自然体に死んでくれよ、せんせい

くそみてぇな人生だと、思っている。

実際、せんせいとやらは俺に教えちゃくれなかった。掲げたパワポ、ミスった数値。

 そんなんだから、俺は夜も眠れやしない。

「計測状況が芳しくなく…比較状況が」

「それは言い訳じゃない、他の理由はないの?」

「はい、すみません」

 「あと、実測の器具に不具合が出たんなら、報告しないと…君たちいる意味ないからね」

「はい、すみません。ご指摘ありがとうございました」

 人生の、せんせいとやら。

先人だからって、調子乗ってじゃねぇと噛み殺した、奥歯。悔しさ、口惜しさ。俺の責任かもしれぬ、口の悪さ。

 余計なことを言ったか、正直に言えば良かったか。後ろに控えた後輩、ぐちぐち言われんのは俺だけでいい。

 そう格好付けた、襟元が黄ばむ。

「業務態度、減点しとくから」

この業界は、実測の数値のずれが命取り。握った、客の命。分かっちゃいるが、眠れもしない積み重なったデータが、落ちてきて。捌く手先、殺されかけた後輩の吐息。

 帰り玄関、開けたスト缶がうまくない。喉越し悪く、ふて寝しようにも鳴り止まないメールの電子の配列が。

 

「_言い訳しないでよ、きみ」


 俺が上手いのは、口の悪さだけ。

実力出しきれぬ言い訳やら、沢山のごたくの中。いっそ、せんせいよ、あんたを愛せたら土下座も出来るさ。

 

 いつか、俺が殺す客たちよ。

そろそろ、眠らせてくれよ。


 出来ないなら、開き直らせてくれと。掴んだ玄関の鍵を鼻の中ブッ込めば。スト缶が、鼻から逆流して咽せ込んで。

荒い息に、明日は人生の査定の日。

 上のまた上の、せんせいの集合体が俺を評価する。ジーザス、俺はキリスト教に生まれたかった。


 神は、死んだらしいなんて可愛いこと言わせてくれよ。自然体に、世界は回っていく。


 気付けば、通帳の半分はスト缶。

震える手で引く線と、集まる数値。客の命が手のうち、その飛行機を落とさせてくれ。技術者になりたかったわけじゃねぇ、俺はそいつをこき使う立場になりたくて。

 俺らを使う、文系よ。

金がないという割には、屍の上に立っている気分はどうだ。そろそろ眠らせてくれよ。

 スト缶も。胃から逆流する玄関先で。転がる枕に、丸まったティッシュ。もはや、NHKすら集金に来ない鉄骨造の扉。

 ファミマのスト缶に、高いからと出向けないスーパー。24時間やるところは、いけない。そいつらも、寝たいだろうに。

 

「器具の報告聞いてないけど」

「問題ないと、…あの」

「なに?しっかりやんないと、それじゃJAXAみたいに落ちちゃうよ」

「はい、すみません」


 すみませんが、ごめんなさいより軽くなっている。JAXAも転ぶんなら、スト缶で指先震えちまう俺は、もうゾンビも同然だろう。批判された掲示板と、YouTubeのコメ欄。どこぞの新聞紙は、掻き立てていらっしゃる。

 

 なぁ、そろそろ眠らせてくれよ。


 俺たちも、人間だって。

せんせい、あんたも人間なんだろ。だから、ふと思っちまうこと。


 なぁ、上手いのは口の悪さだけなんだ。

許せよ、頼むから。

 自然体に死んでくれよ、せんせい_。


人生のせんせいたち、あんたら全員のことだよ、くそ野郎。

 くそ野郎、俺も死にてぇよ。

_自然体に死んでくれよ、せんせい。

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