五月雨

静かに、息を引き取りたい時がある。

雨音が聞こえて、心が痛む。直ぐに眠くなる、その旋律が_。

 

 ある日のことだ、瞼を閉じた。

そこにあるものを数えて、泣きたくなる時がくる。カーテンの隙間から見えた、薄暗いブルーに雨音が鳴って。

 くるりと、膝をついた。


「太宰にでもなるのかい、きみは」

「いいや、ならねぇなあいにく」

「拙い舌だ、気味が悪い」

「まだ、口触りが良くないんだ」

「ほら、雨が降っている」

「ああ、あれは天神さまの呼びだろう」

「呼び?…そいつは随分と酔狂だね」

「おまえを狛犬とする方が、大概だ」


 十字架を奉納した、夜の日のこと。

お焚き上げに持っていた中に、その磔の男はむざむざと泣いていた。雨が降るだろう、鳥居は黒色で。

 真っ赤に染まるのは、口の中だけ。


「はて、きみは利口な男だったか」

「いいや、女の胸のうちに溺れたいね」

「ああ、なんて罰当たりなんだろうか」

「ついでに、害悪を、海に」

「それで、かの海は日本と呼ばれたままで?」

「それが、正しい」

「波紋が呼ばれてしまうよ」

「それは、天神さまの気まぐれだ」

「稀に見る、真摯な心意気だこと」

「狛犬は、喚くしか出来ない」


怒った、驕りがちらついて。

 ぱんっと、カーテンが上から落ちて来てしまう。汗がたらり、雨水がどろどろと這い出ては顔を見えせていた。


「きっと、かの者はおまえを」


 静かに、息を引き取りたい時がある。

雨音が聞こえて、心が痛む。直ぐに眠くなる、その旋律が_。

 狛犬に向けて、にやりと笑う。


「_悪魔と"呼ぶ"」

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