第20話

 「『連動型逢魔時』か『超広域百鬼夜行』を探知でもしたんじゃないのか」

 廣瀬の言葉に山田が、何処か面白そうな口調で言う

「いや、それ洒落になんないですよ。

 ただてさえ国側が、その2つについては警戒しているのに」

 廣瀬が苦笑しながら、そう返す

「ギリギリ出勤の江崎がこう早く出勤するという事が続いているとなると、

『連動型逢魔時』と『超広域百鬼夜行』が同時多発に発生する前振り

 かもしれ―――冗談だ」

 佐藤がそう言い続けていたが、廣瀬と山田のぎょっとした表情を見て

 言葉を止める

(この『世界線』の佐藤さんは、冗談言うタイプじゃ無かったのになぁ……)

 江崎はそう思う


 同時に会議室のドアをノックをする音がした

 佐藤が新島に一瞬だけ視線を向けると、佐藤が入室を許可する

 会議室のドアを開け中に入ってきたのは、2人の男女だった

 男は細身で黒いスーツ姿、黒髪のオールバックで貌はいわゆる塩顔整っていた

 彫りが深いためか 日本よりも海外男性というイメージだ

 女は黒いパンツスーツを身に纏い、長い黒髪を後ろで束ねていた

 彼女はその美しい貌を無表情に保っている

 男性は気品が感じられる動作で、女性は優雅な動作で着席した

(・・・やはりこの2人はあっちの『世界線』では見覚えがないなぁ・・・)

 江崎はそう思いながら観察する事にした


「全員揃った事だし、定例会議を始めましょうか?」

 新島はそう言うと、一同が頷くのだった

「まず『魔震計測』課だ。

 定時報告をしてくれ」

 佐藤がそう言う

「『魔震計測』の定時報告ですが、体感には感じられないので

 本日も様子見で問題無いかと、まだペンデュラムでの魔震計測は

 行っておりません」

 そう報告したのは、黒髪のオールバックの男性だ

「 『東日本百鬼夜行』以降、全国の『放置ダンジョン』内部ではモンスターの

 活性化の兆しが見られるものの、全て低級モンスターばかりで

 探索者協会にとって は懸念する事態ではありません。

 ただし・・・全国の『廃神社・廃寺』怪異ダンジョンと『空き家』

 ダンジョン内部では異変が発生している可能性もあるので、

 引き続き訪日観光探索者には解放される

 べきではないと進言します」

 そう続けて報告したのは、黒いパンツスーツを身に纏い、長い黒髪を

 後ろで束ねている女性だ

「日本は『魔震大国』よ?

 いつ何時『首都直下百鬼夜行』や『連動型逢魔時』が

 発生してもおかしくはないの。

 東北地方を中心に発生した『東日本百鬼夜行』だって不意打ちだったのよ」

 新島はそう発言する

 その言葉に廣瀬や山田も頷くのだった

(『東日本百鬼夜行』・・・・

 自分がいた『世界線』だと東日本大震災の事か

 だとすると、『魔震大国』は『地震大国』っていう認識でいいのか?)

 江崎はそう思った


「『日本索者協会情報統括部』東北支部から、入国緩和後からまたぞろ

『帰還困難区域』へ訪日観光探索者が無断無許可で踏み入れる事案が数件発生し

 注意を促す様に指示を受けました。

 目的は一定以上モンスターが集まると『百鬼夜行』化する

 ホットスポットでのspeedrun。

 つまり動画配信です」

 廣瀬がタブレット端末に映し出された書類を見ながらそう言った。

「現地行政と警察、『手野武装警備株式会社』からは、『帰還困難区域』の

 一部の『廃神社・廃寺』怪異ダンジョンと『空き家』ダンジョン』の見廻りが

 予算削減と人員不足で出来ないと報告を受けています。

 再三に渡って『日本探索協会本部』からも現地へ人を出してほしい』という

 嘆願書が送られています」

 佐藤が続けてそう報告する

「『日本探索協会』は行政と警察、『手野武装警備株式会社』よりも

 人手不足なのよ?

『放置田ダンジョン』や『廃神社・廃寺』怪異ダンジョンと

『空き家』ダンジョン』の監視や見廻り、

 日本人探索者と協会支部の職員達への指導、訪日観光探索者に対しての注意喚起や

 違反行為の取り締まり業務対しての注意喚起や違反行為の取り締まり業務・・

 これ以上現地に人を回す余裕はないわ」

 新島が淡々とした口調でそう言う

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