第32話 憤怒! (1)

 パチン!


「痛い! ウルハー! 何をする、のぉッ!?」


 急にウルハがアイカへと詰め寄り、頬を叩いた。


 だからアイカは驚愕した。


 そしてウルハへと尋ねた。


 でも、あの時のウルハはアイカに対して本当に憎悪を募らせていたから。


「何をするじゃないよ、アイカー! あんたぁっ! 今家のひとに何を言ったか分っている、のぉっ! 家のひとの事をこれだけ大勢の者達がいる中で馬鹿にし、侮るのも大概にしろぉっ! お前はぁっ!」と。


 ウルハはアイカに噛みつくような勢いで吠えた。


 だから僕を侮り、蔑み、嘲笑い、中傷……。


 僕とウォンを天秤にかけ、苦笑する声もピタリと止み──。


 この場にいる者達が沈黙……。


 アイカとウルハの様子を黙り込んだままで注目を始めだした。


 でも僕は、そんな中でも、自身の足を止める訳ではなく。


 アイカの下知の通りに、自身の背を丸めながら神殿へと一人寂しく向かっていた。


 ウルハの諫めを聞いても、アイカ自身は僕を中傷したことに関して、これっぽっちも悪いとは思っていない。


 そう男! オス! の癖に、妻を守ることもできない上に。


 自分自身をも、守ることもできないような、最低男の僕が悪いのだと。


 アイカは思っていた。


 だから反省などしないアイツの口は直ぐに開き。


「はぁッ! ウルハ! わらわが健太に何を言おうが、夫婦間の問題だ! お前にとやかく言われる筋合いはない!」と。


「ウルハ~! 貴様ぁっ! わらわの頬を殴ったと言う事はどういう事か分かっているのだろうなぁっ!?」


 アイカは大勢の者達がいる中で、酋長である自分の頬を殴ったウルハに対して、罰を受ける覚悟があるのだろな? と。


 アイツは呻り脅したと思う?


 でもウルハは、自身は何も悪いことはしていない、どころか?


 あいつの夫であり、あの集落の男王だった僕を妻らしく立て、守ったと思っているから。


 アイカの憤怒しながらの威嚇に対しても恐れ慄き、怯むことなどしない。


 ウルハは威風堂々とした容姿で、アイカと向き合い。


「別にうちはアイカ、あんたに楯突く気も無いし、謀反も起こす気はない……。でもアイカ、あんたが家のひとに対する傲慢過ぎる態度だけは許さない!」と。


 ウルハも荒らしく言い返せば。


「アイカ! お前は! うちの父さんを侮り、蔑み続けた、あんたの母親に良く似ているよ……。うちはもうあんたについていかれない……」と呆れ声音で告げる。


「えッ……」


 僕も何が理由なのかは、よくはわからないけれど?


 アイカの母親の話しをウルハが持ち出すと。


 アイカの口からは怒りの抜けた驚嘆が漏れた記憶がある。


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