第7話  踏み池

先程の様子を間近に見ていたのぞみは、カオリが自分の促す行動に素直に従ってくれるかどうか、不安にかられていったが…。瓶を渡すとカオリは、すぐさまそれを口に運び、ゆっくりだが、一息にすべて、内容液を飲み干した。 すると段々でなおかつ、明らかに衰弱はしていたものの、徐々に目に生気が戻り、いつものカオリに戻っていった。

 

 先程の少年の言葉は明らかに信じるに値はしなかったが、今のカオリの様子を見ると、少年の言葉通り、あながち、ただの『酔』でもおかしくないと思えた。


「凄いクスリ…坊や何が入ってるの?」


「クスリなど入っていない…ただの水だ…自家製の…。 ほら、もうすぐつくぞ。」


気づけばゴンドラは山の中へ入っていき、古びた、大掛かりな停車駅の目前だった。よく目を凝らして、見てみると停車駅の外、改札に巨大な車が止まっていて、その直ぐ側に背の高い、燕尾服を、身につけた、男性の後ろ姿を確認することができた。


ノゾミは、衰弱して項垂れている。カオリに肩を貸し、リオンは器用に3人分のキャリーケースを引くことで、各々、降車する準備を整えた。


程なくしてゴンドラが、停車し四人は改札を出ると、案の定、件の燕尾服を着た男性に声をかけられた。


「お待ちしておりました。ピヨッコCLUBの方々ですね…。 わたくし、可米彼方の専属運転手、半田(ハンダ)と申します。 以後、お見知り置きを。」


半田と、名乗った男はひと目で仕立てのいい生地で作られていることがわかる、燕尾服を身に着けた白髪の老人だった。


「あぁ、どうも…。」


気品あふれるあまりの風格に、三人は、たじろぎ、生返事をすると、半田はそんなことは気にせず目の前に出てきた少年に、目を合わせた。


「よぉ…半田ァ…3年ぶり、まだくたばってなかったか?」


「ご無沙汰してます。 坊ちゃま少しは背がお伸びになったようで…それにしても、極度の人見知りであったはずの坊ちゃまが…人を案内するなどと…時が経てば、見違えることもあるもんですね…。」


暫く二人の間に険しい、沈黙が流れたと思えば、突然2人は大笑いし、お互いに抱き合った。


「爺や…久しいな…元気してたか?」


「もちろんですとも…それにしても随分大きくなられた…。」


このやり取りを間近に見ていた。ノゾミは

(えっこんな洋画みたいなノリ実際やるやつおるんや)ッと…思い。


またリオンは(このガキ…笑ってる時はあんなに可愛い顔できるのに、なんで常時ぶすくれてんだ?)ッと…思い。


またカオリは(しんどい…もうダメ、ボク死ぬかも…。)とココロの中で呟いた。

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