第34話 憤怒! (3)

 ウルハは後ろを振り返り、他の奥さま達へと微笑みかけながら。


「あんたら~。早く、おいでぇ~」


 と声をかけ、手招き。


「サラ~、あんたも~。このひとが良いのだろう? ならば早くおいでぇ~」と。


 そう、アイカが目に入れても痛くないほど可愛がっている末の妹サラへも、ウルハは手招きしながら誘った。


「うん、わかったよ。ウルハ。サラも健ちゃんについていく。だから健ちゃん、サラを置いていかないでよ~」


 アイカは自身の姉だけではなく。


 一緒に暮らし、夫である僕を共有しているサラまでもが。


 自分のことを捨て、僕について集落を出ていくと言い出したから。


 アイカの奴はここで初めて、自分が愚かなことをしていたと気が付き、顔色を変えるのと。


 あの男以外の男達……。


 そう僕のことを虐め、酷いことまで平然とした男達の方も。


 ここでやっと自分達が大変なことを起こしてしまったと気が付く。


 だってあの集落の主だった者達が、集落を捨て僕と旅立つと申したのだから。


 多分、以外は、全員顔色を変えたと思う?


 まあ、そんな中でアイカの奴は、ここでやっと酋長から妹、姉、妻に変わった。


「ちょ、ちょっと待ってよ。サラとウルハ~。そして皆~。け、健太も~、じゃなく。あなたぁ~。お願いだからみんなを止めてぇ~。お願い……。それとわらわのことを捨てないで、あなたぁ~。頼むからぁ~。わらわの許へと戻ってきてよ~。今直ぐに~」


 アイカの奴は今までとは打って変わり、絶叫染みた声で、みんなに戻って来てくれと嘆願──。


 そしてサラやウルハやその他の奥さま達に反応がないとわかれば。


 アイツは僕へと嘆願してきた。


 でもあの時の僕は大変に惨めな弱者だから。


 あの場を一分でも早く立ち去りたい。


 だからアイカに呼ばれたくらいで、僕の足も止まる訳はないから。


 アイカは、その後も。


 今後は妻らしく振る舞うから、自分のことを捨てないでくれと嘆願をしてきた。


 それでも僕の足は止まらないから。


「頼むから、あなたぁ~。わらわの事を捨てないで、お願いだから~、頼むから~」


 アイカはとうとう泣き崩れたらしいよ?


 なのに、戦場だった場所を立ち去ろうとする僕達の許へと何故か?


 駆け足での足音が近づいてきた。




 ◇◇◇


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