第35話
「―――これは『幻神』型召喚陣ね
江崎君が望んでいる『聖灰』型召喚陣だったなら、海外企業との
取引で巨額利益が見込めたでしょうけど、
幻神』型は海外探索者や海外企業にとっても全く意味の無い召喚陣だから、
ミジンコ未満の利益しか上げられないわ」
そう話すのは、日本探索者協会の『会長』で定例会議の議長を務めている
新島 美香だ
江崎は、朝の定例会議で五号『ダンジョン』で経験した事を報告していた。
これがアニメやラノベ書籍ならば、まさに驚愕の出来事として政府や探索者協会が
大騒動しつつ、 動き出すという展開が予想できる。
しかし、現実はそんな展開にはならず、淡々と進行していくだけだった
「残念だったな。江崎
差し当たり、『英霊召喚』ならば合衆国中西部地域を拠点としている
『熱砂の旋風』か『夕闇の涙』へ高値で売り付けようと
もくろんでいたのだろう?」
日本探索者協会の『副会長』である佐藤 正樹がニヤッと笑いながら声をかけた。
この『世界線』の佐藤 正樹の反応にまだ、慣れていない事もあり
違和感が拭えない。
(本当に違和感しかないなぁ)
江崎は、若干貌を引きつらせつつ、表情には出さずに平然とした表情を作る
「ま、『聖灰』型召喚陣が発見されるのは主に欧州や中東の『ダンジョン』だけ
なんで、落胆しなくても良いんじゃないっすかね
例えばエルサレムの『ゴルゴダ』ダンジョンとか、ルーマニアの
『ブラン城』ダンジョンとか・・・」
続けて言ったのは、『日本索者協会情報統括部』主任の廣瀬 証一郎だ。
「『契約』型召喚陣が発見されるのも、何れも、合衆国や南米の
ダンジョンだけだ
ネバダ州の『エリア51』ダンジョン、メキシコの『テオティワカン』ダンジョン、
パラグアイの『ラ・サンティシマ・トリニダー・デ・パラナとヘスース・
デ・タバランゲのイエズス会伝道所』ダンジョン」
廣瀬の言葉に反応したのは、古株の山田満男だった。
小肥だが体格の良い協会員で、 柔和な貌をしている
(この『世界線』の山田さんは、よく見れば体格は良いんだよなぁ)
江崎は困惑しつつ聞いていると、新島 美香がさらに話を続ける。
「何か面倒な事でも企画していていたの? 江崎君」
新島がため息を零す様にして、話しかけてきた
どうやら、江崎の様子を見て何か企んでいたとでも思われたようだ。
「まさか有給休暇を取って、合衆国や南米の探索協会と極秘に
取引を企んでいたとか?! ただてさえ人手足りないんですら!」
廣瀬が慌てた様子でそう続けたのだが、語尾が若干変だったため現に
会議室内が笑いに包まれ 廣瀬は恥ずかしそうに貌を赤く染めた。
「 『ですら』ってなんだ『ですら』って」
佐藤が笑いながらツッコミを入れた
(悪気はないのはわかるが、笑えない。
というか、海外『ダンジョン』ってどれだけあるんだろうか?)
江崎はそんな事を思いつつ、愛想笑いで返した。
「それとXCP245『異世界水』を使用する時は、くれぐれも慎重に
うっかり『ダンジョン』外で漏出でもさせたら、後々面倒な事になるから」
江崎の愛想笑いに答えず、新島はそう念を押すように言った。
(要はダンジョン外で漏出させるなという事だよな)
江崎が内心でそんな感想を抱く
「念願の五号『ダンジョン』管理をすることになったんだ。
漏出させれば始末書程度では済まないからな」
佐藤がそう言って笑うのを、新島がため息を吐く仕草で返した。
「XCP245の『異世界水』なんて漏出なんかさせたら、それこそ
生物災害対策部隊に拘束されるっすよ
特別許可なく散布する事を禁じられる原因になった、五年前のケンタッキー州
『ダンジョン』の一つで、お調子者の探索者がやらかしたっすからね」
廣瀬が神妙な様子でそう言った。
「それでケンタッキー州探索者支部だけでは手に負えなくて、州知事が
州防衛軍に出動命令を発令 までしたと聞きましたからなぁ」
廣瀬の言葉に古株の山田が続けた。
(一体何をやったんだ、その探索者)
江崎は内心でツッコミを入れつつ、話を聞いた
「せめて画策する時は一時間前でも良いから書面で報告をしてね?」
ため息を零す様にそう続けたのは、「日本探索者協会」会長の
新島美香だ。
「『ブラッド・クリスマス』と『青龍会』レベルの規模には、必ず
俺にも報告を忘れるな。
規模は小さくても、その特徴を細かく知らせろよ、特に日本政府関係者が
一口噛むなら猶更だ」
佐藤もため息を吐きつつ、念を押してきた
「利権が絡むなら政府の派閥上層部には話を通しておいてくださいよ?
江崎さんなら読みを間違える事はないと思うっすけど、日本の情報機関にも
根回しをお願いします」
廣瀬もそう言って念を押してきた。
「それはもちろん(と言うか、どんなヤバい事に頸を突っ込んでいたんだよ!?
この『世界線』の俺は!?)」
江崎は内心で冷汗を搔きながらもツッコミを入れ、廣瀬の言葉を
愛想笑いを浮かべつつ返事をした
しかし江崎がそんな事を考えている間にも話は進む
「・・・次はこっちの方も重要ね
〇×市の『廃神社』怪異ダンジョン』と『放置空き家ダンジョン』に
訪日観光探索者が無断侵入して動画配信をしようとしたところを、
手野武装警備株式会社の巡回警備員が取り押さえたそうよ」
新島が真剣な表情で告げる
「〇×市の『『廃神社』怪異ダンジョン』というと・・・・目的は
『妖魔の隠れ里』の『怨霊鎮魂』・・・という事でしょうか?」
古株の山田が聞いた。
「ええ、その通りよ
〇×市の『『廃神社』怪異ダンジョン』内部には、海外ダンジョンにはない
妖怪たちが棲み憑く『妖魔の隠れ里』が存在している事は、
広く知れ渡っている所よね?
そして訪日観光探索者は、海外では手に入る事がない素材
『怨霊鎮魂』を 目的としている」
新島の言葉に江崎以外が頷いた
「(なんじゃそりゃぁ・・・)」
江崎はそんな疑問を浮かべた江崎だが、今は話の続きを
待つことにした。
「訪日観光探索者は、武器も防具も一級品なため無双は簡単で本当に
羨ましいというかなんというか・・・。
怨霊鎮魂』なんてほとんど価値なんてないっすよ?
例え奪っても起こるのは『百鬼夜行』よりゲロ吐くほどメンドーな
『妖魔夜行』が発生するだけ・・・
海外『ダンジョン』の『宝庫』が羨ましいっす」
廣瀬がため息を吐いた。
「その『宝庫』を漁って一級品装備で固めた訪日観光探索者は、メンドーな
『妖魔夜行』を発生させて無双しまくりたいため、
『ダンジョン配信』専門の訪日観光探索者は動画で無双配信をするために
『怨霊鎮魂』を強奪するということだ」
佐藤は忌々しそうに言う
「純粋にダンジョン配信を視るだけなら「おおーっ」となるっすけど、
それらを取り締まる我々に取っては「おおぅ・・」と
ゲンナリするだけっすよ・・・」
廣瀬はうんざりした表情だ。
「で、『日本索者協会情報統括部』主任は今はどの『ダンジョン配信者』を
推してる?」
古株の山田が、少しおどける様な仕草で廣瀬に聞いた。
「断然・・・何て事を言わそうとするんっすか!?
取り締まる側っすよ!! 江崎さんじゃあるまいし、そんな
推しは決められないっすよ!」
廣瀬は半目でそう言った
江崎はその二人の会話に口を挟まず聞き流す事にした。
「江崎なら出張やら有給やらを言い訳にして、海外『ダンジョン』の『宝庫』へ
行くだろうな」
佐藤がニヤニヤとしながらそう続けた
「( 『宝庫』ってなんだよ)」
江崎は表情を平静に保ちつつ、内心でツッコミを入れた
「『日本索者協会情報統括部』主任としては、江崎さんには
絶対に行ってほしくは無いっす!
『日本索者協会員』で出向けは外交問題に発展するので、出来れば
プライベートで行ってほしいっす!」
廣瀬が真剣な表情で言うと、佐藤と新島がため息を吐く
「それこそ外交問題になるぞ」
佐藤は真剣な表情でそう言った
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