第6話  ツリガミサマ

 「祭り?! ほんとにあるのー?!祭りー!! 屋台とか 花火とか?」


「どちらもあるよ、普通の祭りさ、まぁ一部変わった見世物もあるが…。」


木根リオンが大はしゃぎで問い詰め、少年がそれを心底面倒くさそうに躱す。 一方で野々原カオリは膝に何か硬い物があたったことがわかった。 しゃがみ込み、それを確認すると、どうやらゴンドラの座席には、風景を楽しむためか、備品として『双眼鏡』が備え付けられているようで、膝にあたったものの状態こそ、その双眼鏡だったのだ。 折角備え付けられているものだし、使わない手はないと思ったら野々原カオリは、その双眼鏡を手に取った。


「で、浴衣とか、どこで買えるワケ〜、お姉さん教えて欲しいな〜、教えなさいよ〜ねぇ〜坊や〜」


「……。」


ふざけた、口調で絡んでくる、木根リオンをガン無視して、外の景色を見ていた。 しかし、ふと後ろを見ると、突然、野々原カオリに怒鳴りつけた。


「バカが!! 勝手にそれ使って、山の方を見てんじゃねぇ…!!」


瞬間、ゴトン、と音を立てて、野々原カオリの手から、双眼鏡が落ちた。

 野々原カオリは数秒、石像のように固まった後、なんとも形容しがたい、苦悶に歪めた顔に涙をだらしなく、流し、震えた声で唸り声を上げ続けた。


「カオリちゃん…! カオリちゃん?! 大丈夫」


「どうしたんだ…カオリ…カオリ!!」


2人が呼びかけてもカオリは明後日の方向をき明後日の方向を見続けた後に、膝から崩れ落ちた。 それを心配して寄り添った、のぞみの手を掴み、凡そ人間のものとは思えない威圧的で狂気的でおぞましい眼力でのぞみの顔を睨みながら、到底理解しがたい言葉を涙を流し続けながら、呟いた。


「見えた? 見えたよ…葉の道が…凄く黒ずんだ汚い汁が滴っていて…なんて硬さの形相なの…あぁ、袋の中に…浅い袋の中にあんなに…あんなにも…あんなにも、原初の時代から…渦の…渦の…そのまた渦からの因縁で…ずっと私達を待っていたのですね…。」


「なに言ってるのカオリちゃん…。怖いよ…って痛ッ!」


必死に静止しようとするのぞみの両手を力強く握り、今度は先程の形相とは打って変わって、力なく、涙を流し続ける目の焦点があっていない恍惚とした、笑顔でのぞみに語りかけた。


「解らないの?…僕達…もうずっと前から…終わってたんだよ…。」


すると、少年がカオリの握った手を無理やり引き剥がさせ、ポーチから出したオレンジ色のガラス瓶をカオリの頬に押し当てた。するとカオリは、次第に大人しくなっていき、次第に電池の切れた玩具のように項垂れた。


「おい、飲ませてやれ。」


少年はそう言うと、カオリに押し当てていたガラス瓶をのぞみにわたした。


「どういう事?」


木根リオンは、明らかに今、カオリに起こった現象のことに付いてなにか知っていそうな

少年を問い詰めた。


「酔っただけだ…それが疲れのせいで、気にまで来てる。たまに、いるんだよ長旅のせいでな…。」









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