凄すぎた。奇声を発して喜んだチビちゃんたちの口を塞ぐも、時すでに遅し。サーチを確認すれば、点が動くのが見えた。


「やばっ。みんな散れ。寝たふり」


私の号令に、みんな瞬時に散っていく。そして、石床ダイブを決め込もうとしていた私の視界に、身を寄せ合ってサークルを作っている私たちから少し離れた位置にいた、一際まばゆきご尊顔が目に入る。

コンマ1秒、私は突如乱入してきた母親からエロ本を隠す中二男子も目ではない速さで動いた。


「うっせぇぞ、クソが。何騒いでやがんだ、クソガキども」


 再び驚きに目を見開く顔を横目に、私がその漆黒を抱き込んだ直後、背後から声がかかる。

ビクッと怯えて肩をすくめたふりして、顔だけで振り返る。


「おっさ・・・おじさん、だぁれ?、」


 親に見つかったら死ねるブツを私は懐深くに抱き込む。


「はっ。何だてめぇ、その気持ちわりぃもんよく触れんな」


 牢屋越しでこれ以上距離が縮まらないことを感謝する。因みに、嘘は昔から得意です!――だって、さぼれるときにはさぼりたい。


「おじさん、このお兄ちゃん死にそうなの。助けて」

「ぎゃはははは。まったくな。おっちんじまいそうだよなぁ。そんなガラクタ、もう使いもんになりそうにねぇが。竜人しかも“黒”ならまだ金になるかもしれねぇからな。お頭も、最期までえげつねぇことするよなぁ。ま、奴隷商のとこなら協会に高い金出してでも状態修復できるかもしれねぇからな。どうせ死ぬだけなら、上手く売れれば儲けもんだな。王侯貴族さえ欲しがる竜人奴隷様だ」


 下品に笑いながら吐かれる毒から、どうやらこの超絶美形のもと主人はこの猿山のボス猿だったのだろうと知れる。

次いで男は、私を値踏みするように見下ろしてくる。


「てめぇも、愛想よくしときゃ、いぃご主人様に買い取ってもらえんだろ」


 その下卑た目に、イラッときた。今なんかイラッときたよ、猛烈に。

 俯いた私に何を勘違いしたのか、満足そうに笑って戻っていた下種の余韻に、私は決意する。


――よし、こいつら潰して慰謝料を分捕ろう。


 イラつきのまま腕に抱えるそれを強く抱き締め、その固さに思い出す。


「・・・えっと。その後、傷の具合などはいかがなものでございましょうか」


 そう、とっさに抱え込んでいたそれは、クッションでもエロ本でもなく――この状況にも動じていない人体の頭部だったことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る