第25話

「まったく、何が何だがわかないぞ」

 江崎 零士は、盛大な溜息を吐きつつ、五号『ダンジョン』がある山間部へ

『日本探索協会』専用の社用車である黒塗りのベンツS600ロングに乗っていた。

 舗装されていない道が一本道であるため、道に迷う事はない

 植林などされていないため 暗くジメジメした感じが漂っており、雨や雪が降ると

 泥道となり、さらに歩きづらくなるだろう。

 その道をベンツS600ロングは快走していた。

 運転をしつつ、江崎は定例会議を思い返していた


 こちらの『世界線』の人間ではないため、口を挟むことも無くほとんど沈黙して

 聞いてはいたが、江崎は内心で頭を抱えていた

 四号ダンジョンの海外探索者専用リゾートホテル化関連について、この

『世界線』の江崎が裏で何かしていたらしく、具体的な事を『日本探索者協会』の

 新島や 佐藤達には一言も報連相もなく、独断で動いていたらしい

 これがもし佐藤達が裏で暗躍しての決定であったならば、文句も

 言えたのだが・・・

 それも無いのだ


 本来なら大問題なのだが、この『世界線』の江崎のやった事によって、北米西海岸

 最大規模探索者クラン『ブラッド・クリスマス』が、日本国内に

 新たな市場を開拓し 日本の経済界・企業団体・政府などに多大な影響と

 利益を齎していた

 最大規模探索者クラン『ブラッド・クリスマス』は、探索者クランという他に

 大企業としての一面を持っているため、また米国政府上層部も 後ろ盾になって

 いる事もあり、日本国内にある各企業や団体・国としても

 無視することは出来ないらしい

 またアジア系探索クラン『青龍会』も、古くから日本国内の企業と商取引や

 資金管理などを行ってる事もあり、こちらも無視することは出来ないらしい

「この『世界線』の俺は、その2つの組織にどんな『貸し』を売ったんだが・・・

 ラノベの主人公じゃあるまいし、まったく」

 そんな事をぶちぶち言いながら、江崎が運転するベンツS600ロングは道なりに

 山の中へと進んでいく

 しばらくして、竹林が続く道の先に人工的に切り開かれた土地と

 古めかしい和風建築の家々が建ち並ぶ集落が見えてきた



「特に異常発生はなさそうか。

 しっかし、本当に都市伝説などで語られている幽霊村か、ミステリースリラー系の

 舞台にぴったりの場所だ」

 そう呟きつつ、ベンツS600ロングを五号ダンジョン付近にある

 管理事務所へ走らせた

 管理事務所として使用しているのは、何処か日本古来の建物と

 古風な雰囲気の空き屋を利用させてもらっている

 辺り一帯は雑草が生い茂り荒れ地化しており、人里離れた山奥には

 立派な造りをした寺が存在感を示すように建っている


 古風な雰囲気の空き家は、元々は古い民宿だったようで

 当時のそのままの状態で残っていた

 風呂とトイレも完備しており、水回り関係も問題ない

 畳張りの部屋は6部屋あり 電気ガス水道は止められているものの、

 通電すれば使える 状態になっている


「・・・冗談で『本社に出勤しなくて、もう直接ここに行ってもいいですか?」と

 尋ねただけなのに、ガチで『お前は何をするのかわからんから、必ず

 朝は本社に出勤しろ』って断言するとは」

 江崎はそう愚痴りながら、管理事務所の駐車場にベンツS600ロングを

 停めて管理事務所へと入った

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