第35話 地面へと

 ドン!


「うッ!」


 バン!


「きゃぁ、あああっ!」


(えっ! な、何? 何が起きたの?)


 あの時の僕は、自身の真横から聞こえた鈍い打撃音と。


 ウルハの息を詰まらす声──。


 その後は再度打撃音と。


 今度はウルハの絶叫が聞こえ。


 バタン! と音を立てて、ウルハが地面に倒れた。


 だからあの時の僕は、驚愕の余り、泣くのが止んだ記憶があるよ。


 だってさ、直ぐにまた別の女性の声──!


「ウォン! 貴様ぁッ! 姉さんに不意打ちで何をしやがるー!」


「いい加減にしろよ! ウォン!」と。


 僕の周りを歩いていたヤンキーの御姉さま達──。


 僕の妻達数人が、地面に倒れたウルハを凝視し、視線をウォンへと変え、睨みつつ呻り吠えると。


「はぁ、あああっ!」


「やぁ、あああっ!」


「食らえぇえええっ!」


 僕達の後方から駆け寄り、勢い任せでウルハの横腹、肝臓の位置──。


 生き物の急所をめがけて、ウォンは力強く、重たい拳を。


 ウルハの華奢な身体へと一発入れれば。


 あいつ、女だろうと手加減しないから再度、ウルハの肝臓の位置をめがけて蹴りを入れた。


 だからウルハは、地面に倒れて動かなくなり、脇腹を押さえつつ、呻り声を漏らし始めだしたから。


 僕の周りにいる他の奥さま達が憤怒! 怒りをあらわにしつつ、罵声を吐きながらウォンへと殴りかかる。


 でも、十発ぐらいの打撃音が僕の耳へと聞こえたと思う?


 でッ、すればね?


「うッ!」


「うぐッ!」


「あがッ!」


「うッ、ううう……」と。


 女性達数名の悲痛な顔と声、呻りが。


 僕の目と耳へと聞こえるから。


 流石に僕もみなに「だ、大丈夫?」と声をかけながら詰め寄る。


 そして、一番苦しそうな顔をしているウルハの許へと慌てていき。


 ウルハが泣いていた僕にしてくれたように。


 僕はウルハの脇腹を優しく、労るように撫でつつ。


「ウルハさん、大丈夫?」、


「大丈夫? ウルハさん?」、


「ウルハさん、大丈夫?」


 僕は何度もウルハへと声をかけるけれど。


 あの時のあいつは本当に痛かったのだろう。


 悲痛な表情を続けつつ、呻り声しか漏らさなかったよ。


 でもさ、あの集落の酋長であるアイカや自分に逆い、楯突いた者達をウォンが許す訳ないから。


 ウォンに殴られ、蹴られ、して地面で呻る僕の奥さま達をあいつは。


「ほらぁ~! お前等立てよぁ~! 先程の勢いはどうしたぁ~?」と。


 ウォンの奴は嘲笑いしながら、僕の奥さま達の麗しい顔や身体をサッカーボールのように踏み、蹴るし、を始める。


 だから僕の奥さま達から。


「きゃぁ、あああっ!」


「ひぃ、いいいっ!」


「痛い。痛い……。クソ……」


 更に「きゃ~!」と絶叫が放たれる。


 だから僕は、その様子を見て──。


(どうしよう? どうしたらいい?)、


(助けた方がいいのかな?)、


(でもウォンさんは男性の中で一番強くて、本当ならば彼が男王になるはずだったとみんなが言っていたね……)、


(そんな人に僕は勝利をすることなんて、天と地がひっくり返っても不可能なことだから、そうしたらいいだろう?)


 僕は自身の身体、足をガクガクと震わせ、怯えながら。


 僕の今後の行動を思案した記憶がある。



 ◇◇◇

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