プロローグ 天炎霊化のアイ その3

「ミナミ〜」 


かなりの長身と腰まで伸びた金髪が特徴的な女性が手を振りながら雨の中

ずぶ濡れになりながら笑顔で車に走り寄ってきた。


「こんな所でなにしてんの?」


車の窓を少し開け、ジュウジがカリンに問いかけた。 


「あっ!! ジュウジくん!! ほらミナミが今朝からリュウナキ村って所に行きたーいって色んな人に行ってたでしょ、 そしたら私の『ピ』が元々そこに住んでて、道わかるって言うもんだからさぁ」


「あの…遠野 ヒビキです…どうも」


カリンの背後から…小さく控えめな声がした、顔が見えなくなるほど、深く被ったフードや小さい声からして、相当な人見知りであることは明白だが、どうやら此処から先の目的地まで全ての道を把握しているらしいので助手席に載せ頼ることは必然だった。


この男、遠野ヒビキは木根カリンの四年来の彼氏らしく、年齢は俺達の二つ下 偶然にもそれは、先程の話に出てきた、例のミナミ弟と、同じの年だった。


だが不安もあるこんな声の小さいやつのナビなんて聞き漏らさないだろうか?っという至極真っ当な不安はジュウジの頭を悩ませた。 しかしその不安は杞憂に終わることになる。


「いや〜それをね! 僕のばあちゃんが神様が恵んでくださった、 幸福をもたらす宝石だ〜って言うもんだから……村中の人が、病にかからなくなるって」


「ハハハ! なんだよ、大丈夫か〜お前の故郷の人は! 石でなおる病気なんて聞いたことがないぞ!!」


「そう全く……あっ 次の角は右、そのまましばらくは直進です。 この先は整備されていない道も出てきます。 気を付けてください。」


ヒビキは先程とは、打って変わって雄弁になり、的確な道案内をしていた。また彼は非常に分かりやすく自分の故郷の特徴や魅力を道案内の途中で話してくれた。 まるで最初に見た彼とは別人のようだった。


 言われた通り車を走らせていると線路沿いの道に出た。 ジュウジはすっかり打ち解けたヒビキに確認したあと、右折し、その線路沿って隣の道路を走った。 


間もなくすると

得も知れぬ錆びて、黄土色に汚れているのにもかかわらず。 山の中、大自然に小さく佇むそれは 神秘的な雰囲気をありありと醸し出している無人駅が見えてきた。 


南淡歩駅


看板にはそう書いてある、どうやらヒビキによるとあまり利用されていない駅らしく、ここらへんは管理が雑になっているとのことだった。




「それでね〜ミナミ〜彼によるともうすぐ祭りが始まるらしくてね〜、向こうで浴衣買って行ってみようと思うんだ〜 パパとママとリオンの分のおみあげもそこで買えれば。」


「そう言えば妹さん、しばらく合っていないな…。」


 後部座席では女子二人が会話を楽しんでいた。 最もその殆どはカリンによる、彼ピッピ自慢によるもので、ミナミは(付き合ってもう4年になるのに良くもネタに尽きないもんだ。) と思いながら、当たり障りのない、相槌を打っていたが、突然カリンは聞き流すことの出来ない話をそれとなくしだした。


「それにしても良かった。 ようやくピのことが知れそうで。」


「どういうこと?」


言葉の意味を理解しかねるミナミがカリンに尋ねると。 カリンが窓の外を遠い目で見ながら語った。


「彼ね、あまり話してくれなかったの。 自分の故郷のこと、両親もいないって言うし、だから彼のことがわからなかったの。 それでね。」


「彼、私と知り合う前の中学から、この辺に来たみたいで、リオンの友だちの用事でたまたま彼の通っていた 入谷ニ中学ってとこで話を聞いたことが……あるんだけど…。」


「どうだったの……。」


ミナミの聞く姿勢が突然真剣になる。

入谷ニ中学は弟が通いそして、例の痛ましい事件によって不登校を余儀なくされた、場所だ、彼女自身、縁のあった刑事と協力してまで学校の事を調査したため、当然同級生の事など殆ど、把握済みだ。 だが『遠野ヒビキ』という名前など聞いたこともなかった。


「いないって、もしくは覚えてないって〜。 ったくあのセンコウも生徒の顔と名前ぐらい覚えとけっての。」


真剣なミナミの問に気の抜けた答えをカリンは返した。


 ミナミはその返答を受け運転席で道案内もジュウジとの談笑を楽しむヒビキを凝視した。


しばらくすると今度は、線路の先に今までに3人とも見たこともない、奇怪、奇妙なほど巨大なトンネルを発見した。 





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