第21話


「・・・こちらの方も結構重要な報告が

 規制緩和後に入国した訪日観光探索者の一部、推定で約1万人ほどが

 それぞれ別個で『放置田ダンジョン』、『廃神社・廃寺』怪異ダンジョンと

『空き家』ダンジョン』へ踏み入れた可能性があると、各現地行政、警察より

 報告を受けています。

 ただし、『日本探索協会』のダンジョン監視員による現地調査では

 それらしき訪日観光探索者の姿は確認されてはおらず、

 日本国内での入国規制による訪日観光探索者と 同姓同名の別人

 または本人であっても別人と判断されています」

 古株の山田がそう報告する新島は、苦い表情になる

「『日本探索協会』の監視員が現地調査で確認できていない以上、 その報告は

 信用性に欠けるわ。

 それに本当にそれぞれの『ダンジョン』に脚を踏み入れたのは、大方

『ダンジョン配信』が目的じゃないかしら?

 そうだとしても、撮影や配信を止めさせるのにも『日本探索協会』人手不足で、

 難しいのよね・・・現地に丸投げしているけど」

 新島は、苦い表情を浮かべつつそう告げた


 佐藤がタブレット端末を操作し、次の議題の報告をする様に促すと

 廣瀬が口を開いた

「立ち入り禁止している『『空き家』ダンジョン』へ訪日観光探索者が、無許可で

 入り込む原因となっているのは、配信すれば良質なネタとして撮れ高のある

『逸れスライム』の討伐が人気なのが原因かと。

 なにせ、海外『ダンジョン』では出現しないモンスターですからね」

 廣瀬はそう報告する。

「日本人探索者には、まったく旨味もないモンスターなんですがねぇ・・・。

『逸れスライム』なぞ泡立つゼリー状の原生生物の割には、素早くて鉄の様に固く

 出現率も超低確率が常で、そのドロップアイテムも使い道が殆ど無いという

 不人気なモンスターの1つですよ」

 山田が続けて口を開いた

 佐藤がタブレット端末を操作すると、会議室に3Dモデルの様な映像が投影される

 それはまるでゲーム画面の様に、スライムの3Dモデルだった

(ガチガチの海外系RPGゲームのスライムじゃないか・・・

 本当に世界観や時代背景に統一感ないな・・・)

 その映像を見て、江崎はそう思った

「自国では出現しないモンスターを討伐する事で得られる承認欲求は、

 日本人探索者には理解しがたいものがあるんすよ」

 廣瀬がそう言うと新島も頷いていた。

「今はまだぎりぎり対策はできていますが、円安の影響もあり訪日観光探索者数は

 一気に増加がも 懸念されています

 また円安による物価上昇と協会人手不足、訪日観光探索者増加による

 日本探索業界の 業務負担増加により、

 訪日観光探索者からの不満が協会に寄せられ懸念も・・・」

 佐藤がそう報告する廣瀬がさらに付け加える


「もう1つ

 主に『ダンジョン配信』を主軸としている海外探索者企業と訪日観光探索者団体の

 一部がまた、廃村集落に無断で踏み入った事による 事故も懸念されています」

 廣瀬がさらに付け加える

「東京出入国在留管理局は、不法入国者を摘発し国外へ強制退去の調査にも

 時間をかけているため、詳細な摘発には至っていない とも報告を受けています。」

 山田が少し難しい貌をしつつ、報告する

(何なんだ・・・この面倒な『世界線』は・・・

 放置田の草刈りからどうしてこうなるんだ・・・)

 江崎は心の中でそう呟くのだった。

 内心で嘆息しつつも、気持ちを切り替えようと水を飲む事にした

「お上品な訪日観光探索者企業や訪日観光探索者団体は『日本探索者協会』に

 取っても歓迎するけど、世界的にも悪評の高い外国企業や犯罪者集団は

 歓迎できない存在よ。

 彼等は金のためたら、日本文化や風習なんてお構いなしだから、

 その点を十分に注意しないとね」

 新島はそう語ったその声には怒気を孕んでいた。

 江崎はその声色にぞっとするのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る