空蝉の文豪
あなたの書いた話が、恐ろしく憎かったのです。
白状致しましょう、お口直しと申されましても。私は、悪辣に言葉を並べるだけ。あなたは、その繊細な一振りで、描いてしまうのでしょう。
なんと、惨たらしいことか。
あなたの書いた話が、とても見れたものではないのです。酷く頭を掻き毟って、冷酒を煽ったことでしょう。その身振りに、ただ、ぽろりと出た一言に。
私は、どうしようもなく。
__あなたが、憎たらしい。
賞賛される、その瞬間を眺めておりました。ひっそりと、じっくりと、あらを探して。ひたすらに、自惚れに浸るだけの愚か者であることを祈りながら。
なぜ、あなたは賞賛されているのでしょうか。
ひとつたりとも、頷くことも出来ない物書きの、その姿勢が焦らしを持って。そして、この戯言に同意する虫けらも、私はどうしても、どうしようも。いつからか、喉奥から、臓物が出そうになっております。
あなたは、語るのです。
いかに、物書きの志たるかを説くのです。悪辣たる私の、その醜い文体に投げかけ、慈悲を与えてしまう。人それぞれ、素晴らしいとでも、仰る。
そのとき、ふと思うのです。
あなたは、なんて、傲慢な__。
きっと、私は幼子に思えているのでしょう。窘めるように、随分と上の方から、優しく語りかけてくださるものだから。書いた、書き殴った全てを指差しで評価してしまう。そんな、あなたを心から、そう心から。
私は、胸元でそっと軽蔑しているのです。
ああ、賞賛をください。
埋まらぬ自尊心を私の、その文でもって取り繕うならば、いっそのこと。あなたは、決して私をお認めにならないでしょう。あなたの書いた話が、読めたものではないのです。
たくさんの意味を持って、読めたものではないと。
私はどうしても__。
あなたの努力すら、認めたくはない。
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