プロローグ 天炎霊化のアイ その2
「はやく 車を走らせて。」
「無理だよ…ワケも分からないのに人殺しの手伝いなんて…。」
重苦しい空気感をまるで演出するかのように急な大雨がふり始める。
ジュウジはミナミに突きつけられたナイフの冷たさからくる恐怖を抑えながら、小さく、しかし、しっかりとした語気を放った。
「殺すよ」
「運転できないでしょ?地図見ながら…殺したら、どっちにしてもたどり着けないよ…
だから、全部…話てよ」
脅しにより恐怖でその場の支配を狙うミナミに対して、ジュウジは震える奥歯を噛み締め威厳とした、態度をとった。
しばらくの緊張のあと根負けしたミナミが
「わかった」とため息をつき、ナイフをしまい語り始めた。
「私の弟は『痴漢魔』の冤罪をかけられたの……二年前話題になったでしょ連続痴漢魔の話…。」
それを聞いたジュウジはハッとして呟く。
「家江線 男子中学生連続痴漢魔冤罪事件……確か、当時容疑をかけられた。中学生の苗字は篠原…」
家江線 男子中学生連続痴漢魔冤罪事件。
当時、一人の男子中学生が毎朝、決まった時間、家江線の電車の中で、自分の同校の中学や姉妹校の女子高生にナイフを突きつけ猥褻な行為におよび、挙句車外から脅し連れ去り、暴行を加えるなどといった凶行に及んだとされて逮捕され、実名報道、一時期の話題となったが、他の事件と例外なく風化する頃に、ある匿名によって告発された真実によって、更に世間に強い衝撃を与えた。
その真実とは事件が趣味の悪い金持ちによって警察組織と共同して行われた、『全くのデマ』だった、という内容だった。
その趣味の悪い金持ちという者は、愉快犯で全く恨みもない篠原 トオルという少年を陥れるためだけにありもしない事件を警察に表向きだけだが捜査させ、多数の彼と同じ出身の女子学生に大金を握らせ、出鱈目な証言を行わせたのだ。
世間の大抵はボロクソに避難した少年に掌を返して同情、またある者はその気持ち悪い富裕者に、恐怖するものもいたが、中には、その事件の真実を知った人間で、完全に人間不信を患ったものせていた。 なぜなら金を受け取ってトオルを陥れた、女子学生の中には、彼のクラスメイトも多数いたからだ。
「ようやくわかったの……弟を支えて仲良くしてくれた数少ない警察の人…その人が弟を嵌めた真犯人…主犯を見つけて私にそいつの出身地と名前を教えてくれた。」
「そいつの名は『可米 カナタ (カゴメカナタ)』」
「そいつはリュウナキ村にいるの?」
「うん」
「殺すの?」
「多分」
ジュウジの問いかけに、ミナミは俯いまま短く応えた。
「わかった……じゃあ行くか…」
「え?…いいの?」
驚愕した表情でミナミは声を上げる
「肩を持つことはできないけど…貴方を咎めることはもっと出来ない…だから全部、貴方自身に押し付けて、委ねることにしたよ…目的地までは連れて行くからさ…まだこんなに寒くて雨まで降ってるのに…貴方を下ろしたら…僕が殺人をすることになっちゃう。」
「そう…ありがとう」
涙ぐみながら、震えた声で小さく呟く彼女の言葉を聞いたあと、ショウジは再びエンジンをかけようとした。 しかしショウジは突然、前方からこっちに近づいてくる。 男女のペアに気がついた。 しかも女の方はふたりとも知った顔だった。
「あれは……同じゼミ生の…」
「カリンちゃん!?」
ミナミが驚愕した声を上げた。
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