第2話

 家に帰って来た。

 とりあえず、剣を一本だけ残して、部下に武器防具を与える。俺のコレクションの放出だ。

 こいつらは、遠いけど親戚でもある。俺の私兵だ。

 大騒ぎになって、奪い合いを始めた。

 そうすると、また母親が現れた。


「……括。これは?」


「これは、母上。出発前に、部下に武器防具を与えております。少しでも士気が上がってくれれば、いいのですが」


「自分の身を守る武器を、部下に与えるというのですか?」


「今回は、総大将なので。私が武器を抜く時は、敗戦が確定した時です。それならば、剣一本あれば十分です」


 あれ? 母親は、大泣きだ。

 間違ってないよね?





 趙家の千人の私兵を率いて、長平に向かった。

 長平では、廉頗将軍が待っていたよ。

 命令書を渡す。


「けっ、趙国の命運もここまでか」


 この人、『戦国四大名将』って呼ばれてるんだよね。でも、指揮権を取り上げられて、他国に亡命すんだっけ。

 三代の王様と仲が悪いんだったな。それと、郭開かくかいに帰順を邪魔されている。

 とりあえず、地図と藺相如からの言葉を書いた木簡を出した。


「藺相如殿は、平地戦を避けよとのことなので、私も防衛戦に徹します。もう二年ですからね。秦国も補給に問題を抱えてるでしょうし、ここは他国を動かしたいと思います」


「……ほう?」



 廉頗将軍は、帰って行った。

 さて、こっからだな。


 まず、廉頗将軍の将兵と俺の将兵を入れ替えるけど、戦術は今まで通りとした。

 とにかく、砦に籠っての防衛戦だ。

 でも、旗を変えると秦軍が襲って来たよ。


「弓矢で押し返せ!」


 矢が飛び交うけど、ここまでは届かない。つうか、低いところにいる秦軍の被害が酷いな。


「趙括将軍! 今です! 撃って出るべきです!」


 そだね~。兵法的にはそうだよね……。


「あ~、あれは演技ね。ちょっと離れた所に、伏兵がいっぱいいるから。砦から出ないでね~」


「「「えええ?」」」


 兵法書通りなら、今突撃すべきなんだけどね。今の俺は……、しない。



 夜になって、静かに歴史を思い出す。


「確か……、孝成王が積極策を執れって言ってくんだよな~。でも白起将軍もいるから、まず勝てないんだよな~」


 今はいいけど、事前に言い訳を考えておかないとな。


「確か歴史では、長平の後に邯鄲を攻められて、平原君が楚に援軍を乞いに行くんだよな~」


 長平で負けた後に、『戦国四君』の3人が、合従軍を起こして、秦を追い返すはずだ。

 だけど、この長平の戦いが起こったのは、韓の土地を趙に帰属させたことに端を発する。その案を出したのが、平原君だ。

 内心、冷汗をかいているだろうな。


「藺相如殿が動いてくれれば、合従軍の時期が早まんだけど……」


 廉頗将軍は、王様に嫌われてるしダメなんだよな~。

 次の王様もどうしようもない。その次もだ。


「あれ? 趙国ってこの時点で詰んでいる?」


 王様変えないと、ダメっぽいな。





 秦軍は挑発して来たけど、趙軍は動かない。兵法書通りに攻撃を仕掛けてくるのは、秦軍だった。

 そうすると、邯鄲から使者が来た。


「王命だ。撃って出よ。戦争の早期終結だ」


「あ~、いま~、合従軍の準備中です。もうちょっと待ってください」


「……はえ?」


 使者は、帰って行った。

 後は、藺相如と平原君次第だよな~。

 行けっかな~。


 俺は、楼閣より秦軍を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る