バイトリーダー、仲間の勝利を確信する。

「3回勝負にしよう。見習い騎士チームは1回でも勝てたら僕から褒美を出す」


 予定にない発言をしたせいで、ルージュとジャミルがこっちを見てきた。

 どうせなら検証も兼ねたいからね。徐々にバフを強くしていこう。

 とにかく移動だ。練兵場には良い感じの台がないからね。

 行き先は併設された休憩所だ。

 ルージュの唐突な登場にメイドやオフの騎士達が慌てて起立し一礼したが、当のご令嬢は見向きもしない。気にするなとばかりに手をひらひらと振るのみだ。


「ここにしましょう」


 ルージュの一声でバトルステージが決定した。何の変哲もない大理石の円卓だね。2人用の小さなサイズのものだ。


「承知いたしました」


 ランスロットが円卓の向こう側に回る。邪魔な椅子をどかし、中腰になってごつい左腕を卓上で立てた。

 左利きなのかな。それともハンデなのかね。


「俺がリーダーでいいよな?」


 最も体格の良いボリスが勝手にランスロットと対峙した。

 異論は出ない。カイルとデニムは無言のまま左右からボリスに寄り添う。

 んー、筋肉の量が見るからに違うな。3対1なのに勝機を見出せないレベルだよ。

 見習い騎士チームのSTRはC・C・D。VITはB・C・Dだ。

 中央値で言えばBは70、Cは50、Dは30だから、STRは合算で130。VITは150になる。

 ランスロットのSTRとVITはAらしいから両方を90と仮定するが、やっぱ単純な足し算をしても無意味っぽい。ボリスのSTRを50とするなら、見た目だけならランスロットのSTRは500くらいありそうだもん。

 腕のフォルムからして違うからね。まさに大人と子供というくらいに。

 兎にも角にも、ラウンド1だ。まずは好きにやらせてみよう。

 見習い騎士チームの作戦はとてもシンプルだ。

 ボリスがランスロットの手を握り、左側からカイルが握手を全力で押す。右側からデニムが全体重を掛けて引く。3人の力をただ一方向に集めるという脳筋スタイル。


「では始めましょうか。レディ?」


 ジャミルは視線で双方の心構えを確認し、


「ファイッ!」


 勝負は一瞬だった。ガチで1秒もなかったと思う。

 ボリスの手はあっさりと卓上に倒された。勢いがあり過ぎて逆方向から支えてたデニムの体が軽く浮き上がったね。これは話にならんな。

 円卓との衝突音がやけに小さかったのは、ケガをさせないためにランスロットがギリギリで手加減したせいなのかな。寸止めというやつだ。


「勝てる気がしない」

「こんなの無理だろ」

「せめて5人はいないと」


 お陰で見習いどものモチベが一気に底をついた。負けてもご褒美とジャミルが言ってなかったら、2戦目はなかったと確信できるほどにへこんでる。


「じゃあ次は僕が支援しよう」


 その言葉にルージュとジャミルは納得したような顔を見せ、事情を知らないランスロットはとても不思議がった。見習い騎士はと言うと、


「アルベルト様が参加しても絶対に無理ですよ」

「ルージュ様とジャミル様が加わっても無理だと思います」

「勝てる要素がないですって」


 完全に負け犬の思考だな。さすが増長値が低いだけはある。


「その要素を用意するという話さ」


歯車の王バイトリーダー】――作動。

不可欠な歯車きみがいないと回らない】――起動。

鼓舞エール】――発動。


 特にモーションは必要ないが、3人の背中をポンと叩いてみる。


「よし、これでもう1回だ」

「……はぁ。結果は変わらないと思いますけど」


 そしてラウンド2。

 確かに結果は変わらなかった。

 けど過程は違った。

 さっきと違って腕が一瞬で傾くことはなかった。

 スタート直後はびくともせず、その様子にランスロットが困惑してたのが印象的だったね。

 見習い達に対戦相手の異常に気付けるほどの余裕はなく、顔を真っ赤にしてただひたすらにランスロットの腕を倒そうとしてたが、膠着状態は10秒ほどで終わる。

 徐々にランスロットが優勢になっていった。きっと力の入れ方を変えたんだ。

 これが経験によるものかDEXによるものかは分からないが、30秒ほど要したものの、今回もランスロットの勝利となった。


「団長、今って手加減しました?」

「全力でやったよ。だから私も驚いた。アルベルト様の仰った要素というものが作用したのかもしれないな」


 そう語るボリスとランスロットの表情はさっきまで正反対だった。

 ボリスには自信が、ランスロットには不安が見て取れる。

 

「ではさらに要素を追加しよう」


 俺の宣言でランスロットが警戒心を露わにした。


「カイル、デニム、きみ達の勝利を信じてるよ」


信頼トラスト】――発動。対象:カイル。


 名前:カイル

 年齢:16

 階級:下級平民

 クラス:【剣士】ソードマン

 STR:B

 VIT:B

 INT:C

 MEN:C

 DEX:A

 AGI:B

 LUK:B

 CHA:E

 増長値:15


「ボリス、きみなら絶対にランスロットを倒せる」


【依存】リライオン――発動。対象:ボリス。


 名前:ボリス

 年齢:15

 階級:下級平民

 クラス:【剣士】

 STR:B

 VIT:A

 INT:B

 MEN:C

 DEX:S

 AGI:A

 LUK:A

 CHA:E

 増長値:50


 ボリスのステータスが英雄レベルになった件。

 ステータスにS判定があるのか。CHAは上がらないのか。【鼓舞】との重複はしないんだな。というか増長値が一気に上がり過ぎだろ。

 などなど思うことは多々あるが、ラウンド3、いってみようか。


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