第0話  ∞表その3

「人の意志だと、そんな主観的な…」


「忌々しい心人シンジン共」


「ツリガミ様の吐いた、穢らわしい者たち…」


「認めん…」


「人殺し…」 


「人殺し…」


「悪人ども…」


38発を超える銃弾を受けたカナタはそれでも尚、息絶えるどころか意識すら手放しておらず、眼の前の全てに対し、困惑と怒りの呪詛を履き続けていた。 それに対してトオルと、少女以外の全員は、驚愕し、心底、動揺を隠せなかった。 それもそのはず、本来喋ることすら出来ないどころか…形すら人間のそれと判別出来ないほどの銃弾を浴びたはずなのだから。


「棚に上げんなよ…それにな…」


トオルは、拳銃に弾を込めながら、ゆっくりとカナタに近付いていて、語りだした。


「俺ね、昔から本読むのが、大好きで…ほらあるじゃん感動的な短編者やさ…最近で言やラノベとかいうやつだって。」




「昔から、人を護んのはいつだって人の力だと思ってたんだ…」


「でもね大切なものを、失わない人ってのはいつも、簡単に非情な手を取る…お前のお陰で気づけたんだ…だから納得して死ね!」


頭に10発 それでようやくカナタは静かになった、それを見たトオルは目を見開き、到底人の域を外れたような不気味で大袈裟な笑みを浮かべて何度もカナタの肉体を蹴り続けた。


「アハ…アハ…ハ」


「死んだ?死んだの? ついに死んじゃったな!!」


「あんなに色々なものを飲み込んで…結果がこんなあっさり!!」


「薄汚いな!? 親友、俺の靴にお前の一部がこびり付いてるぞ!!」


「待って!!トオル!!」


「やめなさい!! トオルくん」


トオルは溜め込んだ呪詛を吐き出すように何度も何度もカナタを蹴り、罵ったが少女とタナカがそれを止めた。


トオルは我にかえると、空を見上げ、目を閉じるとゆっくりと深呼吸をして、コートのポケットから缶コーヒーを取り出して、ゆっくりと飲み干した。



「終わったな…ようやく…まるで20年ばかりの紛争が終わったかの気分だ…。」


タナカは手をトオルの肩に置くと、溜め息と言葉を同時に吐いた。


「この程度で? どうだかな…むしろここから始まる気がするけど…」


「結局こいつの目論んだ塩隔祭のこともツリガミ様の事もわからずじまいだし…あっアメリカンもう一つあるけどタナカさん飲む?」


トオルは、怪訝な顔をしながらタナカの手を振り払い、ポケットから同じ缶コーヒーをもう一つ取り出しタナカに差し出した。しかしタナカはそれに対して拒否するように、背を向けた。


「アメリカンは嫌いだ。 そもそもコーヒーが苦手でなおかつアメリカンはカナタが好きな飲み物だったからな…。 それよりももう遅い、古くて乗り心地の悪い覆面パトカーで悪いが送ろう。」



「あっそう。 そりゃどうも。」


「トオル…わたしが飲む」




トオルの手の中で、行き場を失った缶コーヒーを手にしようと、上に手を伸ばし、身体をぴょんぴょんと跳ねさせた。それに対してトオルは缶コーヒーの持ってる手を、決して彼女に届かないところまで上げた。


「苦いよ?飲めるの?」


 トオルの言葉に対し彼女は、言葉を発しずフルフルと首を横に振った。


 トオルは少し悩んだあと、持っていた缶コーヒーを既に冷たくなりグシャグシャの肉塊に変貌し、それから動かなくなった彼方のそばに置いていった。


「しょーがない、後でココア買うか。 タナカさーん悪いけど近くのコンビニよって!!」


トオルは少女を背負い、トンネル内を後にした。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る