第一章

第1話   探しものバイト

「あっ あと二駅で付くよ。」


8月16日 月曜日 四季原 のぞみはスマホと大きな地図を手に持ったまま、隣に座った2人に言った。


 四季原のぞみは、高校生活最初の夏休み、あらかじめクラスメイトの野々花カオリ仲良くなった一学年上の 木根 凜音 の3人で学生限定バイト依頼サイト『ピヨッコCLUB』応募した長期バイトを夏休み最後の一週間ですることになった。


「やっとかよ〜って言うかここどこ?いやまじ…いや…髪グッチャグチャじゃんも~」



座席の手すりに寄りかかって寝てたところを四季原のぞみの一言で目を覚まし怠そうに返事をするのは、四季原のぞみの一学年上の先輩

木根 凜音(キネ リオン)であった。

木根リオンは、持参してきた白い小さなポーチに入っていた鏡を取り出し、髪を直した。


「今、木南駅、というところみたいです。

 11時までに間に合いますかね〜。」


ペットボトルの水を飲みながら、四季原のぞみのクラスメイトである、野々花 香折(ノノハナ カオリ)は言う。


「今9時半過ぎたくらい…。大丈夫だよ…メールには梶川駅から板部線で3時間って書いてあるし…。」


言葉とは裏腹に四季原のぞみの声はか細くなっていく…。いかにも不安です、と言わんばかりだった。


とはいえ、時間は大丈夫のはずだ。 『勤務詳細書』と書かれた紙には、龍哭町(リョウナキチョウ)高寝駅(コウネエキ)徒歩5分、四季原達が通う学校の最寄り駅、冬樹町梶川駅から板部線高寝駅行直通で3時間と書いてある。


 四季原達はあらかじめ待ち合わせが上手く行ったのか午前6時から待ち合わせ、電車に乗り込んだ。 メールの内容が正確ならば、どう転んでも遅刻はありえない…もし、遅刻することになったとしても、それは彼女たちの責任にはなり得ないのだから。

 したがって彼女たちの不安は時間からくるものではない、それは、この状況そのものからくるものだった。



現にこの状況は、かなりの異常状態が多々見受けられ、それらが彼女ら3人の心にゾワゾワとする不安を植え付けていた。


まず第一この電車は現在、少なくともこの車両には、3人の以外誰も乗っていないのだ…。 実際に彼女らは他の車両に移動して、見て廻ったワケではないため…正確には分からないが…恐らくこの、強大で飲み込まれそうな、そして押し潰されそうな空気感的に、この電車には正真正銘3人以外誰もいないのだろう。 そして何より脅威的なのは、その状況がかれこれ1時間以上、22駅間に渡って続いているのだ。


更に不自然なのは、窓から見えるその景色だった。


冷房の風によって冷やされた。電車の窓のそこには、まるで見えざるなにかが泳いでいるかのように、くっきりとした蜃気楼とあとは一面を緑の凹凸が広がっていた。 が、それも6駅目の南淡歩駅を通過した所で突然可笑しくなっていった。

 

その電車は特に田舎の道を走っているときに通過するトンネルに入ったのだが…いつまで経ってもそのトンネルを抜けるどころか、全く持って真っ暗闇のそのトンネルの中で、駅があり、そして停車するのだ。  

 

 通常地下に駅があるなら、普通だが、トンネル内に駅もあろうはずがない、地下に潜ったワケではない、正真正銘トンネルの中に入ったところを3人は目撃している。 その後眠りに落ちた木根リオン以外の二人はトンネルから一度も出てないことも確認している。

 

 そんな100km級の巨大なトンネルがあるはず間もないのに。


「次は〜大灰海(ダイハイカイ)〜大灰海〜」


電車内のアナウンスによって、四季原達の背筋がビクッ!っと緊張によって跳ねる。


 そしてピッタリ1分後、車両のドアがあく。 トンネルの中にホームだけがあり、ほとんどホームにも明かりがないため、電車より外は隔絶されたかのような真っ暗闇で、それによって、外のホームの、様子は見えず、かろうじて、うっすら光が漏れた場所の点字ブロックが見える。 当然乗ってくるものなど誰もいないはずだが、まるであえて言うなら『概念的侵略者』のような見えずの存在が電車内に、侵入しているようで3人は停車するたび、自然と口元を手で塞いだ。


 とはいえ、当然誰も入ってきていないので、ドアはひとりでに空き、そして閉まる。


「次の…駅だね…。」


野々原 香折は四季原の手をギュッと握るとそう呟いた。

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