第3話

 四号『ダンジョン』より『ダンジョン課』オフィスへ戻ってきた

 江崎は、疲れ果てていた

 初回調査として、7層まで続いていた四号『ダンジョン』内を隈なく調べ探索したからだ

 その結果、四号『ダンジョン』内では悪魔系モンスターの出現が確認できた

 特に4層から下の階層からは、佐藤が言った通りドラゴンまで徘徊していた

 彼が目撃したそのドラゴンの姿は、RPGゲームの中盤から終盤に登場しているような

 タイプと、彼がいた『世界線』で人気狩猟ゲーム(カプコン・モンスターハンター)内で

 登場している古龍種と呼ばれる強力なモンスターと酷似していた

 前者は、岩石のような堅固な外皮に鋭い爪を持ち長い首に爬虫類のように

 平たい貌をしていた


 眼は鋭く青く爛々と煌めき、額には捻れた1本の角が生えて、全身はまるで彫刻品かと

 思える程に凹凸が少なく、外皮同様に鋭い鱗の生えた尻尾を鞭のようにしならせ

 その先端は槍のように鋭い穂先となっていた

 後者のタイプ(カプコン・モンスターハンター)は、ゲーム内とは違うリアルな

 圧倒的な存在だった

 まさしくゲーム内(カプコン・モンスターハンター)の開発コンセプト通り、

 あらゆる生態系から逸脱した圧倒的な存在で、その全てが他の生物とは

 比較にならない程驚異的な姿だ


 江崎はただ身を潜めて戦闘を避け様子を伺う事しかできなかった

 幸いにも、前者後者タイプのドラゴンは江崎の存在には気が付くことなく、

 彼の存在を無視して通り過ぎて行った

 それ以外のモンスターとは、途中で何度か遭遇したが幸いにして

 悪魔系のモンスターとは遭遇する事はなかったため、戦う事無く

 済んでいた

 実家の『放置田ダンジョン』でも三層という低階層だったので

 なんとか戦えていたが、7層まで奥深く続いていると疲労困憊だった

『ダンジョン課』オフィスへ戻るなり、彼はそのまま自席に

 突っ伏すように倒れ込んだ




「・・・『放置田ダンジョン』って何なんですかね」

 江崎は、突っ伏していた顔をゆっくりと上げた

 疲れたせいか溜息が出る

「 海外『ダンジョン』は、日本国内の『放置田ダンジョン』よりも

 危険度も難易度も高くて規模も大きいぞ

 世界的に流行ったウィルスの影響で、この3年間は訪日観光探索者制限を

 厳格に取っていたからな 」

 溜息を漏らす彼を、向かいの席に座り報告書を作成している佐藤が言う

「 ( 訪日観光探索者って何? また新しい言葉が出てきたぞ・・・)」

 彼はそう思いながら、机の上でぐったりしつつ聞く

「今年から入国制限が緩和されて、制限前の七割程度まで回復したとは

 聞きましたが、後は中国政府が感染拡大後に停止していた

 訪日観光探索者の受け入れ再開について中国国内を対象に段階的に緩和していく予定

 らしいですね」

 続けてそう言ってきたのは小肥の男性だ

『日本探索者協会探索事業部門ダンジョン課』で補佐を務める安田である

 年齢は30歳と若く、容姿は小肥で眼鏡を掛けている

「あぁ、その話は俺のところにも来ていた。

 そうすると制限前の『爆買い』と『ダンジョン』内での

『爆狩り』の光景が復活するかもしれないな」

 佐藤が頷きながら、静かに答えた


「武装警備員の同期に聞いたんですが、入国制限期間中に離職する

 武装警備員が続出で、特に『ダンジョン警備部』は人手不足が

 深刻らしいですね」

 安田がそれに応える様に、溜息を吐きつつ応える

「再び増員予定らしいとは聞いているが、入国制限が

 緩和と円安で国内ダンジョンの入場者数は、間違いなく

 右肩上がりに増加する。

 だが、いつ『ダンジョン警備部』が増員するかは未定だから、

 暫くは待ちだな」

 そう言って佐藤が苦笑いを浮かべた

「国内観光業界はインバウンドの恩恵を再び受けられるので、

 多少は喜んでいたようですよ。

 元々海外から来る訪日観光探索者は、日本人と違って

 よく食べる人が多かったですね

 しかし、日本国内探索者業界は相変わらず厳しい事は

 変わらないと思いますが」

 安田がそう言いながら眼鏡を指で押し上る様に掛け直して応じる

「日本『探索者』職種は海外と違って、汚い・きつい・稼げないの一般職より

 3kなため人気がない

 海外『ダンジョン』では、上層からでも魔石や

 素材類がドロップし深層や深淵からは希少な資源、

 素材が手に入り稼げる。

 だが、その分死と隣り合わせのリスクがある

 日本国内『ダンジョン』は、『耕作放棄地』から発生する『ダンジョン』なため、

 魔石や素材類などはほとんど採れない。

 例えドロップしても質の悪い物ばかりで、買い取り価格も安値だ

 まぁ、訪日観光探索者から見れば日本は安全面に関しては

 世界トップクラスで人気の高い観光国なのであまり問題はないが」

 佐藤は淡々と答える


「海外探索者から見れば、観光もできて一定以上の防具類や

 装備類を揃えたら自国『ダンジョン』よりも安全に程よい冒険心も満たされ

 新しい戦闘スタイルや戦略を試す事も出来て一石三鳥

 かもしれませんけどね」

 安田が苦笑を浮かべつつ言う

「それに世界的に流行った感染症以降、海外ではダンジョン配信が

 人気コンテンツ化している

 これからは探索者としても活躍し映像の編集技術も高い、チャンネル登録者一千万人を

 超えの海外ダンジョンインフルエンサーも次々と来日するだろう」

 佐藤が淡々と応える

「そうなればダンジョン配信は、さらに人気コンテンツ化しますね。

 ・・・いや、もとい日本国内『ダンジョン』配信と言うべきか。

 なにせ日本国内『ダンジョン』は、四季折々で出現するモンスターの種類が

 季節ごとに出現するモンスターが違う

 海外『ダンジョン』は、主に公共施設などが『ダンジョン』化しているためか、

 季節によってダンジョン内が変化する事なんて無いですし。

 流行った感染症前でも、日本国内の『ダンジョン』は季節によって出現する

 モンスターが変化する為、その変化を楽しみに訪れる訪日観光探索者も

 いるくらいでしたよ」

 安田が何かを思い出したように言う

 そんな安田の様子を見て、佐藤は苦笑する


「海外『ダンジョン』は、『仕事』感覚が強いが、日本国内の

『放置田ダンジョン』内探索はどちらかと言えば『宝探し』感覚が強い

 安全面に関してもそうたが円安影響もあり、そして日本国内の物価は

 海外訪日観光探索者からすれば、海外では考えられないほど圧倒的に安い

 例え俺達日本国民からすれば値上がりラッシュで、生活が苦しくなろうともだ」

 佐藤はそう言うと、パソコンに眼を落とした

「日本政府も観光立国を政策として掲げている以上、訪日観光探索者には

 来日して貰いたいから見過ごす事は出来ないでしょうね」

 安田は、何処か他人事のように呟く

 そして2人は同時に深い溜息を吐き出した

(・・・『爆買い』は分かるが、『爆狩り』『訪日観光探索者』

『ダンジョン配信』『ダンジョンインフルエンサー』って

『何だよ・・・)

 江崎は2人の会話に聞き耳を立ていた

 しかし、2人の会話は江崎の知らない言葉が

 多すぎて理解が追いつかない

 聞きなれない言葉の数々に、彼は困惑するしかなかった

 彼は別の意味で溜息を漏らすと、背もたれに身を

 預ける様にして天井を仰ぎ見た



「入国規制前の『放置田ダンジョン』に入っていた探索者は、

 外国人8割で日本人探索者は1割以下だったらしい

 今後はさらに訪日観光探索者の受け入れ再開によって、外国人探索者の

 割合が 増えるだろう

 特に訪日観光探索者にとって、冬場の『放置田ダンジョン』は

 穴場スポットだ」

 佐藤は淡々と言いつつ、パソコンに向かい合い報告書を作成する

「ダンジョン課が管理しているのは、『放置田ダンジョン』だけではないんですけどねぇ

 日本人探索者に取って冬装備一式揃えるだけでも大金が飛んでいきますが、

 訪日観光探索者に取っては

 自国『ダンジョン』で入手した素材などを売りさばいて稼いだ

 金の1パーセントを使うだけで日本国内で販売している

 冬装備一式を手に入るわけですし・・・

 冬装備を扱う業者関係者に取ってはとてもいい鴨です」

 安田は淡々と作業しつつ、パソコンに表示されている

 ダンジョン情報をチェックする

「ただでさえダンジョンインバウンド消費額は、観光消費額よりも

 上回っているんだ

 訪日観光探索者は日本探索者よりも購買意欲が

 高いありがたいお得意様だ」

 佐藤は呆れた様に反論し、報告書を作成しながら言う

「訪日観光探索者の冒険心旺盛は凄いものはあるとは思いますが・・・

 それでも比較的安全な日本なら多少割高でも構わないと考える層が多いから、

 日本国内の『放置田ダンジョン』探索動画がが人気なんですよね。

 でも、肝心の日本人に取って『放置田ダンジョン』は人気が無い」

 安田は、パソコンでダンジョン情報や訪日中の観光情報を

 チェックしながら言う

「海外『ダンジョン』の様に希少品などがドロップすれば

 人気も出たはずだがな

 訪日観光探索者による『放置田ダンジョン』探索動画配信で、

 大人気なのが海外『ダンジョン』では出現しないレアモンスターが出現する秋から冬に

 かけての探索動画だな。

 特に気温や環境に影響されるモンスターは人気だ」

 佐藤が静かに答える

「『放置田ダンジョン』などでは、冬場は幻獣や雷狼などが出現しますね・・・

 言っちゃなんですが、高価な冬装備一式で武装した訪日観光探索者が

 有効な戦いができるだけですよ?

 安物で見た目からして貧相な武器や防具の日本人探索者が

 幻獣や雷狼に挑む事は・・・

 う~ん。自殺志願者です

 あと素材なんて、海外と比べれば劣化品ですよ

 それに日本人探索者は冬場に『放置田ダンジョン』へ行くよりは、

 スキー場や温泉旅館に泊まりたいものです」

 どこか諦めたような口調で言う

「日本人探索者に取って冬場の『放置田ダンジョン』探索は厄介でも、

 冬装備一式揃えられるほどの資金がある訪日観光探索者にとっては、

 魅力的な獲物が潜む場所だ」

 佐藤はそう言いながら、カタカタとキーボードを打ち込む


「地方自治体や観光産業にとっては冬場も収入源ですが、探索業界にとっては

 冬場は特に多い、地域の『耕作放棄地』から発生している

『放置田ダンジョン』への訪日観光探索者による無断立ち入り

 探索の取り締まりが頭痛の種ですよ・・・

 そうそう、訪日観光探索者で思い出しました

 2023年4~6月期の訪日観光探索者の『消費動向調査結果1次速報』が

 公表されましたよ

 これによると、全国籍・地域の訪日外国人による旅行消費額の

 総額は1兆2052億円、内訳は宿泊費4218億円、買物代3038億円、飲食費2892億円、

 交通費1439億円、『放置田ダンジョン探索消費額』463億円となり、

 前年同期に 比べ伸び率は0.6%となっているとか。

 訪日観光探索者数も入国規制緩前の3年前まで回復し、訪日観光探索者による

『放置田ダンジョン』探索数も、3年前より1.5倍と伸びているようです」

 安田はそう言うと、マウスを操作しカチカチとクリック音を立てる

「世界規模の感染症流行の感染対応策で、日本も水際対策の強化の一環で、

 訪日観光探索者の入国規制を3年間続けていたからな

 日本国内の観光及び『放置田ダンジョン』探索は、訪日観光探索者からは

 感染症流行前らかも人気があった

 解禁された4~6月時期は、訪日観光探索者に取っては

 冬場とは違う人気がある

 その季節以外『ダンジョン』内では出現しない水獣や海獣、獣竜などの

 モンスター達の存在がある。

 海外では見られない水獣や海獣、獣竜などの攻防駆け引き戦闘は、

 ダンジョン配信やSNSに投稿することで収入源にもなる」

 佐藤は、淡々とキーボードを打ちつつ言う



「・・・想像以上に厄介なモンスターとの闘い映像の何処に重要があるのやら。

 ドロップするのは、ゴミみたいな鱗ですよ?

 日本人探索者は危険度の割りには収入が少なすぎるから敬遠しているのに・・・

 海外『ダンジョン』の方がよっぽど良い物がドロップしますよ」

 安田は微妙な表情を浮かべながら、マウスを操作して 画面をスクロールさせる

「ゴミと言うな。

 日本人探索者にとってはゴミかもしれないが、訪日観光探索者に

 とっては価値ある物だ。

『放置田ダンジョン』内を探索する訪日観光探索者で人気の1つは、

 その鱗や牙などの素材だぞ」

 佐藤はそう応えた


「いやはや、あれの何処が良いのか・・・

 そうすると、中国人訪日観光探索者の団体観光探索も再開するとなれば、

『放置田ダンジョン』内の『爆狩り』の急回復は確実ですね

 日本は少子高齢化が進んでいて若者の人口減少が問題視はされていますが、

 訪日外国人観光客の高額消費と爆買いで国内の雇用は大きく

 改善されている事が 事実です。

 それに我々の探索業界も、探索者を職とする若者が年々減ってきてますし・・・」

 安田は、パソコン画面を見ながら言う

「円安が続ければ、東南アジア地域や中東地域からの訪日観光探索者が 増えると

 予測されている

 それを見越してか噂の段階ではあるが、手野グループは言語学習事業関連の

 合弁会社の新会社設立や、語学学校の設立も計画中らしい」

 佐藤が静かに告げる

「その計画の中に『日本探索協会』に対する予算の増額と人員の増員は・・・

 なさそうですね。

 3年前の欧州と米国の探索者業界視察を覚えてますか?」

 安田は静かに尋ねた

「忘れるはずがない

 欧州冒険探索業界と米国冒険探索業界の実情は、法整備も探索者の質も良く、

 日本国内における探索業界よりも 人材・資金があるにも拘らず欧米探索者達は、

 海外ダンジョンで活動をしていたこに衝撃を受けた」

 佐藤は淡々と答えるが、そこには懐かしむような口調がこもっている

「欧州冒険探索業界はやはり国と文化の歴史が違いましたね

 我々日本人は欧米の国々と比べるとダンジョンに対して

 忌避感が何処かにありますが、欧州各国ではダンジョンに対する

 忌避感がありません

 それに海外『ダンジョン』での平均報酬金額は日本円にして

 月収100万以上と聞きますから」

 安田はため息交じりに言った

「視察に同行した江崎だけは、眼をキラキラさせて『今後『日本探索協会』は、

 どちらの方針なんですか? 物量の米国流?それとも質の向上を目指す欧州流?』

 なんて事を新島『会長』に直接尋ねていたぞ」

 佐藤はそう言いながら、急に彼の名を出しながら応える

「へ!?」

 安田と佐藤の会話を黙って聞いていた江崎は、突然自分の

 苗字が言われて思わず変な声を上げてしまう

「そいえば彼は、視察先ではふらっと単独行動していた事が

 ありましたね

 欧州探索者業界視察では、最先端の英国式冒険探索組合関係者や

 探索者向けの武器防具類の本場でもあるブタペストの探索者組合関係者と

 単独接触して会長に苦言されてましたな」

 安田が苦笑しつつ言う

「米国探索者業界視察中にもだ

『観光してました』と言っていたが、果たして北中米にまたがる複合企業関係者や

 米国政府関係者に単独接触する事が、観光なのかどうかは疑問だ」

 佐藤はどこか呆れた口調で言いながら、江崎に視線を送る


「それからですよね?

 海外から時々、荷物が届けられるのは」

 安田も何かを思い出すように、口に出した

「江崎・・・お前は視察先で何をやっていたんだ?

 会長に詰め寄られても、のらりくらりとかわしていたみたいだが?」

 佐藤は視線を江崎に向けて深いため息共に、問いかけた

「それは、いろいろとあの時は・・・(そんなの知るわけがない!

 俺はこの『世界線』とは違う所から『転移』させられたんだ!)」

 江崎は心のなかで悪態をつきつつ、表情だけは困った表情を浮かべながら応える



「まぁそれは今はいい。

 江崎、海外視察以降から新島『会長』に監視担当不在で、今後とも一般開放予定は

 無い五号『放置田ダンジョン』の担当をしつこいぐらい申請書を提出していたが・・・

 喜べ、新島『会長』が根負けしたぞ」

 佐藤は淡々と話し始めた

「はい?」

 彼は思わず首を傾げるしかできなかった

 一体何が何なのか理解が出来ないが、た、嫌な予感しかしない

「さすがの新島『会長』も、海外視察以降ほぼ毎日、決まった様に

 申請書が 提出され続ければ辟易してな」

 佐藤は淡々と話を続ける

「新島『会長』を辟易させるって、いったいどれほど彼は

 申請書を出し続けていたんですか?」

 安田は呆れた口調で尋ねる

「『2,695』回だ」

 佐藤はさも当然のように応えた

「・・・江崎君、君はどれほど五号『放置田ダンジョン』にご執心なんだ?

 あそこは限界集落化した過疎地放置田からの『放置田ダンジョン』化した事は

 知ってるよね? 

 それとももう一つの『廃寺』怪異ダンジョン』が狙い?」

 安田はどこか冷めた視線を江崎に向けつつ、新しい『用語』を言った

 何処か呆れ切った表情も浮かべている

「あはは・・・(それは俺も知りたいよ! というか『廃寺』怪異ダンジョン』って

 何だよ!? 放置田『ダンジョン』だけじゃなかったのか!?)」

 この『世界線』の自分が、何を考えていたのか全く分からないため思わず

 心の中で突っ込みを入れてしまう江崎であった



 そのタイミングで『ダンジョン課』オフィスに繋ぎ服を纏った男性が、

 ノックしながら入ってきた

「失礼します。手野運送です

 こちらに江崎さんはいますか?」

 男性は爽やかな笑顔と共に、挨拶をすると江崎がいる

 方向を見た

「あ、はい、俺です」

 彼はそう言うと椅子から立ち上がると、繋ぎ服を纏った

 男性の方に歩み寄っていく

「こちらにサインお願いします。

 荷物は、五号『放置田ダンジョン』へ運搬しましたので」

 彼はそう言いながら、封をした荷物の伝票を差し出す

「はい?」

 彼は思わず間の抜けた返事をしつつ、伝票を受け取った

 伝票を見てみれば、こう書かれていた



『手野運送・五号ダンジョン事務所へ配達物』と

 先ほどまで話題に上がっていた五号『放置田ダンジョン』へ、

 何かしらの荷物を搬送されたようだ

 何が何だがわからいが、彼は伝票にサインをする事にした

「江崎・・・

 お前まさかとは思うが、新島『会長』が根負けするのを見越して、

 何かしら用意周到に準備していたのか?」

 佐藤は、どこか怪しむような目つきで彼を見る

 それは安田も同じ表情だった

「・・・それではサインの確認したので」

 江崎に向かって軽く会釈して、手野運送の男性は爽やかな笑顔と

 共にオフィスから出て行った

 彼が席に戻ると、佐藤と安田が江崎をジト目を向けて出迎える



「尋ねても、どうせのらりくらりと誤魔化すのだろう?

 今後の五号『放置田ダンジョン』関連の定時報告書はくれぐれも忘れるな」

 佐藤は淡々と言うが、瞳は何か言いたげだ

「『ダンジョン課』メンバーは、今後激増する訪日観光探索者対策のため

 一号から四号『放置田ダンジョン』、『危険地帯』の『廃神社・廃寺』怪異ダンジョン』

『放置空き家』ダンジョンへ配属される事になるはずだよ」

 安田は苦笑しつつ、デスクに置いてあるパソコン画面へ視線を移した

「はぁ・・・?」

 彼はそれを聞いてもピンとこなかったのか、気のない返事を

 してしまう

 その返事を聞いてか、佐藤は深くため息をついた

「五号『放置田ダンジョン』及び、その限界集落地域の

『廃神社・廃寺』怪異ダンジョン』は江崎1人で管理してもう。

 お前が望んでいた事だろ?」

 佐藤はそう短く言い、何か続けて言おうとした時に

 電話が鳴った

 いち早く反応した佐藤は受話器を取り応対を始めた

「え゛!?」

 それを聞いてようやく理解したのか、江崎は 間の抜けた

 声を上げてしまう

 しかし、その反応は無理もない事であった。

 それはそうだろう。

 彼のいた『世界線』では、『ダンジョン』なんてアニメや

 ラノベ書籍などにしか存在しないからだ

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