第20話 救世主降臨

「すみませ〜ん、こんな時期で何ですけどアイスってありますか〜?」


スイーツ屋のキッチンカーに店員に話しかけるのは、癖っ毛でボサついた黒髪と美しい碧眼が特徴的な男子中学生だった。


「はぁ~あるわけ無いじゃん。今、4月だよ?この時期にアイスなんて売ってるわけ……」「ありますよ。」

店員はいきなり現れたスーツと銀縁眼鏡を着た男に驚いたが、一方で男子中学生は、背後に現れたその男には、目もくれずスマホをイジっていた。


「そのスマホアプリは…確か最近話題のバイト募集掲載アプリだよねぇ…名前はえぇっと…。」


男は男子中学生がイジっているスマホの画面を悪びれる様子もなく、覗きベラベラと喋り出す。それに対して男子中学生は、ため息をつきながらスマホの電源を切った。

「ピヨッコCLUBですよ。氷川先生…。」「ハッハ〜ん、篠原くん!!嬉しいなぁ先生の名前覚えててくれるなんて、てっきり学校来ないから先生の事も忘れてるのかと思った!!」

「はぁ~…重要な学期末テストは来てるでしょ…つかあのテストで学年1位取ったんだからいいじゃないスカそんなに登校しなくても」

「いや……まぁ、そうだけどさぁ~。」

氷川は男子学生の正論にたじろぎながらも、言いくるめられないように今度はスイーツ屋の店員に話しかける。「君はどう思う?この不良生徒の言い分的には、中学校はテストで点数さえ取れてれば行かなくても良いそうだが…」

「え…? オレ? どぉて…」

スイーツ屋の店員はいきなり氷川に話しかけられたことで

、挙動不審な態度をとったが、そんな店員に対して篠原は、呆れながら言う。

「答えなくていいよ〜お兄さん。 嫌味に使われてるだけだから。」

篠原は、店員にそう言うと、そのままスイーツ屋から立ち去り、氷川もそれに続きながら店員に軽く会釈した。

氷川は篠原の隣を歩きながらニヤニヤと笑みを浮かべ、篠原に尋ねた。

「で……どう?学校サボって探すバイトに良いものはあったかい?」「良いものどころか……探してたものがドンピシャで見つかったよ。こんなに早く見つかるとは思わなかった。いい感じで先約も3名入ってる。コレもいい。」

「あ、そうなの?いやはや、なんにせよ見つかってよかった良かった。」


篠原は速歩きで眼の前の歩道橋を目指し、氷川もそれに続く。

篠原が歩道橋の階段を登っていると、氷川が尋ねた。

「なぁ…聞いてもいいか?なぜ…学校に来ないのか。」

「あぁ……簡単ですよ先生。学校にはアレが居るんで……。」

篠原は氷川の方を振り向き、一言だけ答えた。

「僕が痴漢冤罪事件に巻き込まれた事があるのはご存知でしょう?」

篠原の顔にはまだ寒い季節だと言うのに汗が垂れていた。


氷川は篠原の

答えに対して、少し考えたあと、面倒臭そうに頭をかきながら呟いた。

「うん……そういえば……そうだったな……。君が心にキズを負ったのはわかる。」

篠原の溜息が街の音にかき消される。歩道橋の階段を登りきり、少し広くなった場所で二人は足を止めた。

「僕は別に冤罪事件に巻き込まれたことを気にしてないんですよ。」「じゃあなんで……」氷川はそこまで言うと、その先の言葉を飲み込んでしまった。

篠原はそんな氷川を見て、ニヤリと笑い、そのまま話を続けた。

「行くわけにはいかないんですよ…学校に…。だってクラスの中に当時の事件の主犯格のご友人がいらっしゃるんですから……。」

篠原の言葉を聞いた氷川はため息をついて口を開いた。

「………精神科で充分治療を行ってたと聞くが…まだ少し被害妄想が残っているようだな…。あぁそうだ。」


氷川は何か思いついたかのように、自身のスーツの胸ポケットを弄り、ある物を篠原に渡した。


「御守だ…特に君には高い効力を発揮するだろうな…どうだ? 懐かしい感じがするだろう?」

氷川から渡された御守を見た篠原は、一瞬顔を硬ばらせるが、直ぐにその御守を自身の首にかけた。


そのお守りは奇妙な形状をしており、まるで血液でも付着したかのように、真っ赤な宝石に、銀色の長い毛が束ねられているようなデザインだった。


「先生…確かに懐かしいです……。例えばこの銀色の毛…丁度ボクの姉がこういう髪色をしていました…【篠原ミナミ】って言うんですけど…。そういえばもう随分と家に帰ってきてないから…心配ですね。」


篠原はそう言うと、歩道橋から見える街並みを遠い目で眺めた。

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砂夜の少年騎士団(ヴァル・グランツ)の復活 倉村 観 @doragonnn

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