第16話 僕は途方に暮れる(1)

「おはようございます……」


 僕は洗い場──。


 そう、洗濯をする場所へと到着すれば。


 先にきて主夫業をしている人達へと。


 朝の挨拶をするのが習慣になっている。


 でもね、ある日を境に、この通りだ。


「…………」


 誰も僕の言葉に反応をしなくなった、だけではない。


 僕の方をジロリと冷たい目や怪訝な表情や見詰めつつ無言……だけで終わらない。


 スゥ~と、みなさん立ち上がると。


 この場、洗濯場……。


 みなさんまだ、洗濯物が洗い終わっていなくても。


 この場からいなくなった。


 それも?


「チッ!」と舌打ち。


「ペッ!」とタンを吐いたりしながら悪態をついてきた。


 僕自身は別に彼等に対して、気の障ること。


 嫌がらせ等、全くした記憶はない。


 だって先日まで、仲良く会話……。


 この集落の男性達と。


「主夫業って本当に大変ですねよね。あっ、ははは」と。


 僕が彼等に笑いながら告げれば。


「男王、主夫業って何だ?」


「何だぁ、それ?」と。


 みなさん僕に笑いながら沢山尋ねてくれた。


 だから僕は、「僕が産まれ育った世界では。男性が自身の奥さまの代わりに。家の掃除や洗濯、食事をする男性のことを主夫と呼ぶのですよ」と、微笑みながら告げ、教えていた。


「男王が産まれ育った世界では。男達は家事を余りしないのか?」


「うん。余り手伝いをしないし。全くしない人達も沢山います」


「そうなのか、男王?」


「はい。そうです。僕の家も余り父さんが家事をしている姿を見たことがありません」


「そうなんだ?」


「はい」


「いいな、奥様が全部家事をしてくれるのって、マジ羨ましいな」


「ああ、確かに」


「俺っちの家も、家の奴が全部やってくれないかな……。そうしてくれたら。俺っちも楽なんだけれどなぁ」


 みんな僕に、『わっ、ははは』と笑いながら。


 そう、和気藹々としつつ、会話をしていたはずだった。


 でも一晩経てばこの通りだった。


 僕と同じ場所にいるものイヤ。


 僕と同じ空気を吸うのも嫌だといった感じの表情をしつつ。


 みなさんは立ち去っていく。


 でも、この時の僕はね。


 みんなが何故、僕に対して嫌悪感を募らせているのかわからないから、途方に暮れた記憶がある。



 ◇◇◇






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