第5話

 江崎は、電飾看板の文字を読み終えると、深いため息を吐く

「緊急避難所うんぬんと書かれていても、『異変』が発生したら避難する前に

 普通に死ぬと、俺は思うんだが・・・? もしかしてこれがこの世界基準か?」

 彼はそう独り言を呟く

 無音に近いこの空き家内部でも、外まで聞こえるのではないかと

 いうほどの音量だ

 彼は気にする素振りも見せず、窓から見える景色を見つめる

 五号『ダンジョン』入口は、高さ20メートルの金網堀に囲まれた

 金網櫓門がある

 それが五号ダンジョンの入口だ

 周囲は高さ4メートルほどの頑丈な鉄柵で囲まれた陣地もあり、

 そこで武装警備隊が警戒しているのが視えた


「失礼します。

 搬送されてきた荷物と書類確認お願いします」

 管理事務所に入ってきた武装警備隊員が、江崎にそう話しかけてきた

 その隊員が持っていたのは、段ボール箱と封筒だった

「あ、はい、どうもすいません」

 そう応えつつ、江崎は段ボール箱と封筒を受け取った

 段ボール箱の中身は、除草剤の原液が入っている様な瓶と、液体が入った

 ペットボトルが数本入っていた

 それらには『手野薬品工業株式会社』のロゴマークが印刷されていた

「・・・『異世界水』? 『手野薬品工業株式会社』? なんだこれ?」

 江崎は不思議そうな表情を浮かべた

「 『手野薬品工業株式会社』から、後日追加で瓶詰された

『異世界水』350本がこちらに届く予定ですよ

 その商品は、何でも『手野薬品工業株式会社』ウラジオストク支店で

 限定生産していたものらしいですね・・・。

 嵩原隊長からもくれぐれも、運ぶ時は慎重にと厳命されています

 中身の水を『ダンジョン』内で捲けば、『異世界』の冒険者が

 砂糖水に群がる蟻の様に集まって来ると、簡単な説明を受けましたが・・・」

 武装警備隊員の男性が、そう淡々と事務的に説明をし始めた

 それに対し、江崎は頭に疑問符を浮かべた表情で硬直していた

「は?(何を言っているんだ?こいつ・・・)」

 彼は思わず疑問の声を、心の中で漏らした


『『異世界』の冒険者』という名称も理解できなかったが、そもそも

『異世界水』なる物が理解できないからだ

『手野薬品工業株式会社』は、彼がいた『世界線』でも存在はしていたが まさか

 ここでその名前を聞くとは、思ってもいなかった

(ウラジオストク支店ってなんだ? どこの事言っているんだ?)

 そんな江崎の疑問とは裏腹に、武装警備隊員の男性は淡々と説明を続ける

「何年か前ですが、海外『ダンジョン』で原液を水で薄めずにそのまま

 巻き散らした契約探索者がいて、効果が無くなる半年もひっきりなしに

『異世界』冒険者が集まってきたことがあったみたいですよ

 外国の探索者協会では有名な話で、それ以来特別な許可なく

散布は禁止されてます」

 そう武装警備隊員の男性は言いながらも説明を続けた


「・・・」

 だが、それは江崎にとって耳を疑う内容だった

「外回りの警戒は我々武装警備隊に任せて下さい

 江崎さんはダンジョン内に入られて、『日本探索協会』の業務に 集中された方が

 宜しいかと思います」

 そう武装警備隊員の男性が言うと敬礼をして去って行った

 彼はその言葉に微妙な表情を浮かべつつ、立ち去って行った その後ろ姿を見送る

(この分だと、俺は一人で『ダンジョン』内の調査をしなきゃいけないのか?)

 彼はため息をひとつ吐くと、そう内心で呟いた

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