第19話 囚人
山岡は泣き崩れた。
タナカはなにも言わずにただ、泣いている山岡を冷ややかな目で見ていた。
「わざわざ、手伝わなくても良いって……言ったのに……」
山岡の弱々しい声だけがこだまする部屋でタナカはゆっくりと口を開いた。
「もし、事件が解決すればあなたの冤罪証明のための署名はもう充分すぎるくらい集まっているでしょう?これはあなたへのプレゼントですよ。…真実を教えてください。」
「わかった……僕の知っていること全部話すよ……」
山岡は涙をぬぐい、しっかりとタナカの目をみて語り出した。
「今から3年前……ちょうど僕が『魔女の鉄槌』事件と呼ばれる連続殺人事件…ボクが初めて人を殺した事件だ…。1枚の招待状からボクの全てが狂った。」
「強いられていたんですね…その送り主に…殺人鬼になることを」
タナカは山岡の目をしっかりと見ながら、しかし、どこか遠くを見るように呟いた。
「招待状には…ボクが受け持つクラスの子供達の個人情報が載っていたんだ……。そして、『今夜、【礼婦亭】にて貴方をお待ちして居ります』と……。」
「礼婦亭…主に宴会予約を承る店高級店。 そして……表向きは、その店の経営者『大道寺 麗華』は表向きには存在しないことになっている……」
「山岡さん…招待状の送り主…貴方の人生を奪い去った黒幕の正体は…?」
タナカが尋ねると山岡は歯をガタガタと鳴らしブルブルと体を震えさせながら、涙ながらに語り出した。
「彼は…僕の教え子と同じくらいの年齢に見えるのにも関わらず。その子の容姿はこの世の何よりも美しく…そして恐ろしい…。」
「!!?まさか…ッ?!」
タナカは山岡の言った言葉で、その恐るべき黒幕の正体に感ずいた。
しかし、その名前を出す前に山岡が震えながら口を開いた。
「………カゴメカナタ…彼は恐ろしい子だった。」
「奴は死んだ…確実に我々警察の手によって……38発の銃弾を受けたんだぞ…死亡確認も…。」タナカは山岡の震える言葉に被せるように、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「そう……彼は死んだ……。でも……カゴメカナタは、『死』を克服した……。」
山岡がそう言うと同時に、タナカは机を強く叩いた。
「ありえないッ!奴は確実に殺したんだッ!」
「でも……現に彼は今生きている」
「そんなはずが……」
「あるんだよ」
山岡はタナカの言葉を遮ると、ゆっくりと立ち上がり、タナカの目をまっすぐと見つめて言った。
「彼は、あの御方は…【逆流】を終らせると言っていた。 そのために私に12歳の少女の戸籍情報ができるだけ欲しいと言ってきたんだ。」「ここ最近の連続殺人事件…未成年の女性の行方不明件数の増加…そして……」
「未解決の【魔女の鉄槌】事件の被害者は全員女性……。」
タナカは…山岡の言葉の続きを代弁するように呟き、山岡はコクリと頷き、ゆっくりと語り出した。
「情報提供ありがとう。 暫く掛かるが君は釈放する。 約束どおりな。」
タナカはそれだけ言うと、山岡の話も聞かずにファイルを抱えて立ち上がり、取り調べ室を後にした。
タナカはそのまま『特別暗解事件捜査局』局長室へと向かいながら自身の携帯を開き、電話をかけた。
『はい!こちら特別暗解事件捜査局です!』
「あぁ……私だ……。飯田…。今すぐ篠原トオルを探せ…。 奴が…カゴメカナタが蘇った…。おいもしもし」
『はい……。』
「おい、飯田ッ!」
『はい……。』
「お前、篠原トオルを探せと言ったんだぞ!なぜ、俺の携帯にお前の番号が表示されないんだッ!」
『それは……今私はあなたの携帯の電源を切っているからです。』「なんだと?」
「今…僕は貴方の真後ろにいます。」タナカは背筋に冷や汗をかきながら、後ろを振り向くとそこに居たのは、見覚えのある顔を美少年だった。
「カゴメ…カナタ…。」
「あぁ……タナカさん……静かに。」カゴメはニンマリと微笑み、その年不相応に妖艶な表情にタナカは思わず唾を飲み込む。
「しーッ。」タナカはその言葉に、両手で口をふさいでしまったが、そんなタナカを見てカゴメは更に笑みを深めると、懐から一枚の名刺を取り出した。
その名刺には『株式会社 大道寺グループ』と書かれていた。「これ……僕の会社の名刺です……。この会社は主に食品や日用品を扱っていますが、裏では様々なものを扱っています。例えば……」
そう言うとカゴメはタナカにゆっくりと近づき、その耳元で囁くように言った。
「そのままでいて…僕…3人の女の子を見つけたんだ…。これから…トオルとともに面白いものが見れるよ。」
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