第31話 喧騒(1)

「ほらぁ~、早く、皆、帰れ、帰れ~。解散だぁ~。早くしろ」、だったかな?


 ウォンの奴が男戦士達へと、戦場になった場所から。


 今直ぐ退散──。


 各自各々の家に帰るようにと急かしながら告げていたような気がする?


 でも、あの時の僕はまだ自分が情けないからと。


 そう、僕の大変に弱々しく、情けない姿を一番見られたくないひと達の、四人の内の三人に見られてしまったから。


 僕は地面に顔を伏せたまま……。


 アイカやサラの顔を見ないようにと、言うか?


 同じ異性に乱暴まで受けた僕だから、二人に合わす顔がない。


 だから僕は、横たわった裸体姿のままで、地面を見詰めつつ嗚咽を漏らしていた。


 だからあの時のアイカは弱々しく、貧相な僕の姿を凝視してアイツは本当に心の底から。


『醜い奴!』


『情けない奴!』


『弱々しい奴!』


『女々しい奴!』


『本当にどうしようもない奴!』


『何で自分は、こんな自衛すらできない男を婿にしてしまったのだろうか?』と。


 アイカは思ったに違いない。


 もしかするとアイツは?


 あの時の僕に対して憎悪、殺意まで抱いた可能性だってあった。


 だからアイカは、嗚咽を漏らす僕の傍まで近寄ると。


「チッ!」と舌打ち。


「健太~、何時まで裸で泣いている。早く立ってパンツを履け」と。


 アイツは大変に気だるげ、面倒くさそうに僕へと告げてきたと思う?


 だから僕は嗚咽を漏らしながらだけれど。


「うん、うん」と何度か頷き返事を返した。


 でも僕自身、アイカやサラに対して本当に申し訳ない気持ちや。


 これから僕は、自身の家族に対して、どう接したらいい……だけではないよね?


 僕は集落に住む大半の人達に、自身の本当に情けない姿を披露する失態を犯したと言いたいところだけれど。


 僕は情けない姿を犯した訳ではない。


 僕は人種だから当たり前の振る舞いをしただけなのだ。


 だからアイカから舌打ちをされる悪態をつかれる筋合いはない。


 だってどんな人間……。


 そう、僕とは違い、武術が大変に優れたアスリート達……。


 オリンピックに出場するような武道家やプロレスラー、ボクサー、異種格闘技に出場するような人達でも。


 オークの漢戦士と一対一で争っても絶対に勝利することは不可能な奴等なのだ。


 僕を苛め、酷いことをした奴等は。


 それも?


 そんな奴等が、僕一人に対して、寄って集って虐めをおこない続け。


 最終的には僕が他人に話すことができないような、おぞましいことまで、嘲笑いを浮かべつつしてきた訳だから。


 僕が動揺しつつ、泣き崩れるのは仕方がないことだと。


 みなさんも思わないかい?


 それなのにアイカの奴はバカだからさ、と言うか?


 本当に情けない僕が憎かったのだろうと思うよ?


 だってアイカの奴は、頷きこそするけれど。


 中々、自身の上半身を起こし、立ち上がろうとしない僕に対して。


「ほらぁ~、健太~! いつめでも女々しく泣かずに立ち上がれ、お前は男だろうに。本当に情けない奴だ」と。


 アイカの奴は呆れ声を漏らしつつ。


 僕の肩腕を強引に引き上げ起こした。


「ほら、健太先に神殿に帰っていろ……。お前は弱い者だから、二度と神殿から出るな、分ったなぁ~?」


 アイカは立ち上がっても、自身の腕で目を押さえつつ泣いていた僕に対して。


 妻らしい優しい振る舞いや労りの声をかけてくれる訳でもなく。


 やはり呆れ声と。


 今度は苦笑を浮かべ、夫の僕を嘲笑いつつ。


 ポン! と僕の背を押し、帰れ、二度と外に出るなと。


 僕のことを完全に子供扱い。


 苛められ子の親のような言葉を吐き、僕の背をポン! ではなく。


 バン! と本当は、勢い良く押した。


 だから僕のひ弱な身体は、フワフワとよろけそうな感じの足取り。


 そう、僕は本当に情けない足取りで歩いたから。


「あっ、ははは。何だ、あれは?」


 ウォンの奴が僕に対して、直ぐに嘲笑い始めるから。


「本当に家の男王はダメダメだな」


「ありゃ、どうしようもないな」


「余りにも弱々しすぎる」


「何たって、健ちゃんだ、もんなぁ~?」


「わっ、ははは」


「あっ、ははは」


 僕を苛めていた奴や。


 その他の奴等もウォンと一緒になって一斉に笑い始めた。


 全部アイカあのバカが悪い。


 みなのいる前で、僕の妃らしい振る舞いをしないで侮り、蔑み、嘲笑うから。


 僕はこの後も、集落の大半の男達の笑いの種、中傷の的にされてしまったよ。


 だからさ、ウルハとサラ……。


 その他の奥さま達も、自身の奥歯を噛み締めつつ、拳をグッと握り締めながら絶えた。


 今度は、あのどうしょうもない集落の酋長が、僕のことを守護、庇うこともしないで。


 僕を苛めた奴等……。


 僕の敵だと言っても過言ではない奴等を庇ったのだから。


 アイカ以外の僕の奥さま達は耐え忍ぶしかない。


 もしもアイカに手を挙げれば謀反に相当する行為になるから。


 僕の奥さま達は耐え忍んだのだ。


 でもね、ある言葉をきっかけに耐え忍べなくなる。


「ああ~、今の男王は、どうしようもなく、情けないから他の者に変えた方がいいんじゃないか?」


 僕を苛めていた男の中の一人が言ってはいけないことを言った。


「本当だぁ~。お前の言う通りだぁ~。なぁ、みんなぁ~?」


「ああ、そうだ! そうだ!」


「俺達は納得いかねぇ~。なぁ~、みんなぁ~?」


「あああ、そうだそうだ!」


「今の男王は駄目だから。ウォンに変えた方が良いのではないのか?」


「まあ、元々、ウォンさんが男王になる予定だったのだから。丁度良かったではない」


「本当だ!」


「本当だよ!」と。


 あの集落の男王は僕では無理だ! 不安だ! 気に入らない!


 ウォンにしろ!


 ウォンにするべきだと、沢山の声があがり喧噪へと変わるから。


 ここで始めて、アイカの顔色が変わり。


「えっ!」と。


 僕と別れる気はさらさらない、アイツの口から驚嘆がやっとここで漏れたけれど。


 もう遅い。


 アイツが自ら火種を撒いた。


 だからアイカ自身が後の祭りと言う奴に陥ってしまう



 ◇◇◇


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