第10話


 その後も暫く、ドローンを操作して洞窟内部を探索を続けた

 結論から言えば、遠くも見通せないくらい薄暗い洞窟内部は広く、見渡しても

 分からないため奥へ進むことを断念した。

(さすがに、無理して洞窟の奥に行く必要はないか・・・)

 そう考えた江崎はドローンを元来た入口へと帰すことにした

「・・・こんな所を俺一人で担当?無理ゲーだろ?」

 溜息を吐きつつ、彼は呟く

 眉間に皺を寄せつつどうするべきか思考していると、通信機から音声が入り

 ビクっと身体を震わせた

 彼は心臓が早鐘を打ち、額に汗を滲ませつつも慌てた様子で通信機を取り出して

 応答する

『――手野薬品工業株式会社の沢村です。

 江崎さんはいらっしゃいますか?』

 声の主は、若い女性の声だった

 表情を伺い知ることは出来ないため、どんな容姿をしているかなどは

 判らないが優しさに満ちた声が耳に心地よく届いていた。

「あ、はい、江崎です。お世話になっております・・・(こんな綺麗な声の女性がいるのか)」

 彼は緊張した様子で相手に応対した

 通信先にいるのは手野薬品工業広報を担当している女性だと思われるが、

 元の『世界線』でも営業では関りもなく会ったこともないので緊張してしまう

 恐らくこの『世界線』では、何か接点があるのだろうと江崎は推測した

『XCP245『異世界水』は、そちらに到着していますか?』

 通信先の彼女はそう質問を投げかけた

(あれか?)

 そう思いつつ、除草剤の原液が入っている様な瓶が

 送られてきた事を思い出していた。

「あ、はい。こちらに届いてます」

 彼女の質問にそう短く答えた


『XCP245『異世界水』については、以前にもご説明させて頂きましたが・・・

 製造停止処分の製品の形となっております

 また現在探索者向けに販売している『異世界水』とは異なり、『廃棄異世界』から

 開拓移民を呼び寄せます。

 想定外の事が発生する可能性もあり、当社では保管管理していましたが、今回は

 江崎さんとの取引があり、お渡しする事に決定しました。』

 通信先の彼女は淡々とそう述べた。

(取引って何?)

 その説明を聞きながら思わず、彼は面食らった表情になる

 だが、通信先の彼女は構わずに続けた

『当社が保管していたXCP245『異世界水』は、契約通り

 そちらの『放置田ダンジョン』へと搬入させていただきました。

 もし、緊急事態が発生した際は速やかに『手野薬品工業』の緊急連絡窓口へ

 ご連絡下さい。』

 彼女はそう淡々と述べた。


 しかし、その声色は優しげなもので、何処か彼を心配しているかのように

 聞こえた

 だが、江崎は返答に困り固まってしまっていた。

 元より彼とて、ファンタジー系のアニメや小説などは

 好きな部類ではあるが・・・

 まさか自分がこんな事に巻き込まれるとは思わなかったためだ

「ご連絡ありがとうございます。緊急事態が発生したら

 すぐにご連絡させていただきます(・・・・これ以外何を言えば良いんだ?)」

 そう考えつつ、なんとか短い返答をする

 その後通信が切れたが、彼は頭を抱えたくなった

(・・・どうするよ)

 内心でそうぼやく彼だった。

 XCP245『異世界水』が送られてきた時、武装警備隊員がそれを噴霧すると

『異世界の冒険者』が現れるうんぬんと言っていたが、送られてきた製品は

『冒険者』ではなく、どちらかと言えば『開拓移民』に近い存在らしい

 もっとも、効力を聞いても彼に取っては、一体それが何の

 役に立つのかは分からないのだが・・・

 しかし、現実としてこの『世界線』で生きて行かなければならない事は

 事実だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る