【紙上談兵】はしませんよ~趙括に転生したけど、長平と趙国はなんとかします~

信仙夜祭

第1話

廉頗れんぱ将軍に代わり、長平に赴いて秦軍を追い払うように」


 王命を受け取る。つい、笑いが込み上げてしまった。


『ふっ……。ついに俺に出番が回って来たか』


「はっ!」


 母親は、オロオロしているだけだ。

 息子の出世を喜ぶ場面だろうに……。



「さて……、出発の準備をするか」


 武器と防具の確認をする。

 全部、国宝級の一品で揃えた、俺専用の武具だ。埃を被っていたけど、ついに使う時が来たのだ。


「どれにしようかな~。全部は持って行けないな~」


 とりあえず、深夜になるまで選ぶことにした。



 明日出発だというのに、夜更かししてしまった。

 王への挨拶はない。

 家からそのまま戦場に向かわないといとけない。趙の考成王からの命令だった。

 あの馬鹿王は、父から煙たがれていたしな~。家同士の仲が悪い。

 布団に入り、そのまま眠りについた。

 悩み過ぎたのかもしれない。頭痛がする……。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「戦国策……。史記……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな。


「俺……、趙括ちょうかつなんだよな。ネタで、【紙上談兵】……紙上に兵を談ず――『丸暗記するだけで、その応用を知らない』て呼ばれるやられ役。ヤバくね?」


 ここで母親が来た。


「……括。準備は終わっているのですか?」


 この母親は、父の趙奢ちょうしゃの言葉に従って、王様に身内に被害が及ばないように進言している。賢母と言っていいけど、少しは息子を信じようよ。

 少し考える……。


「出発を、一日延ばします」





 さて、どうしようか……。

 このまま行くと、俺は秦の白起将軍に殺されて、40万人の趙兵を埋められてしまう。

 それで趙国の衰退が、始まってしまう。


「秦の始皇帝って、まだ邯鄲にいるんだよな……。それと、藺相如りんそうじょだ」


 出発前に確認することにした。



 まず、秦の人質の嬴政えいせいだ。後の始皇帝。

 こいつの扱いを間違って、趙国は滅びたんだ。


「この時期は、まだ呂不韋が世話してんだな……。そうなると、落ちぶれるのは長平の後からなのか?」


「どなたですか?」


 女性が一人、出て来た。

 多分、始皇帝の母親に当たる王太后になる人だ。


「呂不韋はおられますか?」


「……子楚さまと共に出かけております」


 まだ、大丈夫そうだな。


「私は、趙括と申します。これから秦国との戦いに赴きます。その前に秦人に挨拶に来ました」


「え……? 大将軍?」


 俺がそういうと、嬴政えいせいに会わせてくれた。

 まだ、幼いな。それと、疑り深い性格にはなっていないみたいだ。

 その後、嬴政の家を後にした。



 次は、藺相如だ。

 病気で臥せっていたけど、会ってくれた。


「何しに来られたのかな?」


「地図を持っていたら、欲しいんすけど……」


 藺相如は、目を見開いて、長平周辺の地図を広げた。そして、平地戦を避けるように依頼して来た。


「……なるほど。廉頗れんぱ将軍が正しいと。承知しました」


「頼む。長平で負けると、次は邯鄲だ。そうなると、遷都するかもしれない。邯鄲を落とされたら、趙国は終わりだ」


 長平で負けても、秦国は内輪揉めで邯鄲は落とせないんだよね。言わないけど。


「分かりました。魏と韓、楚に連絡してみます。合従軍が起こせれば、秦軍を追い返すこともできるでしょう」


「おお……。趙奢ちょうしゃも立派な息子を持ったものだ。安心して任せられる。それと、合従軍は私が動こう」


 評価変わってんじゃん。

 歴史を変えられるのであれば、まだ間に合うか?

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