第11話 60万年の因縁 その一

カーテンの締め切られた部屋、本棚と机、通常では、見られない、用途不明なといくつかの器具、あとは様々な薬瓶など20畳ほどの大きな部屋にしては、殺風景と言っていい、薄暗い部屋の中で、可米海十(カゴメ カイト)は、電気もつけず、鏡の前でら突っ伏していた。


「触媒、怨恨、 銀の結晶石…あの溢れんばかりの捨てられた肉……。何が逆襲だ、何が再臨だ、何が着床だ…、なにが九界(キュウカイ)の滝だ……、そうだ奇跡など起こさせない…、いやダメだ…そのためにあいつらを……、いや、ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ…必ずや60万年の因縁など反故にして、何もかもを今度こそ台無しに…してやる…誰も、俺以外、もう納屋にはいれされやしない…。」


海斗は今にも何かを握り潰すかのような形相を浮かべ、ひたすらに独り言を鏡に向かって吐き出した、その中にはところどころ、声にならない嗚咽が混じっており、またその際頭を掻きむしり過ぎため、彼の美しく、透き通る顔の肌は上方から流れ出る、血液によって、一部が赤く染められていた。


しかし、程なくして彼ら自分の部屋のドアのノックの音で、我に返る。


「半田か、入れ。」


言葉に促されて、半田が部屋に入ると、まるっきり哀れみが混じった目でカイトを見つめた。


「坊ちゃま、部屋で何かをするときは、まず、電気くらいつけてください。」


半田は用意周到に持っていた救急箱で彼の頭部の流血を治療し、言葉を続けた。


「カナタ様から、来客を客室へ案内するようにいまれました。 今は準備中と称して待合室へ3人とも、待機させています…。必然的に使う客室は私の判断に委ねられます。 当然、予め坊ちゃまと一緒に用意しておいた、客室へ3人とも案内いたします。手筈通りに…。」


半田の言葉を聞き終えた。カイトは少しの時間目を閉じて、再び半田と視線を合わせた。


「半田……、アイツは奇跡を起こそうとしている。 元来、奇跡と、いうのは待つだけでは早々起きない、だがあいつは、木の遠くなるほどの遥かからの謀略によって奇跡じみた事を強引に、そして確実に起こそうとしている。 お前はどっちなんだ…その…どっちの手筈でなんだ…その手筈は…。」


カイトの問いかけに対し、半田は不敵に笑ったあと言葉を返した。


「私は……坊ちゃまが生まれたときから、坊ちゃまに、仕えて来ました。 貴方が何者になろうとも…これからもそれは貴方がお望みにならない、限り絶対に変わりません。 それに対して、私とあの方どの関係は…あくまで『専属運転手』としてのビジネス関係です。 ……これが私の口から坊ちゃまに言える答えです。」


半田は治療を、終えて立ち上がると言葉を続けた。


「少しの間、眠ってください…今夜の祭りと、そして何より明日からに備えなければなりません……。 安心してください、彼女の、野々原カオリ様のお時間が来れば、一応起こしに来ますから。」

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